ヨコハマ中華街&新山手

[ Chinatown BBS Log / No.96〜No.144 ]


明日へと続く目覚め

Handle : メレディー   Date : 99/07/04(Sun) 11:34
Style : ニューロ=ニューロ● ハイランダー◎


 ヨコハマLU$T。その再開発地区と呼ばれるスラムには、リトルカルカッタと呼ばれるインド人が多く住んでいる地区がある。
 そこに一つの診療所が看板を掲げていた。「Dr.EVE心霊治療所」とだけ素っ気無く書かれたその診療所は、スラムに住む貧しい人々をほとんど無料同然で診察していた。
 部屋の一つにベットがいくつも並んでおり、怪我人や病人が床についている。その一つ、窓際のベットに片目と全身を包帯で覆われた一人の女性がいた。女性はぼんやりと窓越しに人々で賑わっているリトルカルカッタの街を眺めていた。

「あら、気がついたようですね。お加減はどうかしら?」
 そういって先程部屋に入って来た、浅黒い肌をして白衣を着た女性が微笑みかける。二日前に彼女が黒い髪の男に担ぎ込まれてからつきっきりで看病を続けた、Dr.EVEその人だった。

「とりあえずは峠を越えたようね。担ぎ込まれたとき本当にダメかと思ったけど、ホッとしたわ」
 まるで我が事かのように彼女は云う。素直なその笑みにも、痛々しく彼女は戸惑うような表情をするだけだった。それにイブは動揺することなく、優しく尋ねた
「まだあなたの名前も聞いていなかったわね」

「わたし……私の名前は……メレディー。でも、私は……誰なの?」

 メレディー、と自分をそう呼んだ彼女は、病室の窓から遠くに沈む紅い夕陽をただただ眺めるだけだった。



“The Carmine 〜悪魔を哀れむ歌〜”...xyz...

 [ No.144 ]


“特異点”

Handle : “渡し守” クー・クロクル・クラカライン   Date : 99/07/04(Sun) 11:24


 昏い、ただひたすら昏い闇の底で、メレディーは両膝を抱えて座りこんでいた。寒さか、それとも寂しさからか彼女は小さく震えている。瞳には怯えたような光を弱々しく浮かべ、虚空をじっと見つめている。その瞳には何の感情も浮かんでいなかった。

 その彼女の足元に、ポゥっと灯かりが点ると徐々に燃えあがる焚火のように大きくなり、人の形をとった。そこには全身から蒼く淡い燐光を放つ、蒼いコートの男が立っていた。
 外套と同じ、透き通るような蒼い瞳を持った男は、顔を上に向けたメレディーと視線を交わす。哀しげで、どこか儚い微笑をその男クー・クロクル・クラカラインはメレディーに向けていた。

「ここが、どこだか分かりますか。ここはLU$Tアストラル。万物の魂が身を置く場所です。あなたはそこに迷い込んでしまったのですよ」
「迷い込んでしまった……」
「ここをさまようことができるのは死者の魂とこの世界に入ることができる能力を持つ者のみです。そして私はこのLU$Tアストラルでさまよう死者の魂を導く者。私が“渡し守”と呼ばれる由縁です」

 淀みなく喋る“渡し守”と呼ばれる青年は、外見の酷薄そうな印象とは違い、その言葉にはどこかしら温かみがあった。その温かみにメレディーは心穏やかにしながらも、次の疑問を口にせずにはいられなかった。
「……私は……死んだの……?」
 驚きでも哀しみでもなく、彼女は事実の確認を求めるかのように答えを求めた。その問いにクーは銀色の髪を静かに揺らしながら、首を横に振る。
「いいえ違います。あなたは死んだわけではありません。いってみれば、今のあなたは魂と身体が剥離した状態なのです。……ただあなたの精神と肉体は先程の闘いで深く傷つき、今その命の灯火は消えかけようとしているのは事実です。……ごらんなさい、あれを」

 そういってクーは広大な闇の一点を指差した。そこには先程までは見えていなかったが、漆黒の闇が渦巻き、いくつもの小さな燐光が吸い込まれていく。その光の本流はずっと遠く、果てしなく遠くまで広がっている。渦の中心はちょうどLU$Tの中心、確か“特異点”と呼ばれるものと一致していることをメレディーは直感で感じた。
「死んだ者の魂は、最後にあの“特異点”に辿り着くのです。特にLU$Tはその引力が強く、この一帯では死んだ者の魂がさまよい続けることはそうありません。ただ時々死んだことを実感できない者や現世への執着が強い者がおり、そういった魂を導くのは私の役割でもあり、宿命なのです」
「だが……あなたは死んでいない。……私は正直感謝しています。カーマインとの闘いは絶望的に見えました。あの闘いで奴を倒せなければさらに多くの人々が死んでいたでしょう。だがあなたは自らを省みず、犠牲となった。……だからあなたに問いたい……あなたはまだ生き続けたいですか?」

 突然の問いに、メレディーは驚きと戸惑いを隠せなかった。『あなたはまだ生き続けたいですか』……これまで彼女が生き続けてきたこの世界を振り返り、これからの未来を垣間見る。カーマインとの闘いでボロボロとなった彼女の生命の灯火が再び強く燃え上がり、その瞳に強い光を帯びさせる。
 彼女はその問いの答えとして、静かにそして深く肯いた。
「…私は、まだ生き続けたい。ここで流れに逆らえるのなら、私は私の全てを失ってもいいわ……」

 その答えに満足するかのように、“渡し守”はコートの片側を開き、その中から一際強く輝く光を取り出す。それは腕の形をしていた。それはアジームがクーに預けたカーマインの片腕だった。
「これはアジームという男から、私が預かったものです。彼はこのような強い力を持つものを誰かが所有するのは、再び同じような争いを生むだろうと云っていました。だから私に処分してくれと。……処分するついでに私がちょっとぐらいその『力』を使ってもまずくはないでしょう」
 そういって彼はまるで無邪気な子供のような笑顔を浮かべた。そして強い光から一筋の光の筋がメレディーへと注がれ、透き通るように存在感を失っていたメレディーの実像が生気を帯びたように力強く色づきその存在感を誇張しはじめる。

「あなたはまだ死ぬべきではなかったのかもしれませんね。あなたの助けを必要とする人々はまだ多くいるでしょう。さあ、お戻りなさい……」

 メレディーはまるで無重力空間にいるように、浮かびあがっていった。昏い闇の底から光の溢れる空への飛翔。
 遠くに特異点が暗黒の渦を巻き、次々に小さな燐光を吸い込んでいる。その一つに、哀しげな表情のアンソニーの姿を認めた。彼は一瞬彼女を振り返り、そして満足げな笑みを浮かべた。

 闇から光へとどんどん彼女は飛翔して行き、そして全てが白く染まった……

 [ No.143 ]


“代償”

Handle : “狂える車輪” アジーム   Date : 99/07/02(Fri) 02:50
Style : カゼ◎● レッガー=レッガー   Aj/Jender : 48/♂
Post : イエローキャブカンパニー"


物語は終焉を迎えた。

進むべき道を失い此の地に辿り着いた者たちと、人間の姿を借りたこの世有らざるモノとの終わりの見えぬ戦い。
自らがこれまで生き抜いてきた証を、その刃で、その弾丸で、その智恵で以って彼の者たちは知らしめた。絶望的な瞬間を迎えようとも、彼らは決して諦めようとはせず、そして自らの深淵を覗き込もうとしても、その瞳から魂の煌きは消えなかった。揺らめくことはあっても、決して。

戦いは終わった。
絶対者は彼らに追いつめられ、自らが完全ではないことを悟り、敗北を知った。休むことなく繰り返された攻撃は焦燥に駆られた証。立ち塞がる彼らをも一瞬にして蹴散らすことのできる力を手にしながら。

戦いは終わった。
諦めることを知らない彼らの証と、一人の女性の代償をもって。
そう、終わることを知らない戦いに、終焉の楔を打ち込むべき代償は支払われたのだ。

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いつのまにか降りはじめた雨は、いまは霧雨へと姿を変え、この街を覆い尽くしている。

霧雨に包まれた関帝廟の周りには、ようやくかけつけたブラックハウンドと企業警察、そして野次馬たちでごったがえしている。
いくつものスポットの白い光と、警察車輌のパトランプの紅い光に照らし出された関帝廟は、霧雨の中で幻想的に静かに佇んでいた。
それを遠くに見るように、少し離れた路地裏には古ぼけた蒼い三輪トラックが置き捨てられていた。明々と照らし出された関帝廟の影となるそこに、くたびれたコートを羽織って煙草を口の端に咥えたアジームはいた。

舞台から退場していく彼らを遠目に眺めながら、折れた右腕をそっと抱える。
紅いゴーグルの端からは涙が一筋流れ落ちた。痛みは、折れた右腕からではなく、大切な何かを失った心の痛みからだった。
遠い彼の地から聞こえてきた魂の叫び。そして別れを告げる寂しげな微笑。

「……カッコイイとこ見せようとしやがってよぅ…………」
そう呟くと、アジームは暗い路地裏へ消え去った。

主を失った車の助手席には、空になった黒いアタッシュケースが置き捨てられていた。

 [ No.142 ]


[ Non Title ]

Handle : 久高 風海香   Date : 99/07/01(Thu) 21:26
Style : トーキー◎=マネキン●=カリスマ   Aj/Jender : 20/female
Post : フリーのトーキー


「以上、現場から ”フミカ”がお伝えしました。」
マリオネットのネットワークを使ってのNEWZを放送し終えた風海香はため息を一つつく。
雨の降るごちゃごちゃとした現場の中、傷つき傘をさしたまま事件の様子をダイジェストにして放映した様子はまぁまぁの反響だ。
もちろん一部加工してダイジェストに使って? る。
真理と煉が写っている部分を人民服を着けた男性と戦闘用ドロイドに変えており、
男性陣は殆ど手を加えずにそのまま流している。
そして最後にカーマインがガンスリンガーの『一撃を受けて死ぬ』という形で事件のレポートは終わっている。

この偽造は急いでやったから多分腕のいいニューロには分かるかもしれない。

しかしこの事件の真相はまだ私には分かってない部分がアるのだ。
それなら全ての真相を語らなくてもいいではないか?
ここではまだ知らなくてもいい事はいっぱい在るのだから。

そして自分自身のやり終えた事を確認するかのように辺りを見回し悲しそうに一言つぶやいた。

「可哀想なカーマイン、今はゆっくり母親の元でおやすみなさい。」

そして彼女はこの現場を離れていく。
雨の降る”ヨコハマLU$T”に溶け込んでいくかのように・・・・

 [ No.141 ]


Farewell

Handle : "Load of Minster"ユージーン   Date : 99/07/01(Thu) 02:01
Style : カリスマ◎クロマク=クロマク●   Aj/Jender : 27/M
Post : フリーランス/元ブリテン国教会司祭


事後処理でごった返す関帝廟の門前に、一台の車が乗り付けた。ハウンドやシルバーレスキューといった各所属を示すデザインは一切なく、いかにも普通の乗用車と言った感じである。負傷者の手当や、事情聴取などで気を取られているせいか、車に目を留める者はそう多くはなかった。降りしきる雨の中、運転席から青年が降りる。凄絶な戦闘の後にはあまり似つかわしくない、濃紺のスーツを着た、おちつきと優しさを漂わせるヌーヴ系の顔立ち。薄い青の瞳が何かを探すように辺りを見回しながら、彼は廟へ続く階段を上る。
「お・・・おい!待て!!」
ブラックハウンドの隊員であろう黄金のバッチをつけた一人が、男に駆け寄って制止する。
「・・・何か」
「・・・あのなあ、何か?じゃねえだろ。この惨状見てわかんない?関係者じゃない人間が勝手に・・・」
「関係者ですが」
「なんのだよっ!」
落ち着き払った、懇切丁寧な受け答えにハウンドの隊員が声を荒げる。彼の目には、目の前の男の背後に『慇懃無礼』の四文字が見えているかもしれない。
「グレートエールアンドブリテンの者です。カーマインの遺体を引き取りに来ました」
一瞬、目の前の男が息をのんだ。ダークブラウンの髪に、薄い青の目をした青年ーグイン・フィッツジェラルド家の執事は、その様をただ見つめている。次に発せられる言葉を推測しながら。
「・・・そりゃあ、確かに関係者だな。だけどよ、来るのが遅すぎやしねえか?」
雨が止めどなく降り注ぐ。傘もささずに立ちつくす二人の周りで降りしきる雨音がBGMの様に流れ続ける。
「事態があまりに早く過ぎていってしまいましたので」
目の中に入りそうになる雨を拭いながら、アルバートが答える。
「それに、別のところでも事態は進行し続けていましたからね」
アルバートが廟の中へと再び足を向けた。ハウンドの隊員は黙ってその姿を見送る。相手のありとあらゆる『隙』を見逃さない、まさに猟犬の如き視線が濃紺のスーツの背中に注がれる。痛いほどにそれを感じながら、忠実なる執事は彼の仕事を果たすべく階段を上る。
途中で長い黒髪の女性を抱きかかえた人物とすれ違った。細く降り注ぐ銀線、そのカーテンの向こうに見えた彼の顔は見覚えのあるものだった。しかし、この時ほど静かで優しさをたたえたその人の表情を、アルバートは見たことがなかった。すれ違いざまに軽く会釈をする。視線は向けられたようだが、彼はそのまま階段を下りていった。
廟の中でも、この事件の発端に関わった人間たちの顔を何人も見た。カメラを抱えた女性、負傷した黒と黄金の騎士。彼らを横目にしながら、アルバートは目的のものを探す。そして、彼の目が布で覆われた何かをとらえた。無言で側による。周りを囲んでいたハウンドの隊員たちは、先刻廟内にはいる前にあった隊員から何か連絡を受けていたのか、何も言わずアルバートを見ているだけだった。壊れ物を扱うように、慎重な手つきでアルバートが物言わぬ骸を抱える。
「”彼”を引き取って、ブリテンはそれで良いんですか」
アルバートが立ち去ろうとしたとき、一人の隊員が声をかけてきた。最終的にはオペラのように大仕掛けとなった惨劇の幕開け、それを目撃していた青年だった。
「・・・ええ。ここの墓地管理はあまり当てには出来ないようですから・・・」
濡れそぼった髪をうっとおしく思いながら、それでも静元に小さく笑顔を向ける。しかし、彼の態度に含まれているものは”笑顔”で表しきれるものだけでは到底なかった。
「雪と氷の大地で、ゆっくり眠らせてやりたい。そう、主が申しておりますので」
「カーマインのことを認めると?」
「今、私が抱いているのは不幸な女性の遺体です。・・・それでは」
そういって、アルバートは来た道を戻っていく。強くなるばかりの雨がその姿を霞ませるのに、そう時間はかからなかった。

遺体を引き取れ。
そう言われたとき、アルバートは反対した。これ以上”我々”はカーマインに関わるべきではないと。千早との無用な軋轢まで生みかねない、と強い口調で主に言った。しかし、主は首を縦には振らなかった。理由は語らなかった。
ただ一言、
『駆けり逝く魂の守り手にぐらい、なったところで罰はあたらんだろう』
それだけを呟いた。

http://www.teleway.ne.jp/~most [ No.140 ]


Stray Hound in Rest

Handle : “光の弾丸”静元星也   Date : 99/06/30(Wed) 12:00
Style : イヌ◎,マヤカシ,カブトワリ●   Aj/Jender : 22/male
Post : BH生活安全課


 関帝廟の雨は霧雨に変じていた。それは不快なものではなく、戦いに疲弊した肉体と火照った精神を沈め、血と砂を洗い流す心地よいものだった。
 SSSの騎兵隊が集まり、物見に人間たちが集まり、静寂に包まれていた公園は再び賑やかになっていた。
 腰を下ろし、ぼんやりと破壊されたウォーカーを眺めていた星也は、懐かしい光景に顔を上げた。
霧の中に輝く黒と黄金の紋章。紅く輝くしるし。彼の仲間の近衛騎士団も現場に到着したのだ。見覚えのある顔が何人か走ってくる。上司の顔もあった。
 渡してもらった毛布で顔を拭き、傷を見てもらいながら、星也は公園を見渡した。
 ある者は公園に佇み、ある者は運命の舞台からいつのまにか姿を消していた。傘をさしたトーキーの女性がカメラの前で、何事か話している。その様子に星也は何故か、N◎VAにいる自分の姉のことをふと思い出した。
 紅玉の瞳を持ったあの娘はもう消えていた。大して話もできなかったが、何者だったのだろう? そして、彼女を抱いて黒塗りの車に消えていった三合会の男――銀色の“剣”を一同に渡していったあの男も。
 両側から支えられ、上着を羽織った彼は群集の方へ歩いていった。シルバーレスキューの車も到着している。彼が近づくと、一層喧燥が大きくなった。
 星也はもう一度現場を振り返った。パトリチェフの残骸は何も反応せず、ただサイレンの紅い光を反射しているだけだ。
――猟犬が相手をするには、大きすぎる相手だな。

 だがこの事件が終わってからほどなく、彼はこの運命の舞台で出会った何人かと再会することになる。そして、欲望の街の鋼の巨人たちにも。

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/repo/990619.htm [ No.139 ]


ゲームの終わり

Handle : “魔人剣”御道ライ   Date : 99/06/29(Tue) 20:23
Style : カタナ◎●・チャクラ・バサラ    Aj/Jender : 31歳・男
Post : 御道警備保障


モニターに写し出された鋼鉄の巨人から躍動感が失せ、前のめりに倒れこむ様を見届けるとゴードンは静かにイスに体を預けた。
軽く握った両手の拳を額にあて、祈るような仕草をすると、ゆっくりと窓外に広がるNOVAの街へ顔を向ける。
災厄の街はすっかり夜の帳につつまれ、銀糸のような雨が降りそそいでいた。
「ごくろうさま・・・幕間は短いですよ、ゆっくりお休みなさい。」
ゾッとするほど何の感情もこもらない声音で誰にともなく告げる。
傍らにひかえる忠実な秘書は主のその様子を哀しげな表情で見守っていた。

同じ時。

銀の魔女エヴァンジェリンは不意に現れた殺気に振りかえった。
見ると、先ほどまでだれもいなかった屋上に一人の男が立っている。
2メートル近い堂々とした体躯の男だ。
極限まで鍛えぬかれた体に余分な脂肪は一片とてないだろう。
それは分厚く黒いロングコート越しにも容易にうかがいしれた。
気の弱いものならそれだけで絶命しそうな程の殺気が見えざる刃となって銀の魔女へと叩きつけられる。
「そこをどけ。私には、これからかたづけねばならん仕事があるのだ。」
まるで臆することなく魔女が言い放つ。
と・・・
それまで彫像のように無表情だった男の口元が不意にほころび、肉食獣をおもわせる剣歯がのぞいた。
「安心したぜ。アンタがこれくらいでビビるタマじゃなくてな。」
「私は失望したよ。噂に聞く“魔人剣”がこの程度だとはな。」
魔女もまた氷の面に微笑をうかべ、言った。
「あいつらは一仕事終えたところだ。かわりにオレが相手をしてやるよ。」
そういうと、“魔人剣”御道ライは左足を軽く引き、半身にかまえた。
暴風のように荒れ狂っていた殺気がピタリとやむ。
それに答えるようにエヴァもまた、細緻な装飾を施したサーベルを横に薙ぐように抜いた。
刀身に刻まれた十字架の紋章が街の光りに反射する。
「荒良木一刀流、宗家 御道ライ、参る。」
中華街の夜闇を貫くように閃光が走った。

 [ No.138 ]


“吐息”

Handle : ”不明者”来崎煉   Date : 99/06/29(Tue) 13:30
Style : カブキ◎、カタナ=カタナ●   Aj/Jender : 27/female
Post : Kriminal


土砂降りの雨の公園で。
大きく息をつく。
変形した左腕が『持って』いるのは、千切りとられた自分の右腕。
疲れた。本当に、疲れた。
雨の降る空を見上げて、たたずむ。目は見開いたままだ。
眼球に滴が落ちることも気にしない。
ぼんやりと、たたずむ。

ウォーカーを一緒に破壊した紅の瞳の女性は、煉に軽く微笑みかけるとふらふらと近くの柱に移動して、寄りかかる。
誰かに額を撃ち抜かれたさっきの女性の死体・・・煉は直感的に彼女こそが“蛇”──カーマイン・ガーベラであったことを察知した。
千切りとられた右腕を拾い上げる。
去っていく人々に向けて、煉はぼそりと呟いた。
「私と、あの勇気ある人々、そしてかの“蛇”に暫しの安息を・・・
 ただこの時に存在した、そしてただかの“蛇”をうち倒した勇気あるものたちに祝福を・・・」
まるで聖職者のようなつぶやき。威厳ある呟き。
そして彼女は誰にも悟られることなく去っていく。

そしてまた駆け出した彼女は、どこだかわからないこの公園にたたずんでいる。
黒衣は雨に濡れその減り張りのある肢体が露わになっている。が、それは彼女にとって大した問題ではない。
「どこ? どこ? 何処にいるの?」
そんな声が聞こえて、彼女はゆっくりとそちらを見る。
全身血にまみれた女性が狂ったように舞い踊り、歌いながら走っていく。
煉はそれを母親のような瞳で見つめ、少し微笑む。悲しげに。
「私は・・・結局、誰も、救えなかった・・・な・・・」
雨の中、公園のベンチにもたれかかる。
小さく、嗚咽。
慟哭。

そして、雨がやんだヨコハマLU$T。
彼女は一人街をさまよう。
誰かを救いたい。
そのために。その気持ちのために。

 [ No.137 ]


Blue Rain

Handle : “賭侠”劉 家輝   Date : 99/06/29(Tue) 04:09
Style : 黒幕◎,歌舞伎●,兜割   Aj/Jender : 27歳/男性
Post : 三合会顔役


関帝廟から出てきた目に最初に入ったのは、“眠り姫”だった。
起こさない様に、コートをそっとかけてやる。

……その時、柱にもたれて眠る女性を美しいと感じた。

「御疲れ様・・・真理さん」
そう囁いて、車まで抱きかかえていく。

「…彼女が起きない様に、ゆっくり走ってくれないか…」
運転手に、そう告げると、車は静かに現場を離れる。
…音量を絞ったラジオからは、災厄前の歌が流れる…

 摩天楼蒼く煙らせる雨は
 おまえの流した涙のようだね
 見えない絆を確かめるように
 何度も振り向く背中が辛いよ


……あどけない寝顔をいつまでも見ていたいと思った…。

 [ No.136 ]



Handle : メレディー   Date : 99/06/28(Mon) 19:17
Style : ニューロ◎、ニューロ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢22 / 女性
Post : LIMNET電脳情報技師 特級査察官


薄暗く仄かに瞬くスモッグが低く、降りてこようとしている。
新山手の開発地区の喧騒に寄り添う様に佇む公園にも細かな雨が降り始め、施設の辺りの小高い丘の様になった場所をゆっくりと濡らしてゆく。
「ねぇ、ママ」
近くの小道を歩く子供が傍らの母親の裾を引っ張りながら母親の顔を見つめ、声を上げる。その頭に手を当てながら母親は答えた。
「どうしたの?」だが子供は母親の顔を見つめたまま、それ以上答えない。
だがゆっくりと腕を上げ、小道のベンチに座る女の姿を指差す。
最初は我が子の挙動に戸惑う母親だったが、指差すそれを目に留めると顔色を変え、悲鳴を上げながら子供の身体を引き寄せ、その場を走り去っていった。

大粒になってきた雨はベンチに座る彼女を激しく打付け始めた。
豊かな髪は血と雨の雫に汚れ、身に付けた服はそこらかしこが焼け焦げている。
やがて、大粒の雨が彼女の身体を濡らし始め、左目から血を流し、火傷に引き攣る身体の痛みが静かな暗い闇に眠る彼女を呼び始める。
だが、本来彼女に宿る輝きは既に奥深く沈み、呼び起こされる気配すらない。
静かに降り続ける雨をやり過ごそうと、電気仕掛けの鳥達が近くの木立へとその姿を納めてゆく。
その内、一羽の鳩が彼女の座るベンチへと降り立った。
「・・・私ね、人を待っているの」
身を突く痛みですら揺り動かなかった彼女がゆっくりと口を開いた。
鳩は公園に遊ぶ他の鳥達と同様、近くにいる彼女へと愛玩を求めて近寄る。
涙に濁った片目で空を見上げ、彼女は血に塗れた両手を伸ばした。
もうその腕が何かを掴む事も無く、その身体が誰かにかい抱かれる事も無いかもしれない・・・それは酷く痛々しい姿だった。
愛敬を見せて鳩が彼女の腕へと飛び移る。
その鳩はその場を理解できないのか、ただ、その瞳を見つめるだけだった。
彼女はゆっくりと顔を綻ばせて微笑む。
「やぁ、待たせたね」男は雨に濡れるコートを気にもせず、大きなスーツケースに半ば身を預けるかの様にいつのまにかその側に立ち、彼女に笑顔を向けた。
微笑みが消え、血に塗れたまなざしでみつめ返し・・彼女は泣いた。
「遅い・・・遅すぎるよ」
それは、降りしきる雨にかき消されそうな程、小さな声だった。
「すまない。もう時間が無かったんだ」雨に濡れた両手を彼女の肩に掛ける。「良くやってくれたよ・・誰も彼もが」
「・・・でも・・間に合わなかった」
男は自嘲した。
「全てを知る人間が全てにおいてそれに勝る訳じゃないよ・・メレディー。いずれこうなる流れだったのかもしれない」メレディーは血に塗れて震える両手を伸ばした。「流れには逆らえないよ・・僕等は。波間に浮かぶ・・泡沫の様なものさ」
「でも・・・でも」
男は伸ばされた彼女の両手を優しく握った。
「君の見たその時は訪れるべき時に訪れる」
彼女は声をあげて泣き始めた。
「私・・・私」
「もう行かなければ」
男は厳しい目をその空へ向ける。
「時が満ちる瞬間はもうそこだ。昇華の宴が・・始まってしまった」
男は現れた時と同様に、唐突にその姿を消した。
『【渡し守】がね、来る前に僕は先に行くよ』
雨に濡れる空から、雫を垂らす森から、そこらかしこから響く声がメレディーを包んだ。・・・やがてその声も聞こえなくなる。
「あははははははは」
弾かれた様にメレディーはベンチから立ち上がる。
涙に濡れていたその顔は今は幼少の頃の遊びに戯れる子供の様な虚ろな笑顔で満たされている。
「どこ? どこ? 何処にいるの?」
彼女は気がふれた様に舞い踊りながら歌いながら公園の小道をかけて行く。
その姿には言い様の無い静かな狂気が共に舞い踊る。

極限の恐怖と死の世界から招かれる自我の崩壊が生む幻覚とそれが紡ぐ世界は、強く輝く現実だ。
もう既にこの世界から姿を消し・・・死んだ人間の姿や声にふれる事が出来るのだから。

メレディーは駆けて行く。
その先を誰も知らない場所へと・・・
彼女が何処へ行くのか・・・今は誰も知らない。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.135 ]


北斗を刻むもの

Handle : “賭侠”劉 家輝   Date : 99/06/28(Mon) 18:50
Style : 黒幕◎,歌舞伎●,兜割   Aj/Jender : 27歳/男性
Post : 三合会顔役


「………!」
ボンヤリした意識が、“蛇”の断末魔で一気に覚醒した。
「痛っ……肋骨が、二三本ってトコですか…」
そう自己診断しつつ、雨に濡れる瓦礫の山から身を起こし、関帝廟の残骸の中へ……。

歩み去る探偵と擦れ違う。
探偵は、無言で銃を投げる。
黒幕は器用に受取り、鮫の様に笑う。

蛇”の骸の前に足を止め、無表情にシリンダーの残り全弾を叩き込む。

「……6発の銃弾に、姫君の一撃……なんとかプログラムは完成しましたね…」

誰に言うでもない呟きを残して、身を翻す…。

 [ No.134 ]


静寂の……果て

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 99/06/28(Mon) 16:34
Style : カタナ◎レッガー●カリスマ   Aj/Jender : 23/female
Post : N◎VA三合会


静寂。
ゆっくりと糸が切れた人形のように、額と胸に穴をあけた女性─カーマインが倒れた。
舞うような仕種で剣舞を披露し、ウォーカーを破壊した真理は舞いをひらりと止め、視線の片隅で確認した。──考えなかった可能性ではないが、ここまで見事に騙されると、驚くというより自分の失態にあきれるというものだ。
真理は、疲労と痛みでふらつく体を抱きかかえるようになだめると、緊張を解く為に軽く溜息を吐く。

事態は一応の終幕を迎えたらしい。

ウォーカーを一緒に破壊した、黒衣の女性に軽く微笑みかけると真理はふらふらと近くの柱に移動して、寄りかかる。ブースタ・マスタの効果が切れてきているらしい。
「…皆さん、ご苦労様。一応終わった見たいね」
援護をしていた猟犬に、腕のいい探偵に、黒衣の女性に艶やかな笑みを浮かべながら、真理はそういった。
空をみあげると、どんよりとした雲が夜の闇へと誘われようとしている。
見上げた真理の顔にぽつりと冷たい雨粒が落ちてきた。
「…ご苦労様、劉さん。貴方の手配がなければきっとこううまくいかなかったわね」
黒眼鏡の華僑に向かって、さらに艶やかな笑みを浮かべた。そして……心の中で、メレディーという会った事のないウェブの姫君にも……。
軽く頭に疲労によるめまいを感じて真理は頭を振る。
「…私は大丈夫だから、大騒ぎになる前に撤収を……」
真理は空を見上げながら、ゆっくりと柱にもたれかかっていった。意識がまどろみの中へ誘われていく。
そして倒れた真理の上に、全ての悪夢をを洗い流すかのように、関帝廟に雨が降り注いでいった。

物語は静寂の果てに一応の終幕をみせた。しかし──
のちに真理は、この事件が終わっていなかった事を身をもって知る事となる。

 [ No.133 ]


『JOKER』

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/06/28(Mon) 11:52
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 2?/M
Post : Freelans


 銃弾の一撃で絶叫をあげ倒れゆくカーマイン…。その予想外の正体にウェズは内心驚愕した。
 『真実』を暴かなければ自分が殺されていたことは百も承知だ。
 しかし…いつもながらなんと『真実』は残酷なのだろう。
 彼は”黒の剣”を本来の持ち主に投げて返す。それと同時にコートを翻し、現場を素早く立ち去った。
「…あばよ、バディ。いずれ地獄で会おうぜ…」
 風に乗って聞こえた言葉は鎮魂の言葉か、再会の約束なのか…

---------------------------------------------------------------------

 LU$T中華街での事件から数日後…。

「…はい…、わかりました…。社長、例のお客様が見えておりますが…」
「わかりました。お通しください」
 モスグリーンの紳士服に身を包み、ミラーシェードをつけた男が客の到来を告げた秘書らしき女に声をかけた。女がなにやら操作を行うと、ミラーシェードの男の目の前の扉が開き一人の男が姿を現した。着崩しているとはいえフェイトコートに身を包み、鋭い視線でミラーシェイドの男の様子をうかがっている。その様子、物腰から彼は探偵に見えた。
「お約束の<本物の報告書>、だ。三合会には伏せておいた情報もすべて入っている。『あれ』の正体についても、ね」
 探偵はフェイトコートのポケットに手を入れる。一瞬ミラーシェイドの男にかすかな反応の動きが見えた。しかしすぐにそれを解く。探偵はなにやらチップをつかみ取ると、ミラーシェイドの男の前に放り投げた。
「わかりました。しかしやはり直接話を聞かせてもらいましょう。『あれ』は一体なんだったのですか?」
「『あれ』というと…例の腕の事かな?」
「そうです。”アジーム”と名乗る男が持ち去った腕、あれはいったい何だったのですか?」
「アジームが持ち去った腕、古の『蛇』の封印は実はすでに解かれているのさ…。あれにあるのは、『アラストール』となのる存在の残滓、力の一部だけにすぎない…。もっともそれだけでもカーマインの傷を癒しておつりがきたはずだがね」
 そう言うと彼は煙草を探そうとフェイトコートの中を探った。しかし目的の物がなかったらしく、ばつの悪そうな笑みを一瞬だけ浮かべて次の話を始めた。
「封印を破ったのは『銀の魔女』…って奴だ。こいつは三合会には知らせていない。伝説らしき情報だけを渡してお茶を濁した。奴らはそこまでの情報は求めなかったからな」
「『銀の魔女』?」
「そう『銀の魔女』。数百年前から裏の犯罪史に登場している高位の術者。ハザード前、第一次世界大戦とやらの戦争時のドイツの…『鈎十字騎士団』という集団にもシュティーベル大佐として彼女の記録が残っているらしい。眉唾物だがね…」
「どこで手に入れたのです…そんな情報を」
「企業秘密(ないしょ)。ニュースソースは秘匿しろってお袋さんに言われなかったかい?」
 予想外の情報に驚きの声を上げた『社長』に彼は意地悪い笑みを浮かべた。
『あれは危険すぎます!ウェズリィさん、貴方の手に負えるような代物じゃ…』
 探偵の情報を提供した友人、真教教会/聖母殿退魔局第13課に勤める本職の退魔師はそう叫んだ。彼がそう言ったのなら、あれは相当危険な代物なのだろう…。これ以上手を出すことはあるまい。
 ウェズの話は核心に入った。
「つまりは、こういう訳だ。あんたの所のアンソニー君。魔女さんは彼を言葉巧みに利用してブリテンに案内させ、元々ブリテンのエージェントだったカーマインをつかって国内を混乱させた隙に封を破ったのさ。アンソニー君の肉体はアラストール復活のための生け贄にし、アンソニー君の魂はナノマシンの集合体にすぎなかったカーマインの人格を作りあげるベースにされちゃったと言う訳」
「あの『カーマイン』は魔女の主、アラストールが力を取り戻すまでの時間稼ぎにすぎない。
あんたの所のゴードンは初めから彼女とその狙いを知っており、私兵をつかって復活を阻止しようとしていましたが、みごと失敗。今回の騒ぎになっちゃったわけさ」
「アラストールは多分これで一応復活をとげただろう…。それはニュースソースの方も確認済みらしい。だが、あまりにも不安定でまだ力の一部しか振るう事ができない状態にあります。ま、当分は魔女さまが主人にかわり動く事になるだろうさ」
 話が終わった彼はそこで一つ溜息をついた。これ以上は自分の手に負える代物ではない。化け物退治は自分の領域ではないのだ。彼の頭をそのような想いが駆けめぐっていた。彼は最後の言葉を吐く事に決めた。
「俺の話はここまでだ…質問は?」
「………特に……ありません。よくそこまで…」
「金はゴールド一枚で結構。ただし…」
「わかっています。これからもよろしくお願いします。私でよろしければ…」
「ありがとよ。そんじゃ」
 報酬を受け取り、軽く手を振って立ち去ろうとしたウェズの足がぴたりと止まった。再びポケットの中に手を入れなにやら探していたようだったが…。次の瞬間、彼は『社長』に向き直った。ばつの悪い笑みを再び浮かべて。
「なぁ…”千早雅之”さん。悪いんだけどもう一つわがまま言っていいかな。煙草…わけてくれない?」
「ええ、かまいませんよ。好みの銘柄は?」
 薄く笑って反応を返した雅之に向かってウェズはこう呟いた。
「そんじゃ頼むぜ。銘柄は『JOKER』で」

http://www.mietsu.tsu.mie.jp/keijun/trpg/nova/cast/cast03.htm [ No.132 ]


彼女の死

Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/25(Fri) 20:01
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ     Aj/Jender : 28歳/男
Post : ?


煉が咆哮をあげ、パトリチェフに向かって跳躍した。
各サイバーウェアによって総重量が100sを軽く越える彼女の体がさながら黒い弾丸のように加速する。
カーマインの注意が煉に向けられると同時に秦も動いていた。
もてる最後の力を振り絞り、間合いをつめる。狙うは下腹部に装備されたガトリングガンだ。
ウェズリィは受け取った“剣”をかき抱くように目を閉じ、わずかな気配も見逃すまいと精神を集中させている。
星也も援護のため、発砲しつつ場を移動する。
これが最後のチャンス。
おそらく、これを逃せば自分達に反撃の機会は二度と訪れることはないと各々が覚悟を決めていた。
しかし、無情にも関帝廟の全ての“目”を支配する死神はこの行動を予測していた。
パトリチェフはマシンとは思えないなめらかな動きで一歩後退すると、2門の90ミリ砲を煉に、ガトリングガンの銃口を秦に向けた。
彼女達はまだ、間合いに達していない。
まず、凄まじい轟音とともに90ミリの砲弾が煉を直撃した。
何かが中を舞い、星也のすぐそばに突き刺さる。
それを見た若い警官の顔から音を立てて血の気が失せた。
それは盾状に変化した煉の右腕だったのだ。
爆煙を貫いて煉が再びパトリチェフへと迫る。
しかし、眼前にはもう一門、右腕の90ミリ砲が立ちふさがっていた。
同時にガトリングガンがピタリと秦にポイントする。
神よ!
誰もが天を仰ぎ、何ものかの名を唱えた。
しかし、最後の時はいつまでも訪れはしなかった。
「AGAAAAAAああああAああああA!」
かわりに、カーマインの絶叫が関帝廟中にこだまし、鋼鉄の巨人の動きが止まる。

いち早く異変を肌で感じとったウェズリィが銃を撃った。
「オオオオオオオオオ!」
「ハアアアアアアアア!」
煉と秦2匹の美獣の咆哮が見事に唱和する。
シュキィィィィン!
そして、甲高い金属音が鳴り響いた。

全ては一瞬の内に起き、そして最後はあっけなく訪れた。
無敵と思われた巨人が片膝を付き前のめりに倒れた。
右腕とガトリングガンの砲身が鮮やかな切断面を見せ、地面に落下する。
そして
今だ硝煙の煙が残るウェズリィの銃口が向けられた先には・・・
そこには、あの、死んだはずの女性がいた。
額には確かにウェズリィの銃から発射された弾が撃ち込まれた痕がある。
不可解な事に胸にも何か槍のようなもので突き刺されたような傷が黒々とした穴を見せていた。
「メレディィィィィィィィィィィ!」
絶叫とともに、その口が彼らの知らない女性の名を叫んだ。
それはまぎれもない、死神カーマインの断末魔の声だった。

 [ No.131 ]


紫電

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/06/25(Fri) 11:49
Style : KABUTO   Aj/Jender : 2?/M
Post : Freelans


パトリチェフの砲撃は続き、壊したはずの単分子ワイヤーもいつの間にか数を増やしている。
紅の花弁を撒き散らし、華が舞い散る。
ウェズが対応できたのは、間違えなく戦場で磨き上げられた特異な反射神経のおかげだった。
物陰に飛び込んで輪胴から銃弾を確かめる。
そうだ、愛用の銃に入れ替える時間はもうない。躊躇う時間すらも。
一回息を吸い込んだ。
硝煙混じりの懐かしい空気、戦場の空気が嫌でも俺を忘れたはずの過去へと引きずり込む。
所詮偉ぶったことを言ったところで、自分も<殺人機械>だという事を思い出させる、そんな一瞬。

思考トリガー。
(オーバードライブ、ブーストマスター、アドレナリン制御、”クロックブースト”、”スナイパー”…)
景色が凍る。空気が凍る。時間が凍る。
ドラッグ・スタビライザ内からの”クロック・ブースト”の影響か、全てのものが色褪せ、そして速度を落としてゆく。それはまるでコマ落としの映画を見ているかのよう…。

「カーマイン・ガーベラ!!!何処だ!何処にいる!」
一瞬影が揺らめいた。わずかな動き。普通の人間なら見逃すほどの。
しかし、感覚がとらえると同時に、ズボンのベルトに引っかけていた”黒の剣”を一瞬で抜き放つ。それは当に紫電の動き。
そして銃声が響いた。

http://www.mietsu.tsu.mie.jp/keijun/trpg/nova/cast/cast03.htm [ No.130 ]


絶望と希望の傍らで

Handle : 久高 風海香   Date : 99/06/25(Fri) 00:45
Style : トーキー◎=マネキン●=カリスマ   Aj/Jender : 20/female
Post : フリーのトーキー


さっきからの光景をカメラに撮り続けていた風海香は息を飲んだ。

関帝廟前門を半壊させたパトリチェフ、
さっき助けられた人民服の女性、黒と金を身にまとった騎士、そして見事な銃の腕前で鋼鉄の蛇達を消し去ったフェイト風の男。
ぱっと見た感じでは最後の敵に立ち向かう勇者達といったところだろうか。
「撮り続けなければ・・・」
さっき彼女と約束した言葉が脳? に響く。
『約束は守らなくちゃね。』
苦笑したその時、
凄まじい振動と轟音が関帝廟を揺るがせた。
爆風によって隠れていた建物の壁に体ごと叩きつけられる。
「!?」
とっさにカメラを抱えるがその変わりに左腕を強く打ちつけてしまった。
「・・・痛っ!」
カメラを抱えながら彼女の周囲を見渡すと爆発の中心地から少し後ろに下がったところで

まだ住民が非難しきれずに残っていたらしく、? ちこちに怪我人が出ていた。
急いで関帝廟に向かおうとするとレスキューのサイレンを響かせて一台の銀色のバイクが走ってきて風海香の傍らで止まった。

「シルヴァーレスキューです。
誰か怪我なさった方いらっしゃいますか?」
見るとそのバイクにはシルヴァーレスキューのエンブレムがついている。
珍しいバイクのレスキューだ。
「そこの貴方、怪我をしていませんか?」
「え?私??後でいいわ。
他の怪我の酷い方から手当して頂戴。」
とレスキューの隊員にいって
関帝廟の方に走り出す。

『最後まで見届けなければ』

その思いを胸に秘めて・・・

 [ No.129 ]


Broken

Handle : メレディー   Date : 99/06/24(Thu) 21:34
Style : ニューロ◎、ニューロ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢22 / 女性
Post : LIMNET電脳情報技師 特級査察官


ゆっくりと守りの輪を広げながら、グリッドに浮かぶパトリチェフのアイコンへとメレディーは同期する。
だが、のたうちながらその姿を変容するアイコンの言い知れぬ恐怖感はデコイを通しても伝わり、どうやっても拭えない。
案の定、パトリチェフのトロンへと接触すると、その恐怖は現実へと姿を変え想像以上の脅威でのしかかった。
『Haaa.....オンナぁッ!!』
グリッドを揺るがす咆哮に震えながら、それを振り切るの様に端末の耐える限界の速度まで自らの処理を回線へと叩き付けてゆく。
しかしそのタイミングに、まるで示し合わせていたかの様にパトリチェフから真紅の枝が無数に伸びてくる。もはやどちらが先かすらもわからない。
『...あぁ....』
メレディーは悲哀のノイズに震える。 これなのだ。これを恐れていたのだ。ナノの脅威を身を持って知るこの瞬間に恐れ、ぎりぎりまで本能が自らを押さていたのだ。
パトリチェフのICEをブレイク。だが瞬時に、手元のデコイが焼かれる。
『Zap!Zap!!』
狂喜するソレの声と共にのしかかるサージにグラスが吹き飛び、左目にガラスが突き刺さった。痛みにうめきつつメレディーは時間一杯まで築いた攻勢防壁を立たせる。
だが、それよりも早くパトリチェフの砲撃にも似たソレのクラックがメレディーにのしかかる。
頭痛が耐え切れない程にまで酷くなり、恐怖に押し流されそうになる感情を必死に両手で掴み続け、尚もメレディーは声を上げ抗う。
『...ソンナもん捨てちまエよォ...』
攻勢防壁で凌ぎきれる恐怖ではもう無かった。何よりも正気を失いそうになり、メレディーは焦りトレースを錯綜させる。だが更に、それを合わせてソレのトレースも絡み始めた。
『...KKカカカカKaカァッ!! そこかァ!!!』
その瞬間、メレディーはソレと自分の互いの防壁の隙間から、はっきりと2人の視線が絡むのを感じる。
すると先程まで見えていた映像がアンソニーブラスコの映像のシルエットと重なり、自分とその彼の間にはただ一本の蒼く光るグリッドの糸が伸びていた。

音も聞こえず、ノイズも伝わらない。ただ目の前の映像だけが酷く重い現実としてメレディーに触れていた。
声が出せず、泣きながら彼に歩み出そうとする。だが、そのメレディーを彼は目を閉じたまま手で遮り、残った片腕で見知らぬ血塗れの女性を強く抱きかかえた。
そしてやおら立ち上がり、ゆっくりとその両目を開いてゆく。
あの時、あの路地で見つめたあの疲れながらも澄んだ目が変わらず、メレディーを見つめた。
だが、そのすんだ両目がゆっくりと真紅の色へと染まる姿へと変わって行く姿と現実に、メレディーは小さく呟いた。

『...終わるのならば』
今や彼の瞳は真紅の色に染まり、開いた口からは獣を思わせる牙が覗く。
『...終わらせられるのなら』
彼がソレとなり、オンナを抱えたままゆっくりと近づいてくる。
『...私は....』
『Yaaaa、お嬢さん。お遊びは....終わリダァッ!!!』
片腕の爪が凶悪なまでに伸び、それを死神の鎌の様に振り上げる。
『...私は...!!!』
メレディーも自らの腕に銀色の神槍を構え対峙する。
『メレディーィッ!!!』
想像を絶する圧倒的な力を漲らせたカーマインの鎌がメレディーを引き裂く。
メレディーは引き裂かれる痛みに叫びながら、自らの槍をカーマインに打ち込む。
鎌はメレディーを袈裟懸けに切り裂き、槍はカーマインが腕に抱えるオンナへと突き刺さる。
『ko、kkkono、このオンナぁ! 最後の...最後まで!』
メレディーは崩れ折れながら声を絞り出す。
『...さぁ...皆に相手してもらいなさい...カーマイン』鎌が齎す黒い狂喜に、ゆっくりと自我が崩壊して行くのを感じる。『貴方のその身体と飛び立った貴方が消えるまで...弾が...無くならない...ゲームよ』
崩れ倒れ、彼女の視界から意識から......光が消える。
それは....カーマインが強く望んだ、一人の、ある女の...最後だった。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.128 ]


“焦燥”

Handle : “不明者”来崎煉   Date : 99/06/24(Thu) 15:54
Style : Kabuki◎,Katana=Katana●   Aj/Jender : 27/female
Post : kryminal


(何処だ!? 何処ダ!?)
気配が掴めない。
それは焦りのためだけでなく。
また、相手が“蛇”であるためだけでもない。
煉の脳を支配する圧倒的なまでの怒りの感情。
それが煉の冷静さを押し流してしまった。
そして・・・

高速で飛来する物体。とっさに両腕を盾にし、軽く後ろに飛ぶ。
脳裏で何かが起動する。
(Automatic Diffence mode : type "C" is Running...)

地面に叩き付けられる衝撃──は、なかった。
空中でくるりと回転し、足から着地する。
両腕が少し変形して二の腕から先が大きな菱形の盾のようになっている。
それは着地した瞬間再度変形して──巨大な獣の顎が再び現れた。
・・・その時。
意識していなかったもの、忘れていたもの。
『十字架』に括り付けられていた女性。
思考に戻ってきたその存在が煉の心を埋め尽くしていく。
女性を捜して見回す。
少し後ろの方に紅の瞳の女に抱えられて倒れている。
そして紅の瞳の女は、女性の目を・・・閉じた。

また、煉の目の前で、人が、死んだ。

フラッシュバック。

ビルの屋上。飛来するミサイル。爆発。吹き飛ぶ自分。
そして切り裂かれ消滅する・・・『あの人』。

轟ォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!

絶叫。
煉はウォーカーに、“蛇”に向かって、真っ正面から突っ込んでいく。
「貴様ハ、貴様ハ、許サレエヌ罪ヲ犯シタ! 許サヌ! 許サヌ! 許サヌ! 許サヌ!」
煉は加速された神経の素早さで真っ直ぐ突っ込んでいく。
風を越えて、疾風のように。
ただ、憤怒と悲しみを、胸に。

 [ No.127 ]


“紅の瞳”

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 99/06/24(Thu) 12:44
Style : カタナ◎レッガー●カリスマ   Aj/Jender : 23/female
Post : N◎VA三合会


耳を爆音が、目を凄まじい閃光が、体を爆風と浮遊感が支配する。地面に叩き付けられる衝撃─

気がつくと、空が見えた。夕暮れから夜の闇へと誘おうとするどんよりと曇った空が。
浅く鋼糸の蛇に裂かれたいく筋の傷口からは血が流れ、深い紺色の人民服を汚していた。何かを抱えたまま、立ち上がろうと体を動かすと体のあちこちが悲鳴を上げる。
軽くくらくらする頭を振ってそれでも立ち上がろうと悲鳴をあげる上体を起こす。
「大丈夫‥‥ですか?」
慌てて駆け寄って来る人影。顔を確認するとカーマインに立ち塞がっていた勇気ある黄金の猟犬だった。
「……私は大丈夫よ、それよりも……」
傷む体を無理矢理騙しながら、真理は周囲を確認する。着弾した当たりに大穴が空いており、周りには自分と同じように吹き飛ばされた人々が立ち上がろうとしていた。入り口からはウォーカーがゆっくりと、死をもたらす神のようにこちらに迫ってくる。
腕の中の人の感触をいまさら思い出したかの様に真理は確認した。

──冷たい。
僅かにあったぬくもりさえも、急速にそして確実に奪われていた。
ずしりと重い、土気色の体が真理の腕にのしかかっていた。半開きに開いた瞳からは光がみえない。
──死んでいる。
なじみのある死の感触、いままで奪ってきた命に真理は動じる事がなかったはずだ、しかし……私はこの女性を助けたかった。
激しい激情が真理を深く昏い自分自身の心の淵に押し流そうとしている。義兄がN◎VA軍の手で殺された時のように。そのままその流れに身を任せたが最後、冷静な判断などなくしてしまうに違いない事に気がついていた。
抱えていた女性の瞳を悲しそうな顔でみつめながら、手で瞳を閉じさせた。
“紅の瞳”が悲しそうに悲痛な痛みを訴えていた。

真理は本能的にすべての感情をシャットアウトした。
何もかも。

真理は、“見知らぬ女性”の体から手を放すと、素早く落ちていた刀を拾い立ち上がった。体─とくに軸足である左足から跳ねる痛みがむしろ、自らを奮い立たせてくれているようで、ありがたかった。
「…有難う、もう“大丈夫”よ」
感情の伴わない無機質な声が、傍らにいる猟犬にいった。

黒光りする90mm滑空砲の砲身が一同を狙っていた。
続いて、おこったガトリング砲の正射と視覚から襲い掛かる鋼糸の蛇の煌きから身を翻して躱す。しかし、明らかに真理は精彩を欠いていた。

黄金の猟犬、黒衣の舞姫、優秀な狙撃手、 “賭侠”、そしてGunslinger─
確かかどうか分からないが、ウェブの姫君や、狂える車輪、ブリテンの司教も舞台上でそれぞれの闘いを繰り広げているはずだ。

役者は、そろった。

「……第二ラウンドは始まったばかりよ、カーマイン!!」
断続的な緩まない攻撃を躱しながら、真理は叫んだ。このままでは最悪の形で決着はつくだろう。それはどうしても避けなければならなかった。
「……私の事は良いから、カーマインを!!」
真理を庇うような行動をみせる黄金の猟犬と切り札をもつ
探偵に向かって、そして、この舞台を終幕へと導く力をもつものに向かって真理はそう、いいはなった。

“紅の瞳”は悲しみを秘めたまま、絶望的な状況の中、闘志を失わず、薄く、昏く輝いていた……。

 [ No.126 ]


分からない心の道標──

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 99/06/24(Thu) 11:31
Style : カタナ◎レッガー●カリスマ   Aj/Jender : 23/female
Post : N◎VA三合会


軽快なスタッカートとともに地面に散らばる鋼の蛇の残骸──

何故?
ウェズリィから軽口とともに、問われた囁きに真理は答えを見つける事が出来なかった。いつもなら間違いなく見捨てている……このような状況で、罠だと分かっていて、援護の当てもなく─尤も、厳密な意味では援護は期待できたのだが─罠の中へ女性を助けにいく事は無茶を通り越して無謀というものだ。理解の出来ない自らの心に真理は間違いなく戸惑いをおぼえていた。
何故?
「…確かに、私は不用心ね、でも、誰かがやっていることでしょう?私がやらなければ、誰かがこの女性を助けていた。そして、もっと最悪の結果になっていたかもしれない……」
囁きに自らを納得させるように、迷ったまま真理はそういった。

廟におどけたような軽い口調がこだました。
犠牲者の横にしゃがみこんだまま、視線だけをそちらに向ける。
声の主は、サーコートを纏った、黒眼鏡の華僑。
その言い様に軽い叱責が混じっているのを感じて、真理は僅かに苦笑いを浮かべた。
華僑から、一降りの“剣”が“Gunslinger”へと飛ぶ。Gunslinger─ウェズリィはそれを受け取ると、少しだけ苦笑したようだった。
「……どうやら間に合った様ね」
真理は華僑─劉に向かって艶やかな微笑を向けると、しゃがみこんだままウェズリィに話し掛ける。
カーマインの気配は断たれたままだ、ゆっくりしている暇はない。
「……狩りの準備は出来て?探偵さん。私は───」
その時激しい、爆風と閃光が関帝廟を揺るがした。
真理は無意識の内に犠牲者の女性を抱えて無理な体制のまま体を庇っていた。



 [ No.125 ]


Little Hound and Steel Gigant

Handle : “光の弾丸”静元星也   Date : 99/06/23(Wed) 22:19
Style : イヌ◎,マヤカシ,カブトワリ●   Aj/Jender : 22/Male
Post : ハウンドN◎VA本部生活安全課


 パトリチェフとの戦いが始まる少し前。星也は関帝廟に辿りつくと内部を見渡していた。
 十字架から逃れた犠牲者はまだ生きているようだった。その側で膝をついている人民服の娘。フェイトコートの裾をはためかせ、拳銃の弾を込め直している北米系の男性。地面に散らばる鋼の蛇の残骸。それからもう一人‥‥
「‥‥!?」
 警官としてストリートを巡ってきた勘が星也を救った。咄嗟に物陰に飛び込んだのは正解だった。
 舞い上がる粉塵と轟音。前庭の中央に大穴が開いている。場にいた面々は石畳に叩き付けられていた。
「うん‥‥」
 星也の側で頭を振って立ち上がろうとしている人物がいた。さっきの人民服の娘だ。何回か見掛けた顔だった。
「大丈夫‥‥ですか?」
 星也は慌てて彼女に駆け寄った。自分とあまり年齢も変わらない女性だ。長く豊かな髪は汚れ、肌には傷が幾筋か走っている。その左眼から、真紅の輝きが漏れたような気がした。
そばに落ちている刀には独特の装飾がついていた。前にN◎VAの中華街の雑貨屋で似たようなものを見たことがあった。恐らくは大陸製――もっとも今は地続きだが――の剣だろう。
「くそ、相手が悪すぎるぞ‥‥」
 ホルスターに手を伸ばしながら、星也は前門から侵入してくるウォーカーを振り返った。拳銃の効く相手ではない。操っているのはあの死神カーマインだ。幻覚も効くだろうか? 重火器でも用意してくればよかったのだが‥‥
 黒光りする90mm滑空砲の砲身が一同を狙っていた。
 この先、別の事件で、もう一度あの忌まわしい砲塔を相手にする羽目になることを、星也はまだ知らなかった。

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/nova/stajR/seiya.htm [ No.124 ]


2つ世界の闘い

Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/23(Wed) 20:21
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ     Aj/Jender : 28歳/男
Post : ?


装甲の厚さもさることながら、パトリチェフの火力は圧倒的だった。
唯一幸いだったのは、おそらくどこかに潜んでいる本体に害がおよばないように140ミリ、90ミリ砲の大火力を乱発しなかったことだった。
カーマインは90ミリ砲を足止めや牽制に使い、主に市街地使用に追加装備されたガトリングガンで闘っていた。
とはいえ、90ミリの砲弾は至近距離に着弾しても充分な殺傷力をもっていたし、さらに単分子ワイヤーが常に死角から襲いかかってきたので、各々の動きは目にみえておとろえていった。
このままいけば、そう遠くない内に決着はつくだろう。
最悪の形で。

一方、サイバースペースではメレディーがカーマインを相手に静かな闘いを繰り広げていた。
今のところ戦況は五分といえる。
メレディー はその不十分な装備と疲れのため 、カーマインはリアルスペースと両方に注意をはらわなければならなかっため、お互いが決め手を欠いていた。
グリッドの光りがまたたく電脳世界も今の二人には暗闇に等しい、いつなんどきICEを貫いて敵の手がのびてくるかもしれないのだ。
いや、もしかしたら背後には冷たくひかる銃口がこちらをむいているのかも知れない。
しかもメレディーにとってはカーマインは未知の怪物だった、先に居所をつきとめ必殺の一撃をみまっても、倒しきれないかもしれない。
もし、しのがれれば今度はこちらが同じ危険にさらされる番だった。
彼女の背を冷たく走るものがあった。
永遠に続くと思われる疑心暗鬼と焦燥の中で二人の静かなる闘いは続いていた。

 [ No.123 ]


鋼鉄の巨人

Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/18(Fri) 22:34
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ     Aj/Jender : : 28歳/男
Post : ?


タタタタタタ。
軽快なタッカートが関帝廟に鳴り響いた。
そして、新たに現れた鋼鉄の蛇が一瞬にして粉砕される。
ガンスリンガーを名のるウェズリーという男の早撃ちもさる事ながら、本来なら視認することもままならない単分子ワイヤー数十本を全て“撃ち抜き”使用不能にする腕前はまさに神業と言ってよかった。
その背後では、いつの間に現れたのか、両腕に未知のサイバーアームを持つ黒髪の美女、煉が、まるで肉食獣が獲物の匂いを嗅ぐように敵、カーマインの居所を探っていた。
しかし、カーマインも超A級の暗殺者、その派手なパフォーマンスとはうらはらに完全に殺気を消し去り、容易に所在をつかませはしなかった。
つかの間の静寂。
しかし・・・
凄まじい振動、そして目の前に雷が落ちたような轟音が関帝廟を揺るがせた。
その人間離れした反射神経によりかろうじて直撃は避けたものの 、全員爆風にあおられ石畳へ勢い良く叩きつけられてしまった。
常人であれば、これだけで命を落としかねないダメージを負っているはずなのだが、気力で体を奮い立たせているのか、それぞれ何ごともなかったかのように起き上がった。
見れば、前庭の中央、ちょうど煉が立っていたあたりが爆発によって 小型のクレーター状に抉られていた。
もうもうと舞い上がる土煙ときな臭い硝煙の匂いの向こうで、90ミリ砲の砲身がこちらに禍々しい黒孔を見せていた。
前門を半壊させ、パトリチェフがゆっくりとその威容を現す。
「KAカカKAカカカカカ。さぁて、準備はいいかね諸君。第2ラウンドの開始だァ。」
場違いな程、楽しそうなカーマインの声が関帝廟にこだました。

そして、同じ時。
彼らの知らないもう一つの現実、サイバースペースでメレディーとカーマインの静かな闘いが始まっていた。

 [ No.122 ]


“黒の剣”

Handle : “賭侠”劉 家輝   Date : 99/06/18(Fri) 19:52
Style : 黒幕◎,歌舞伎●,兜割   Aj/Jender : 27歳/男性
Post : 三合会顔役


鋼糸の雨が止んだ時を見計らった様に、廟に声が木霊する。
「“蛇さん”は、女性の扱いがなってませんねぇ・・・ま、血塗れの真理さんってのも綺麗ですけどね♪」
・・・場にそぐわぬ、軽い口調・・・。
振り向く紅の眼差しは、声の主・・・サーコートを纏った華僑が入口に佇むのを捉えた。

・・・劉の手がゆっくりと動き、フェイトコートの下から一挺の拳銃を取り出す。
「間に合いましたよ・・・大事に使って下さい♪」
台詞と共に、元傭兵の探偵に向かって、“剣”が飛ぶ。

『S&W M29 Classic』
それが、その“剣”・・・フルラグバレルと手に馴染む形のグリップを持つ44マグナムリボルバー・・・。

 [ No.121 ]


Falls

Handle : メレディー   Date : 99/06/16(Wed) 17:59
Style : ニューロ◎、ニューロ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢22 / 女性
Post : LIMNET電脳情報技師 特級査察官


紅い輝点は今も「厦」の影響を受けている様に見える。
だが今度は、かなりの数の紅い触手を「厦」に抗うかの様に伸ばし始めていた。
『・・・何処かにまだ手を伸ばせる場所があるのね・・』
メレディーは酷い頭痛に顔を顰めながらモニタを睨み付ける。
構造物に一人の黒と黄金の騎士が関帝廟へと足を踏み入れる姿が映り、側で戯れていた機械仕掛けの鳩が一斉に飛び立つ。その映像とメレディーの目の前のモニタに映る紅い糸の動きは同期していた。
用意周到な立ち振る舞い、侵入者を軽くいなすであろう変わらぬ過去の挙動から、彼女は迷った。
物理的な手段や自らの手段からは光明の糸すら掴めないからだった。
人の体力と動きに限界がある様に、恐らく自分の干渉が効果的な展開を生むとも考え付かなかった。
数多の方角へと伸びる輝点の触手全てが相手ではクラックもハックも対象が多すぎてまるで意味を成さない。型を促す枷を持たせた今でも、ソレがニューロであった過去は変わらず残る。事実、今は電脳の手段を持って自らの手と足を得ようとしている。
構造物の映像で旋回を始めたパトリチェフが砲撃を始めるその姿を見詰めながら、メレディーは苦笑した。
ソレも馬鹿ではない。いや、むしろ天才的な力もある策士だ。殺戮を生むパトリチェフへ自分が干渉しないはずが無い事を知っている。枝の見えるパトリチェフへ自らの守りの環を広げるしか手段は無い。要はその挑戦を自分が受けるかどうかの問題だ。
しかしながらそれは自信以前の問題で、自らの鼓舞が結果を決める訳ではなく、枝が広がった今となっては干渉者全ての運。そして、ソレの力とこちらの力の天秤だ。

メレディーはタップから手を放し、首筋のワイア&ワイアの接続を確かめる。
準備すらままならない今、最善の手段は先方の干渉を待ち、ソレのトレースで姿と実像の見えないアドレスを探り、神の名を叫びながら最後の一撃を叩き込むしかない事態に自嘲する。
同じ干渉を受けるでも最初にそれを受けるのはソレであり、こちらではない。相手が同じ様にトレースして干渉すればこちらのIANUSを叩く事は十分可能だ。アンソニーが堕ちた様に、自分も狂気へと堕ちるだろう。
デコイを立てて時間を稼ぎ、タイミングの勝利で相手を叩くこちらが早いか。劉の「弾」を持つ他者かこちらをソレが優先するかの問題だ。運以外のなにものでもない。
だが干渉しない訳にはいかない。ここで投げる訳には行かなかった。
『まだわたしは何も彼にやってあげられていないわ』

・・・今度こそ自分の声は彼に届くだろうか。それとももうこちらの声も届かぬソレの奥深い場へと堕ちてしまったのだろうか・・。
メレディーは約束の無い戦闘へとダイブを始める。

最後の・・・干渉だ。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.119 ]


Gunslinger

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/06/16(Wed) 11:43
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 2?/M
Post : Freelans


「おいおい…俺を差し置いていい男とデートかい、真理お姉様?二股は嫌われるぜ?」

 女を受け止めたものの無数の無慈悲な鋼鉄の蛇達に囲まれた秦の目の前に、フェイトコートを粋に羽織った北米系の男が現れた。それと同時に銃声が鳴り響く。今まで生まれた死者達と、これから生まれる死者達を祝福するかのような音色をたてて。
 気がつくと一瞬の間に、彼女らを取り巻いていた無数の鋼鉄の蛇は、ことごとく破壊されていた。
 いつ、どこから抜き出したのか、彼の左手には”P4”ピストルが存在し、その銃口からは煙が立ちこめていた。
 その光景をもしアジームが見ていたらたぶんこう呟いただろう。
『…Gunslinger…』、と。
 いつものように軽口を叩く彼の、海の蒼をたたえたプルシアン・ブルーの瞳から発せられる眼光は、その言葉に反して鋭い光を増していた。
 まるで…そう、あれは立ちふさがる全ての障害を射抜く銃弾…。

「そこら辺で様子を見てりゃいいのに、何だって罠の中にわざわざ飛び込むんだい?不用心だぜ…料金は割り増しさせてもらうからな…」 
 "P4"に素早く銃弾を装填し直すと、彼は真理に向かってそう囁いた。


http://www.mietsu.tsu.mie.jp/keijun/trpg/nova/cast/cast03.htm [ No.118 ]


Stray Hound, Last Staj

Handle : “光の弾丸”静元星也   Date : 99/06/15(Tue) 21:55
Style : イヌ◎,マヤカシ,カブトワリ●   Aj/Jender : 22/Male
Post : ハウンドN◎VA本部生活安全課


「ここが‥‥関帝廟か」
 星也は額に浮いた汗を拭うと、荒れた呼吸を整えた。結局便利な足は見つからず、中華街の狭い路地裏を走り回ってここまで来た。近道だったのか遠回りだったのか、ここは正門でないのかも知れない。
 来る途中にSSSのパトカーを見た。もしかすると重火器装備のウォーカーまで動くことになるかもしれない。
 回り中から感じられる何かの感覚。誰かから見られているような気がする。罠を張り巡らしたカーマインの思念か、それとも自分を見下ろしている誰かの視線か。
 一連の事件に偶然居合わせた人間は多かったはずだ。自分と同じように、ここに辿り着いた者も他にいるだろう。運命の舞台の――おそらくは最後の幕であるこの関帝廟に。
 朱塗りの柱の根元から、一筋の煙が立ち昇っているのに星也は気付いた。煙草の煙だ。最後の場面に出場するまえに一服していった誰かが、揉み消していったのだろう。彼が見ている前で、煙は消えていった。
「‥‥ようやく騎士の登場かい?‥‥」
 静まり返った廟内の何処からか、聞こえてくる死神の声。
「ようこそラストステージへ‥‥」
 星也の前で戯れていた機械仕掛けの鳩たちが、一斉に飛び立った。
夕闇の空に舞き散らされる、幾筋かの羽根。欲望の街の明かりに照らされる、作り物の羽根。
「‥‥私の相手をしてくれるんじゃなかったの?‥‥」
 叫び返す女性の声が、微かに聞こえてきた。
 弾倉を確認すると、黒と黄金の騎士見習いは再び歩み出した。

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/nova/stajR/seiya.htm [ No.117 ]


強奪

Handle : SSS増援部隊   Date : 99/06/15(Tue) 21:54
Style : カブト(トループ)
Post : SSS横浜支部


「ようし、止まれ。」
関帝廟から数十メートル手前で、バーンスタインは部隊に停止を命じた。
「ここからヤツを砲撃する。140ミリ滑腔砲用意。」
「しかし・・・」
若い部下の抗議を無視すると元タンク乗りの彼は興奮したおももちで目標に目を向けた。「ヤツにはあのこざかしい能力があるからな、近づきすぎるのは危険だ。」
「HA!こざかしいのはお前らの方だ。」
「!」
突然の声にその場の全員が氷ついた。
いつの間にか、ボンネットの上に一羽の鳩が止まっていた。
鳩は禍々しい赤い目でこちらを睨むとあざ笑うように一声鳴いた。
「ゲッゲッ、このオレを誰だと思ってやがる。きさまらの行動なんざ全ておみ通しだァ。」
「Go to Hell. あのデカブツはオレ様がありがたく頂いてやる。お前達は安心して地獄へ行けィ。」
バーンスタインの顔面が痙攣したように引きつった。
大きく見開かれた目にパトリチェフの90ミリ砲が映った。
それは滑稽なほどの緩慢さでゆっくりとこちらを向いた。
そして・・・凄まじい轟音が中華街に轟いた。

 [ No.116 ]


剣舞

Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/15(Tue) 21:25
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ   Aj/Jender : 28歳/男
Post : ?


ヒュ。
微かな風切り音とともに刀が閃いた。
戒めがとかれ、女の体が中に舞う。
華奢な体格からは想像もつかない力強さで、秦が女を受け止めた。
そのまま、静かに石畳の上におろす。
冷たい。
まだかろうじて息はあるものの急いで処置をする必要があるだろう。
それが合図であったのか、秦を取り囲むように無数の単分子ワイヤーが鎌首をもたげた。
一本一本がまるで意思ある蛇のように、独立した動きで彼女を切り裂こうとする。
その数およそ数十本。
本来なら常に場所を移動し、的を絞らせないようにすることが常套手段なのだろう。
しかし、彼女は動けなかった。
明らかに、ワイヤーは人質の女もいっしょに狙っている。
秦がここを離れるという事は、たった今助けた女を見捨てるという事に他ならない。
どうする?
彼女は自問した。
見捨てることが最善であると本能が告げた。
しかし、普段は押し隠されたもう一人の彼女が必死にそれを否定する。
そうしている間にも、無慈悲な鋼鉄の蛇達は彼女の美しい肌を傷つけていった。
どうする?
彼女はもう一度自問した。

 [ No.115 ]


“到着”

Handle : ”不明者”来崎煉   Date : 99/06/15(Tue) 10:49
Style : カブキ◎、カタナ=カタナ●   Aj/Jender : 27/female
Post : Kriminal


 疾風のように駆けてきた煉はウォーカーの足下をくぐり抜けて関帝廟に駆け込んでいく。
 『十字架』に括り付けられて呻く女性を見て煉の頭は沸騰するように熱くなる。
(許すな! 奴を許すな! 許スな! 許すナ! 許すな! 許スナ!)
 思考が錯綜して脳に何も考えが浮かばなくなる。
 あるのはただ闘争本能。
(ゆルスな! ユルすな! ユルスな! ゆるスナ! ユるすナ!)
 思考の疾走。暴走しそうな神経。
 それをなんとか押さえ込んで煉は関帝廟に踏み込んでいく。
 目指すものは一つ。
 “蛇”の命。
 それ一つのみ。

 [ No.114 ]


─五分後の世界

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 99/06/15(Tue) 05:37
Style : カタナ◎レッガー●カリスマ   Aj/Jender : 23/female
Post : N◎VA三合会


外の喧騒がまるで嘘のように関帝廟の中は静寂に満ちている。
近道を使ったおかげで、どうやらカーマイン達より、先につく事が出来たらしい。静かに、ただ静かに闇の中で真理は刻を待つ。

"仕事"は大詰めが近づいている。あの抜け目のないクロマクの事だ、今起きている事象に終止符を打つための切り札を用意して来るだろう。

─"渾沌"の住まう盤上から、細やかに砕かれた硝子の破片のような情報を組み合わせ創り上げて─

そちらは、任せておけば十分だろう。腕の良いフリーランスもいるのだから。

胸に宿る小さな不安。
『魔女』という人間の名を確認にした時から、それは、明らかな不快感となって真理の心に巣食う。
それとも"蛇"に偶然"接触"した時に感化されそうになった自らへの嫌悪感だろうか?
『アラストール』が司るものは“復讐”。自らも“復讐”を胸に秘めるゆえの“同調”だろうか?

移動中に帽子を飛ばしてしまった為にしっとりと不快な水分を含んで首にまとわりつく、豊かな長髪を後ろに流しながら、真理は門から人影が入ってくるのを息をこらして待っていた。
─いた。
一組の男女が。
女は下半身と両腕のない男を背負っていた。
真理は物陰から、IANUSUで視覚を拡大。背負われている男を確認する。
カーマイン・ガーベラ。
姿をかなり近い距離で確認したせいだろうか?真理の全身の血がはじめて"接触"した時のように昂ぶっている。鬱血でもしたのか、左目のあたりの古傷が浮かび上がる。
自分を落ち着かせるために、軽く息をはく。

まだ、カーマインを追う者は自分達しか来ていないらしい。このまましかけても自分だけでは相手は倒せない。
様子を見ていたほうが得策なのだ。いくら時間を稼ごうと考えていても。
龍門のあたりで"作業"をしているカーマインを見つめていたが、ほんの一瞬だけ目を離した隙にどこかへ気配が消えてしまった。
何とか探りを入れようとするが、隠れたまま探そうとしても見つからない。相手はカゲなのだ。
流れていく僅かな時間が永遠にも感じられる。
沸き上がってこようとする未知なるものへの不安と焦燥感をねじ伏せるように目尻を押さえて軽く首を振った。
その時スピーカーを通じて声が聞こえた。

「タリホー。良く来たな。ようやく騎士の登場かい?ようこそラストステージへ。」
その声を聞いて真理の口元に薄い笑みが浮かんだ。獲物を求める豺を連想させる動きで周囲を伺うが、こちらからは“十字架”にかけらけた哀れな女性の姿しか確認できない。ぞくりと全身が総毛だつ。間違いなくカーマインは真理の位置を確認している。気がつけば、相手の罠の中というわけだ。
圧倒的に不利な状況だ、今は。だが……。
「Harry up!はやく助けてやらねぇと、女が死んじまうぜェ。」
思考を遮るように続けてスピーカーから言葉が流れる。
真理は眉をひそめると丸眼鏡をはずしながら、
「……前々からおもっていたのだけれど、それで女性を口説いているつもりだとしたら全くナンセンスね」
仰々しく肩をすくめながら、真理は軽口をたたいて立ち上がった。
移動する時間を考えても何人かそろそろ着いてもいいはずだ。“蛇”を阻止しようと集うものたちが。…それに、腕のいいスナイパーが。
どこからか取り出したのか真理は大陸で作られたと思われる装飾の刀を持っていた。
「私の相手をしてくれるんじゃなかったの、カーマイン?今度はかくれんぼかしら?」
くすくすと笑うと真理は潜んでいた場所から一気に疾風のように走り出した。中門の柱にくくりつけられた女性に向かって─
いつもなら、その女性を助ける事はしないだろう。
しかし、罠だとわかっていても間違いなく彼女は同族の女性だ。それにあのナノマシンの性能なら──化けることも出来るはずだ。
そして、真理は一気に加速しながらワイヤーを切断すべく刀をぬいた。

張り巡らされた罠の中でまさにラストステージに相応しい生か、死か瀬戸際の舞台がそこに用意されたいた。
─五分後の世界はどのようになっているのか、まだ誰もしらない。

 [ No.113 ]


“不覚”

Handle : “狂える車輪” アジーム   Date : 99/06/15(Tue) 02:45
Style : カゼ◎● レッガー=レッガー   Aj/Jender : 48/♂
Post : イエローキャブカンパニー"


「ウ……くっ」

突然の痛みにアジームは苦痛の目覚めを迎える。
目の前にはカーマインの攻撃を食らい、折れて節くれだった右腕が映った。
周りは先程までの喧燥が嘘のように静まり返っている。
時間的には30秒ほどであったのだろうが、まるで永劫の時が流れてしまったかのようだ。
右腕から全身へと駆け巡る激痛が、起動のトリガーのようにアジームを覚醒させた。

「舞台は移っちまったかな?」

バーストヒールを右腕に貼りながらアジームはぼやいた。
戦闘の合間に気絶するなど、以ての外だった。思わぬ失態に内心舌打ちをする。
目の端に留まった通りの向こうの公衆DAKがブラックアウトする寸前、ZOO-LOOKがすかさず残された情報を読み取る。中華街を示すマップには紅い光点が明滅を繰り返していた。その光点の示す場は関帝廟。次の舞台はそこであるようだ。

ふと思い出し、助手席の方に素早く向き直る。
そこには黒いアタッシュケースが何事も無かったかのように投げ出されていた。
そしてその脇に置いたポケットロンがメモリーの緑点を鈍く光らせている。
メモリーを呼び出すと、古い馴染みの名前がそこには残されていた。

「客を一人逃がしちまったなぁ・・・・・・」

右腕の痛みか、それとも自分の不甲斐なさかに顔を歪ませながら、アジームはスターターを廻す。
行く先はヨコハマ中華街、関帝廟。

 [ No.112 ]



Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/15(Tue) 01:20
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ   Aj/Jender : 28歳/男
Post : ?


カーマインの研ぎ澄まされた五感が侵入者をとらえた。
さながら蜘蛛が巣にかかった獲物に気付くように。
今や彼の感覚は関帝廟中に広がり、研ぎ澄まされ、廟自体が彼自身といっていいほどであった。今の彼を見つける事はマスタークラスのカゲでも困難だったろう。
それほどにカーマインは関帝廟と一体化していた。
たしかに星也と煉の攻撃は彼に深刻なダメージを与えていたが、彼にはまだ、勝算があった。
いや、むしろ傷つき、追いつめられた事がかえって彼本来の姿に戻した、と言っていいのかもしれない。
罠をはり、確実に目標を倒す。
テロリストのやり方に。

関帝廟の入り口からは中門の柱にくくりつけられた女が良く見えるはずである。
それでも、入ってくると言うことはすなわち、それが彼の敵であると言うことだ。
カーマインは関帝廟内のスピーカーを使い、敵にむかって警告を発した。
「タリホー。良く来たな。ようやく騎士の登場かい?ようこそラストステージへ。」
「Harry up!はやく助けてやらねぇと、女が死んじまうぜェ。」

 [ No.111 ]


“視線”

Handle : スティングス   Date : 99/06/14(Mon) 19:22

Post : イワサキ情報処理局 特殊工作班


 ウォーカーの出現で、やや騒然としてきた関帝廟を見下ろすビルの屋上。
仕立ての良いスーツはヴィルヌーブのオーダーメイドのようだが、ネクタイも締めず、シャツも上からボタンを2、3個外してラフに着込んだ男が一人。
口の端に浮かべた笑みは、まるで電動仕掛けのようにひきつりを繰り返している。しかし男は別段感情を抑えているわけでもなく、状況を悠然と観察している。

「良い状況になってきたな。しかしSSSは千早の傘下だろう? 自分のところのウォーカーを使わないでいいのかねぇ?」

 低く口笛を吹きながらスティングスは側に立つもう一人に軽口をたたく。

「ブラックハウンドと企業警察の方はどうなっている?」
「10分ほど前にハウンド支部の近くで2、3件事故を起こしておきました。ナンブとWSS(ウォーターフォード警備保障)との間では話がついてます」
「結構! ではSSSの諸君には前座のピエロを演じてもらうことにしよう!」

「……しかし、よろしいのですか? アレは我々が回収しても十分に益をもたらすものと思われますが……」
「下っ端の我々はそれを考える必要はないよ。ワカルカネ? もちろんアレが強大な力を持っているのは私でも理解している。しかしそれを手に入れるのは篁様の意向ではない。我々の目的はアレを観察し、そのデータの全てを収集することだ。楽で退屈な仕事じゃないか?」

 一息にスティングスは喋り終えると軽く嘲笑した。
 しかし側に控えた男は心を見透かされたかのようにただ黙りこむ。脇の下に冷たい汗をかきながら男は思った。

(楽で退屈な仕事だからこそ……あなたが我慢できるかどうか……)

 [ No.110 ]


パトリチェフ

Handle : SSS増援部隊   Date : 99/06/11(Fri) 21:59
Style : カブト(トループ)
Post : SSS横浜支部


様々な人間がそれぞれの思惑を秘め、関帝廟へ向かっていた。
そして、ここにも・・・
パトカー数台とウォーカー1台からなるSSSの増援部隊だ。
「バーンスタイン隊長、関帝廟内での重火器の使用はまずいのじゃないでしょうか?」
パトカーのドライバーを努める若い隊員が隣席の上官におそるおそる訪ねた。
バーンスタインと呼ばれた警官は、ガッシリとした体を左右にゆすった。どうやら笑っているらしい。
「それは暗黙の了解というやつだ、企業法で定められているわけじゃない。」
彼は部下に一瞥をくれると四角い顔に薄笑いを浮かべた。
「非常事態だ、このさい多少の被害はしかたがあるまい。」
「多少・・・・ですか。」
中華街出身の若い警官は眉をしかめ、後方のウォーカーの威容を盗み見た。
フェルディナント社製、“パトリチェフ”。
ウォーカー小型化の流れからヴィルヌーヴで開発された重装甲ウォーカー。
両腕に90ミリ砲、背中に140ミリ滑空砲を装備、キャタピラを併用した2本の足は戦車に腕と足をつけたような無骨なフォルムからは想像もつかない機動性、踏破性にすぐれている。
その圧倒的な火力は関帝廟を数度破壊してあまりあるものだ。
「ふふふふふ。テロリストめ、スネークだかなんだか知らないが、あの目障りな神社ごと粉々にしてくれる。」
部下の杞憂に気付いているのか、いないのかバーンスタイン隊長は小暗い闘志を燃やしていた。

 [ No.109 ]


惨劇の舞台

Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/11(Fri) 21:10
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ   Aj/Jender : 28歳/男
Post : ?


関帝廟内は静まり返っていた。
先ほどの侵入者の形跡はもはや、どこにもない。廟内は本来の荘厳な落ち着きを取り戻したかにみえた。
しかし。
悪魔は聖域を汚すべくその爪痕を確かに残していたのだ。
関帝廟の中門、鯉が滝を登り龍になる様が彫刻された通称“龍門”に先ほどカーマインに連れ去られた女が張り付けられていた。
見えない鋼線で門柱に縛り付けられた女には、下腹から下がちぎり取られたようになく。
おびただしい量の血が足下に水たまりを作っていた。
しかし、それでも彼女は生きているらしく、豊かな胸は不規則ではあるが上下し、青ざめた唇からは今だ「助けて・・・助けて。」とかすれた声が呪文のようにもれていた。

 [ No.108 ]


-Start-

Handle : ブライト・バートン   Date : 99/06/09(Wed) 22:59
Style : カブトワリ◎●カゼ、ニューロ   Aj/Jender : 26yrs/Male
Post : フリーランス/元傭兵


カーマインと彼にとらえられた一人の女性が入っていくのを見送った後、関帝廟前で煙草を吸いながら一人つぶやく。

「さてと……、そろそろ頃合いかな?」

そう言いながらタバコを捨てて足でもみ消す。そして片手で新たに用意したショットガンをコッキング。ライオット弾を装填する。

「全く……好奇心で動くべきじゃないな。だがまぁ金の分だけの仕事はするか……」

一人愚痴ると関帝廟の中へと足を運んだ……

 [ No.107 ]


我が輩は猫である

Handle : “賭侠”劉 家輝   Date : 99/06/08(Tue) 22:51
Style : 黒幕◎,歌舞伎●,兜割   Aj/Jender : 27歳/男性
Post : 三合会顔役


「ゴロミャア〜♪」
部屋の主に撫でられた猫が鳴声をあげる。
・・・2秒・・・
“蜘蛛の巣”に向かいて、奇術師が舞う・・・。
奇術師は、外套を投げかける・・・。
外套は、巣を投網の如く包み込む・・・。
投網は黒糸となりて、巣の白糸とで太極の繭を成す・・・。
・・・2秒・・・
奇術師−綾香士−の目前で“門”が開き、劉が軽やかに笑いかけた。
「有難う、Mr.マーリン。アーサーに『助かったよBros. また桃花源ででも呑もう』って言っといてください。」
DAKの画面ごしの挨拶に、奇術師は優雅な一礼にて応える。
・・・2秒・・・
繭から光が洩れ、七つの星は産み落とされた。
微笑みと共に奇術師は歩み去る・・・。
・・・2秒・・・
「ニャア〜♪」
部屋の主は猫となった・・・。

 [ No.106 ]


疾走

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/06/03(Thu) 14:10
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 2?/M
Post : Fleelans


(畜生……連絡がとれやしねぇ)
 NEO関帝廟に向かう最短距離は把握した。しかし肝心の「足」が捕まらない。時間は刻々と過ぎてゆく。横を見ても「ウィルス弾」とやらの作業も今のところはかどっていないようだ。すべてが後手に回っている。
(ここは行動あるのみ…か)

 決断したウェズはメインで作業を進めている男…確か依頼主は「劉さん」と呼んでいた…に向かって声をかけた。何かに急かされるように。短く簡潔に。
「劉さん…だっけ?俺と奈子も今からNEO関帝廟に向かう事にする。「切り札」を早く持ってきてくれよな。そうそう…俺の愛用の銃は11mmマグナム弾しか受け付けないから、サイズをきっちり合わせてくれ。頼むぜ」

 そう告げるとコートを翻し彼らはNEO関帝廟に向かった。
 道無き道を、隅の路地を、脇の小道を走り抜け。



http://www.mietsu.tsu.mie.jp/keijun/trpg/nova/cast/cast03.htm [ No.105 ]


”追走”

Handle : ”不明者”来崎煉   Date : 99/06/03(Thu) 11:20
Style : カブキ◎、カタナ=カタナ●   Aj/Jender : 27/female
Post : Kriminal


逃げていく“蛇”。
燃え上がるように感情の嵐が巻き起こる。
(許すな! ヤツを許すな!
目の前で、私の目の前で人を殺そうとした、ヤツを許すな!)
コォォォォォォ・・・
音を立てて両腕が排気。だが形状は戻らない。
(あちらにあるのはNEO関帝廟・・・か)
獣の笑みが漏れる・・・いや、笑みなどではない。
燃え上がる怒りの噴出が笑みの形を取っているのだ。
体をしならせ、走り出す。速く、速く。

かける煉の脳裏をよぎる疑問。
(なぜ・・・私はここの地理を知っている?)
連は疑問を思考の外に追い出して、走る。速く、速く。

 [ No.104 ]


Old man and "Libertine"

Handle : "Load of Minster"ユージーン   Date : 99/06/03(Thu) 01:32
Style : カリスマ◎クロマク=クロマク●   Aj/Jender : 27/M
Post : フリーランス/元ブリテン国教会


全てのカードを公開した。
ブリテンの出来るところはこれまでだろう。”大聖堂”の貴族は軽く息をつき、傍らの執事に目で合図を送る。主人の言葉なき指示を彼が見逃すはずもなく、流れるような仕草で主にポケットロンを渡す。ユージーンの指がナンバーを入力した。しばらくして画面の向こうに初老の男性が現れた。険のある眼差しや不機嫌そうに結ばれた厚い唇、刻まれた皺など、どれをとっても「気難しそうな」という表現がぴったりはまりそうな顔である。
「やあ、”ボトルマン”。準備は出来てるかな」
彼を見たものなら誰もが予測せずにはいられないであろう、いかにも不機嫌と言った口調が帰ってくる。
『お前に心配されんでも、とっくに終わっとるよ』
「気を悪くしたなら、謝る。綾香士は?」
『データの補正はすんどるようだ。出番待ちだ』
流石に私が集めてきた人間達だ、と小さな、しかし非常に嬉しそうな笑顔をユージーンは浮かべる。しかし、この頑固な老人にそんなことを言えば怒鳴られることが目に見えているので、口に出しては決して言わない。代わりに次の指示を出す。
「綾香士に伝えてくれ。この近くでデータを操作することに躍起になっている人間がいるだろうから、彼・・・彼らかな、補正データを渡すようにと」
『わかったよ、 ”Load of Minster”』
それだけ言うと、回線は無愛想な音をたてて切れた。肩を竦めて手の中にあったものをアルバートへと返す。
急ごしらえの円卓についているものは、二人。華を添えていた東洋系の美女は自らの座席を既に放棄していた。残されたのは一枚のクレッドクリス。どう考えても釣りが出るだろう。やはり店の利益になるのだろうな。そんなどうでもいいことを考えているそぶりなどちらとも見せず、ユージーンは楊との会話を再開した。
「ここにデータを用意して、それからあなた方が使用するのも手間がかかるからね。勝手ながらこちらで手配させていただいた。問題はないと思うが・・・後はあなた方の手腕に期待させていただくよ」
相変わらず言いたいことを言いたいだけいう。外の派手な惨状はまるで彼の耳に届いていないかのようだった。
「さて・・・”我々”の出番はここまでかな。これ以上、出来ることもないしね。あなた方の健闘を祈っている、かつて国家間で起きた混乱が解決されることも含めて」
「・・・過ぎたことだな」
「ええ。はるか時の向こうの話でしたね」
互いに顔を見合わせて、笑う。そう、確かに昔の話だ。だがそれで済んでいたら彼らがここにいることはなかった。今頃、ブリテンから『専門』の部隊がやってきて威信をかけてアラストールを処理していた、それだけのことだったのであろう。
しかし、彼らはここにいる。
「・・・そうだ、楊大人。悪いが、少しの間だけこの店の個室を貸していただきたい」
「何に使われるおつもりか?」
「個人的な話だよ。”私”に関することなんて聞きたくもないだろう?」
組んでいた脚を元に戻し、ユージーンが楊に向けて楽しそうな笑顔を送る。意外と言えば意外な、子供が自分の祖父に向けるような親しげな笑顔に、中華街の顔役は面食らう。続く苦笑。
「構わん、向こうの個室を自由に使うといい。後で点心を持って行かせよう」
「Thank you,my honorable man.」
輝く日差し差し込む湖面のような、明るい、他意のない笑顔で楊の好意に応える。ユージーンが優雅で落ちついた物腰で椅子を立ち上がり、アルバートが主人のあとに続く。
二人が円卓の間を後にし、去ろうとしたとき楊が声をかけた。きつくはない、しかしはぐらかすことを許さない厳しさを持った調子でユージーンに尋ねる。真っ直ぐにユージーンの背中を見据えながら。
「もし、我らが”渾沌”を封じることが成功し所有することとなったら如何するつもりか?」
「さあ・・・”我々”はどうこうするつもりはないよ。ご自由に。ただし」
肩越しに振り返り、答える。長めの髪に隠れて顔はよく見えないが、その口元には微かな笑みが見て取れた。底の知れない、覗き込んだものを引きずり込みかねない深淵を思わせる雰囲気。午後の、妙に白い日差しの中にあるはずなのに、一瞬あたりが薄いシェードで覆われたようにさえ思えた。
「墜ちたものがいるということは、墜としめたものがいる。エールアンドブリテンは霧の向こうの国だ、何がいるかわからないよ」
それに、とユージーンは続ける。
「世界各地にも、星の数ほどの封印伝承があるからね。・・・あなた方が”渾沌”で何かをしようとしたとき、その時こそこの世の墜ちるときだろう」
「・・・その出所を追求されたとしたら?」
今度はしっかりと振り返り、質問を浴びせる老師に表情を見せる。片目をつぶってみせる、10代の少女にこそ見せるべき軽薄とさえ言えそうな仕草。
「その時こそ壮大な水掛け論の始まる瞬間だね」
「違いない」
”ブリテンの貴族様”の上品とは言えない表情に、楊も苦笑せざるをえなかった。

http://www.teleway.ne.jp/~most [ No.103 ]


虚空にて

Handle : 李 小東   Date : 99/06/02(Wed) 22:19
Style : 兜◎,踏鞴●,車鞍   Aj/Jender : 25歳/男性
Post : “賭侠”の《腹心》


彼は“虚空”にて座禅を組む。

『その通り。記録というのはまさにその召喚儀式に関することだ。昔アラストールの脅威に晒された人々は、その記録を元に彼を封印したということだよ』
黒き糸が、西江楼から彼へと伸びる・・・

『李さん、劉さんへのプレゼントよ。出来る事なら、どうにかして欲しいわ』
白き糸が、電脳世界の姫君より伸びる・・・

白と黒の糸を手繰り、張り巡らせ、彼は微笑む。
“蜘蛛の巣”は、あたかも太極図を“星”に塗り込めるかのように蠢き続ける。

“紡ぎ”は続く・・・其を北斗の星とせんが為に・・・。

 [ No.102 ]


Stray hound runz again

Handle : “光の弾丸”静元星也   Date : 99/06/01(Tue) 21:59
Style : イヌ◎,マヤカシ,カブトワリ●   Aj/Jender : 22/Male
Post : ハウンドN◎VA本部生活安全課


 再び、運命の舞台は一変していた。死神の頭を確かに貫いた光の槍。雄叫びを上げながら横から飛び出してきた破壊の女神。この状況でなお、鼻歌を歌いながらケースを奪っていったドレッドヘアのタクシードライバー。不運な人質と共に、体の半分を失った蛇の悪魔は夕闇のLU$Tへと消えていった。
「奴の行く先は‥‥そもそも、この街の構造はどうなってるんだ?」
 水蒸気が霧となって壊れたショーウィンドウから吹き出している。星也はマガジンを交換すると銃をホルスターに収めた。普段なら‥‥N◎VAなら‥‥パトロール中にバイクからでも必要な時に情報を呼び出せるのに。
 中華街の煌くネオンに火が点っていく。辺りを見渡していた星也は道端の公衆DAKに気がついた。
 手をかざすとスクリーンに光が現れ、Welkome to YOKOHAMAの文字が浮かびあがる。LIMNET Yokohama。現在のDAK、IANUS統一規格の開発にも携わっていた、N◎VAでも有数のトロン系企業だ。
 LIMNETの誇るデータサービスは完了まで数秒かからなかった。インターフェースも判りやすいし、ハウンド基地のものとそれほど違和感を感じない。
「NEO関帝廟‥‥ここか」
 軽い笑みを漏らし、画面から目を離すと、星也は死神が消えていった方向に鋭い視線を投げた。有名なホットスポットだそうだが、この時間ならそう人はいないだろう。開けた場所だし、ある意味幸運かもしれない。
(バイクでここまで来てれば‥‥くそっ)
 心の中で毒づくと星也は駆け出した。普段のRV-Iはそもそも中華街に入る前に駐車場に置いて来ていた。バッヂをかさに非常時の押収といこうか? だが、それは星也の嫌うやり方だった。それに、それほど都合よく目的に適うヴィークルが走っていたりはしない。
 どこからか聞こえてきた水素タービン音が遠ざかっていった。自分と同じ場所へ向かう誰かが、一足先に向かったのだろうか。
 星也は足を速めた。近道とおぼしき路地を急ぐ。足が見つかればいいのだが。
 眼の中に明かりの灯った木製の龍が通りの上から猟犬を見下ろし、機械仕掛けの鳩がその上を飛び去っていった。

http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/nova/stajR/seiya.htm [ No.101 ]


それの宴

Handle : メレディー   Date : 99/06/01(Tue) 19:45
Style : ニューロ◎、ニューロ●、タタラ   Aj/Jender : 推定年齢22 / 女性
Post : LIMNET電脳情報技師 特級査察官


事態は切迫している様だが、李小東の声はまだカードを持つ者の特有の独特の落ち着きが感じられる。
構造物からの彼の声に耳を澄ませていると、傍らのドミネートした映像から忙しないざわめきが漏れ、紅い輝点の移動は新たな何かを得ようとしているかの様な移動を見せる。

何故、枷のはまった自らに新たな殻を求めているのか・・・思案する。
いや、殻・・ではない。
NEO関帝廟へと向かう女性の苦悶の表情を見つめ、確信する。
「それ」の輝点から普段耳にする機械達の囁きとは異なる声が微かに聞こえ、それは更なる昇華へと移動する様にメレディーには見えた。
見えぬ身体が鳥肌を立てるのを感じ、ウェブの視界に現実に座している施設が重なると彼女は両手で腕自分を抱きしめた。行き着いた思索の恐怖に身体が無意識にフリップ・フロップを強いているのだという事に気が付く。彼女は今になってようやくアンソニーが諦めの様な自嘲で自分に微笑んだ訳を理解しようとしていた。
彼に出会った時点で既に最初の取引は行われていたのだ。
西江楼に集まる顔触れが彼女の思索に彩りを添える。
奪われるべきモノが奪われ、戻るべきモノが戻ったのだ。意志を持つ「それ」・・・いや、既にもう憑き物からその先へと向かう輝点に、奥深く干渉できる瞬間は数少ないだろう。「それ」が機械であるうちに、やれる事をやらなければ。
劉の名を持つ者が今自分に接触してきたのはそれなのだろう。アンソニーの遺言を載せたヴィークルを走らせた所まで見遂げてから接触してきた訳がようと知れる。鍵穴はないが、抉じ開けるツールをカードとしてまだ持っているのだろうとメレディーは考えた。

『李さん、劉さんへのプレゼントよ。出来る事なら、どうにかして欲しいわ』
ヴィークルに纏わせたプログラムの核のアンソニーの面影だけを取り除き、彼女はそれを構造物へ引き渡すと同時に、ヴィジョナリーツールで輝点の移動に合わせ、ドミネートした映像回線を順次切り替えてその後をトレースする。

守らなければ。
「それ」が変わりつつある状況でアンソニーが抗う事の出来なかった狂気を持ち越す訳にはいかない。ましてや今を越える狂気を生み出す事を傍観する勇気も無い。
メレディーは銀色の防壁を築きながら、見えぬ身体で「それ」の後を追い、疾走する。

昇華の宴が・・・始まる前に。

http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.100 ]


閃き

Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ   Date : 99/06/01(Tue) 17:15
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI   Aj/Jender : 2?/M
Post : Fleelans


「好みの銘柄がなかったんでね、煙草は買ってこなかったよ」
 部屋に入ってくるなり差し向けられた質問に軽くいなして答えた。どうやら依頼主は焦っているらしい。言葉の端々に軽い苛立ちを感じる。そして浮かべた笑顔の端々にも。普通の人間なら見逃してしまいそうな僅かな表情すらも捉えてしまう自分に嫌気がさすときがある。それは今のような時だ。
 どうもこの女性と話をしていると、暗闇の中で将棋を指している気分になる。先は一手も見えず、しかも指し間違えるとそれでGAME OVER。めでたく地獄行き。悪魔とご対面、って訳だ。
「次のお仕事は護衛ではなく、モンスターを退治する『勇者様』の仕事って訳ね?了解、引き受けましょ。護衛よりかはやり甲斐がありそうだ。報酬の件もそれで結構。しっかりと払って頂戴ね」
 そのような思いを振り切るかのようにウェズは軽口で女の話に答えた。

 女は窓から飛び降りると、知り合いであろうか…バイクに跨りNEO関帝廟に向かう。それを見送りながらウェズは自分のポケットロンをのぞき込んだ。
[…所持者:…………]
 見慣れぬ文字が並んでいる。通常のデータベースであるならダミー企業とされる部類のものだ。しかしウェズは一瞬で本当の所持者に気づいた。三合会の大立者の中に確かそれと深い関わりがある人物がいるはずだ。しかも彼はここヨコハマに居を構えている。とすれば…
(『腕』も無事向こうに渡った訳ね…あとはウィルス弾とやらができあがるのを待つだけ、か)
 素早くデータを消し、次のデータを検索する。現在位置からNEO関帝廟までの最短距離。そしてそこに最短時間で向かうに相応しい方法…。
(もし…『彼』が三合会の意向で現在動いているとすれば…ひょっとしたら力を借りれるかも、な)

 ウェズは瞬時に閃いた自分の考えに突き動かされるようにポケットロンを操作し始めた。
 “狂える車輪”に連絡を入れるため。

http://www.mietsu.tsu.mie.jp/keijun/trpg/nova/cast/cast03.htm [ No.99 ]


疾駆─細やかに砕かれた硝子の破片

Handle : “紅の瞳”秦 真理   Date : 99/06/01(Tue) 15:38
Style : カタナ◎レッガー●カリスマ   Aj/Jender : 23/female
Post : N◎VA三合会


ショウウインドウのガラスの破片が細やかに舞う。
煙草を買いにいくといって、出ていった探偵が、戻ってきた。真理は、不快感を落ちるかせるために、大きく溜息をつくと、探偵に向かって微笑んだ。
「お気に入りの煙草はありましたか?」
探偵の方に向き直りながら、真理がいった。あまりにも速い探偵のおかえりに、思わず皮肉がこぼれる。
「…『報告書』の方は確認させていただきました。良い出来ですね…貴方にお願いした私の目に狂いはなかったようです。出来ればこのまま依頼を続けていただきたいのですが、いかが?」
探偵─ウェズリィの答えは、先程聞いた通りなのだろう。真理は、長髪を隠した帽子のひさしをいじりながら言葉を紡ぐ。
「…あれは、カーマインはナノマシンと化物の融合したもの、現在のところそんなものです…そして、それを静めるための手段のひとつが…」
そこで、言葉を区切り、作業を続ける劉の<腹心>に一瞬だけ目をむけた。
「…彼らの手元にあります。貴方達にはその手伝いをしていただきたいのです、あれを静めるために。報酬の方は前にお話した通り。…あなた方の腕と口の堅さを信用していますから」
そういって、真理はウェズリィ達に向かってやわらかい微笑みを向けた。─しかし、その"紅の瞳"は全く笑っていなかった。
外に目をむけると、破壊の女神の鉄の顎が、カーマイン─未だ完全に覚醒していない"蛇"の体を噛み千切っていた。
(終わったの……いや、まだ終わらない。あれは人ではなく、渾沌が憑依したもの。そして─)
『報告書』にあった通り、自らが聞いた通り、その背後にあるものが、未だうごめくのなら。
再び外に目を向ける。カーマインがいた建物から凄まじいスパーク音が響き、水蒸気があたりに充満する。
そこから、女性に抱えられたカーマインが飛び出し、NEO関帝廟の方向に疾駆する。
真理は深く、深く溜息を吐き、『報告書』を首筋のスロットから抜き取ると、劉に渡す。
『作業』はまだ終わっていないらしい。
「…そろそろ劇終を迎えても良い頃じゃなくて?」
そう、劉にむかって問う。
そして、そのまま窓にむかって移動し、窓に手を掛けながら、
「劉さん、司祭様から『アラストール』の封印伝承のデータをいただいたら、追いかけてきて。あとウイルス弾の完成を急いで。ウェズリィさん達は…劉さんからウイルス弾をいただいたら、追いついてね目的地はたぶん…NEO関帝廟だと思うから…私は、デートの誘いを掛けにいってくるわ」
華やかな微笑を一同に向けると、真理はまどから裏路地に向かって跳躍した。

裏路地に着地すると、こちらに向かって疾走してくるバイクが一台。NEO関帝廟の方向に向かっている。
進路をふさぐようにバイクを止めると、後ろに無造作にまたがって、搭乗者に話し掛ける。
「申し訳ないのだけれど、NEO関帝廟まで乗せていっていただけないかしら?」
ねだるように搭乗者にもたれかかる。よく、確認すると搭乗者は真理が良く知るカブトの親しい人。僅かに驚く。
「…目的は私と同じかしら、バートンさん。それなら近道をご案内するわ」
かすかな微笑を残して、バイクはNEO関帝廟にむかって疾駆していった。

 [ No.98 ]


-Fat Chance-

Handle : ブライト・バートン   Date : 99/06/01(Tue) 13:26
Style : カブトワリ◎●カゼ、ニューロ   Aj/Jender : 26yrs/Male
Post : フリーランス/元傭兵


舞台の状況はまた一変した。ノスフェラトゥは最早その不死性を保ち得なくなっている。
……人質、か。
苦々しく微笑む。人質ごと殺すことに普段なら躊躇はない、が今の状況で人質を殺すわけにはいかない。
……ならやることは一つだな。
手近なところにあるバイクを蹴り飛ばしてエンジンを無理矢理始動させる。
その後慣れた手つきでWindzを黙らせつつ作動シークエンス。水素エンジン特有の甲高いエンジン音そして振動。ハンドルを握ってアクセルをふかし目的地――NEO関帝廟――へとバイクを走らせ始めた……。

 [ No.97 ]


NEO関帝廟

Handle : “ザ・スネーク”カーマイン・ガーベラ   Date : 99/06/01(Tue) 00:17
Style : カゲ◎●・カタナ・ニューロ   Aj/Jender : 28歳/男
Post : ?


突然の来訪者に鳩達が驚いたような泣声を上げて飛び立った。
もちろん生身の鳩ではない、この建造物の美観を整えるために放たれた人造の鳩、サイバーバードだ。
ここは、横浜ルストの一角にある通称「NEO関帝廟」。
NOVA建造から2年後に、ルストの全身が出来上がった時、一人の大物華僑によって建立された中国風の寺院だ。
以来数十年間、ここは大陸の人間達にとって憩いの場となっている。
今では中華街の住人によって管理運営されており、ちょっとした観光スポットとしても有名だった。
普段なら、この時間帯でも大勢の人達でにぎわう 関帝廟 だったが、さすがにこの非常時にここを訪れる物好きはいないのか、あたりはシンと静まり返っていた。
そこに、一組の男女が姿を現した。
女は下半身と両腕のない男を背負っていた。泣き笑いのような表情をうかべ、「助けて・・・助けて。」と何度も呟いている。
背中の男の異様な風体は人間というより、人形かさもなければ悪趣味なオブジェを連想させたが、爛々と光る相貌とそこから発散される凄まじい殺気とが、それがまぎれもなく生ある存在だと主張していた。
むしろ、男を背負っている女の方が何かしら、作り物めいた雰囲気を感じさせた。
男、カーマインは後を追って来ているものがいないか確認すると、ゆっくりと関帝廟の“本堂”を見上げた。
薄闇の中、宝珠を掴んだ双龍が、屋根の上からこの奇妙な侵入者を見おろしていた。
ここに来て、やっと安心したのか、カーマインは深く息を吐くとさらに寺院の奥へと歩を進めた。

 [ No.96 ]


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