dice respect
dice-memberが厳選した作品の紹介。
魂をつなぐ媒体
 
書籍 vol.1 - 021015

原代

空の境界(からのきょうかい)上・下巻  奈須きのこ著

伝説的な大ヒットを飛ばした同人ゲーム、「月姫」のシナリオライター、奈須きのこ氏の小説。と言っても内容は月姫とリンクしている部分も多く、完全な新作というより月姫の原作という感じ。エンターテイメントな部分はゲームという事もあって月姫の方が強いが、小説版の方が奈須氏の味は出ていると思う。
メインの登場人物は主人公の両儀式と友人(恋人?)の黒桐幹也、幹也の雇い主で魔術師の蒼崎橙子、幹也の妹で後に橙子の弟子になる黒桐鮮花。式の宿敵の荒耶宗蓮の五人。この物語の主人公、両儀式は生物、無生物を問わずあらゆる物の死を視る事が出来る「直死の魔眼」を持っている。彼女とその友人達が超能力者や魔術師等、様々な異能力者と関わり、怪事件に巻き込まれていく。
アクションが主体の話というより魔術や怪現象、式の「魔眼」等が魅力的な雰囲気を作り出している。伝奇物ともミステリーとも違う一種独特のこの雰囲気は、私にとって創作意欲を刺激するとても心地よいBGMだった。新人という事もあってまだ洗練されていない部分は多いが先が楽しみな作家だと思う。

http://www.typemoon.com/kara/kara.html


MYO
ムダとり  山田日登志著(幻冬舎)

職場には、必ず分業の流れが生まれてくる。
だが、その分業の先にある組織化の流れは、我々が日々過ごす労働にも大きな変化を産みだす事にも繋がった。
組織に対して効率を求め、個人の持つ労働の拡大が齎す時間の概念を忘却させてきた。
経営と現場と言う層の違う視野の中で、利益と効率を求めた分業が生み出すどの職場にも根本的に共通するコンベア方式のフローへの問い掛け。
そして、大きくその従来の流れを変える一人屋台とも言えるセル方式への変革の必要性を謳った良書の一つだ。
我々は仕事に限らず物事の効率化を考えがちだが、実際にはそれは敷居が高い課題だ。物事と癖になるくらい向き合わないと、改めて自分の姿を見ることすら気付くことがないことが多い。
頭がやっこいうちに読んだほうがいい書籍の一つ。

ISBN4-344-00185-0


NIINO

北欧神話 宇宙論の基礎構造  尾崎和彦著(白凰社)

北欧神話の学術研究書。「巫女の予言」の翻訳を中心に北欧神話をいろいろな角度から見て「試論」を展開している。
もし、あなたが卒業論文などに「北欧神話」をテーマとしたいならば、この本は持っていたほうがよい。この本で書いてあることはあくまでも「試論」であり、結論は出ていない。だが、多くの問題提起はあなたの足掛かりとして役立つだろう。
そして何より、巻末の「北欧神話研究のための資料と文献」は、本当に役に立つ。何しろ、それまでは手当たり次第に本を漁るより他なかったのだ。目星が付くようになっただけでも、大分研究がやりやすくなった(もちろん、それらの多くは英語やドイツ語などで書かれている)。
なお、この本は10000円と少々値の張る本だ。
だが、それ以上の価値がこの本にはある。
また、学術書であるが、それゆえに神話学に興味のある人にとっては、非常に面白い本となっている。興味のある方は、読んでみる事をお勧めする。

ISBN4-8262-0077-3

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