[ Chinatown BBS Log / No.331〜No.370 ] |
死を呼ぶ冥き翼
Handle : “監視者”壬生(ミブ) Date : 99/11/04(Thu) 21:27
Style : クグツ◎・チャクラ・カゲ● Aj/Jender : 30代/男
Post : 大災厄史編纂室室長
バージニアとモリーが抱き合って再会を喜びあっている。
その様子はまるで中の良い姉妹のようだった。
そこにいる者全員が状況を一時わすれ、優しげな気持ちに頬をゆるませた。
しかし、バージニアは後ろに立ちつくす探偵の姿を見、哀しげに瞳を潤ませた。
「あの人、サンタナさんの友達だったんだね・・」
「サンタナさんは悪い人じゃなかったよ、私の事を気遣ってくれたの。」
その言葉にモリーは立ちつくす男とその足下に横たわるサンタナの遺体を見つめた。
自分の知らないところで1つの闘いがあり、そして確実に命が失われたのだ。
“真理さんと約束したんだ、この人だけは、バーニィだけは私が命に賭けても守ってみせる。”
新たな決意に闘志をふるいたたせ、バージニアを抱く手に力を込めた。
その時
「そこに居るんダロ?・・出てコイよ。そういうオトコは嫌われるんダゼ?」
我那覇の声が低く静かに響きわたった。
そして
その男が姿を現した。
大災厄史編纂室 室長 壬生。
ゾクリ
モリーは全身が総毛立つのを感じた。
真理から聞いてはいたが、はじめてみるその男は確かに悪魔そのものだった。
“なんて・・なんて禍々しい人だろう。”
我那覇の3メートル程背後に、建物の影にとけ込むように立つスーツの男。
想像を絶する深い暗黒が一瞬その男の内側から暗き淵を覗かせたような気がした。
沖が来方が、シンジが我那覇が、全員が金縛りにあったようにその男、壬生から目を離す事ができなかった。
しかし、かつて対峙したことのあるシンジが最初にその呪縛から解き放たれたようだった。
「どうして?どうしてオレのチームまで皆殺しにする必要があったんだ。」
ギリギリと痛いほどくいしばった歯の間から、しぼりだすようにシンジが問うた。
しばしの間の後
「道ばたに落ちているゴミを踏んでしまったとして、君は何か感慨をもつのかね。ミスタ、神楽。」
薄く笑い、堕天使はその死の翼を広げた。
超絶の破壊力を秘めた右腕が彼らの方に掲げられた。
[ No.331 ]
到着
Handle : “疾駆の狩人”神狩裕也 Date : 99/11/04(Thu) 23:25
Style : チャクラ◎、カゲ、ヒルコ● Aj/Jender : 23/男
Post : 狩人
今まさに壬生の右手がその力を解き放とうとした瞬間、
「ククク・・・いきなり力を使うトハ無粋だろウ・・・」
バージニア、モリー、神楽、我那覇、そして壬生。対峙する彼らの耳に獣のようなくぐもった声が響いてきた。
・・・どしんっ!
次の瞬間、隣のビルから影が跳躍、着地。彼らの前に現れたのはすでに鬼と化した神狩、そして少女トーキー火鷹遊衣。
「死にタクくなければ安全な場所デ撮影してイロ」
火鷹を安全な場所へと追いやり・・・悪鬼のごとき笑みを浮かべる。
戦闘、開始だ。
[ No.332 ]
ボクタチノタタカイ
Handle : “ボディトーク”火鷹 遊衣 Date : 99/11/05(Fri) 01:30
Style : マネキン◎トーキー=トーキー● Aj/Jender : 17歳/女
Post : フリーの記者
死んでも良いかな。
鬼の言葉に、遊衣は少しだけそう思った。
不時着したヘリ。
殺気、血の、硝煙の臭い。
自分は、これをメディアに流して死んでいけるのだ。
それなら、死んでも良い……。
『でも、今のボクにはする事がある』
神狩が押し遣ってくれた位置で、とっさにカメラを構えた。
ボクの、ボクだけが挑める戦いがある。
真理のくれたビジョンに映し出された男。
彼女のなにかを、打ち砕いた男。
でも、彼の言った事はきっと間違っていて、正しい。
人間は汚くて……でも、だから人間なんだと、遊衣は思う。
穢れた自分を引きずって……でもわずかなりとも光のほうへ。
人間はそうやって、生きていくものなんだ。
それを、まるでさも間違っている様に言われたんじゃたまんない。
だから……堕天使は、ボクの手で始末する。
きっと、社会は彼を、彼らを許さないと証明してやるんだ。
映し出されるビジョンを転送するために回線を開く。
それが、遊衣の宣戦布告だった。http://village.infoweb.ne.jp/~fwkw6358/yui.htm [ No.333 ]
最終戦
Handle : 来方 風土(きたかた かざと) Date : 99/11/05(Fri) 07:35
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎ Aj/Jender : 21歳/男
Post : フリーランス
壬生は、掲げた右腕を脇の下を潜らせ、背後に向ける。その先には、何時移動したのか、拳を振り上げた風土の姿があった。背後からの奇襲に動じる事無く、壬生は右腕の力を放つ。まともにその力を食らった、風土の身体が吹き飛ぶ。風土の身体はフェンスに激突し、屋上の床の上にその身を横たえる。
壬生は、眼前に立つ神楽達を気にせずに、背後を振り向く。
「何時まで、そうしてるつもりですか、来ないのなら後ろの方達から始めますが」
壬生のその言葉に、皆の視線が風土に集中する。
「ばれたか」
風土は、照れた様に頭を掻きながら、起き上がる。その手には、拳大のブロック片が、握られていた。
「ちぇ。後ろから、ぶつけてやろうと、思ったのに」
ブロック片を投げ捨てると、風土は苦笑する。壬生の衝撃波を、間近で食らったと言うのに、その身体には傷は無かった。
「さあ、こいよ。ぶっ飛ばしてやる」
風土は、右手を伸ばすと、壬生を手招きする。そして、その顔には、何時もの笑みが浮かんでいた。
[ No.334 ]
もう一つの影
Handle : 千眼(サウザンドアイズ) Date : 99/11/05(Fri) 21:14
Style : クグツ◎・マヤカシ・ニューロ● Aj/Jender : ?
Post : 大災厄史編纂室
「おや、奇遇デスねえ。私もスポーツは観戦よりもヤる方が好きなのデスよ」
斬銃拳が振り返ると、黒いボディアーマー、アサルトライフルで武装した男達が彼を取り囲んでいた。
20人はいるだろうか。
姿形、装備は先ほど彼が覗いていたSTARビルの中にいたエージェント達と変わらなかったが、彼らが持つ雰囲気、プレッシャーは別ものだった。
斬銃拳の眼がスウッと細められる。
「気付いたようだな。」
男達の口から、まるで 全員が1つの生き物でもあるかのように、よどみなく同じセリフが流れ出た。
「この者達は一人一人がおまえと同等の力を持っている。おまえに勝機はない。」
「千眼サンが自ら精鋭を使って私を始末しに来たというわけデスか。光栄デスね。」
まるで動じる様子なく、見返す斬銃拳。
「斬銃拳、帰って和泉に伝えろ。今回の件に手出しは無用だと。」
しばしの間の後。
「和泉サン?私の知り合いにそのような方はいらっしゃいませんよ。それに・・・」
「言ったでしょう?スポーツは観戦よりヤる方が好きなのデスよ。」
その手にはそのハンドルが示す通り、刀と銃が握られていた。
[ No.335 ]
禁忌
Handle : 羽也・バートン Date : 99/11/06(Sat) 03:49
Style : ミストレス◎カブト=カブト● Aj/Jender : 26歳/女性
Post : フリーランス
きりがない。
羽也は、珍しく顔をゆがめながら唇を噛む。
場所は七階の階段。八階との間くらいだ。
次から次へと出てくる部隊。彼女達は、追い付いて来た彼らを迎え撃つように対峙した。
誰一人として、上にはいかせるまい。その思いを胸に。
死角なく綺麗に撃ち込んで来るその銃撃に羽也は、真理は、苦戦を強いられる。どの方向へむいても送りつけられる死への招待状。それを叩き落とすのはカブトとしての熟練の技があればこそ。
真理を守りながら、ふと考える。その銃弾を防ぐ事で思い出す、過去への回帰。
(私はどうして人を護りたいと思うのか?)
自問。…答は…。そうすることで、人を救えると思ったから。自分は、不器用だから。そうすることで、体を張る事でしか自分を表現できなかったから。言葉では人を救うことの出来ない彼女が選んだのがカブトとしての道。
…刹那。
真理に火線が集中。
戦法を変えてくる。満遍なく二人を狙う事をやめ、真理に銃弾を集める。
真理が思うように身動きが取れなくなる。羽也も真理への銃弾を彼女の動きを阻害しない程度に防ぐ事が難しく…。
(…このままでは!)
…この状況を打開するには。――相手の頭数を減らす事。しかし。刀では、届かない。それに真理も動けないこの状況。
迷っている暇はない。ここで、倒れてはならないのだから。
羽也は、死の郷の彗星剣を鞘に収める。
腰に右手をやり、“念の為”に用心のためもってきていた武器……。出来る事なら、使いたくはなかった“禁忌”を手にする。
そして、禁忌――“AP40”を抜く。
トリガーに指をかけ、わずかにためらう。
トリガーを引く。軽快な発射音とともに、薬莢が床に落ちていく。
羽也が正確な射撃の元、確実に部隊を削っていく。今までとは、違う彼女の攻撃。今、羽也は人を生かすことを考えてなかった。意図的に、無視していた。
ただ一人を、生かすためだけに。
ただ、あの少女を迎えにいった皆を援護するために。
[ No.336 ]
死の卿と夜の魔剣
Handle : “デス・ロード”アレックス・タウンゼント Date : 99/11/06(Sat) 11:05
Style : カブト=カブト◎●,バサラ Aj/Jender : 32?/Male
Post : Majician of Nite, who serve Death
――霧の中を狼が走っていた。自分を導いてくれたあの銀の狼だった。だがその銀の瞳は闘志に燃え、見事な体躯には幾筋か傷が走っていた。
――いつの間にか狼は二匹になっていた。二匹目は紫の瞳をしていた。二匹は立ち止まり、激しく唸り声を上げながら牙を剥いていた。炎のように真っ赤な舌が、ちろちろと覗いている。
――今にも飛び掛かろうとしている二匹の前に大きな獣がいた。獣は後ろ足だけで立ち上がっていた。怪物のようなその目は、深淵の如き‥‥
(‥‥‥‥夢か?)
医療システムのディスプレイが目の前で光っていた。規則正しい緑の波が揺れている。リンクされた闇の公子の応答はオールグリーン。SRのロゴが、左下で光っている。
エマージェンシー・チームの的確な治療と微細機器の驚異的な魔術が、自分に再び力を与えていた。インプラントされたサイバーウェアの動作は全て正常に戻っていた。あとは鋼でなく、肉の方だ。
上体をそろそろと起こし、ベッドの上で姿勢を変えてみる。まだ痛みが大きかった。いくら痛覚を遮断できても、これではまずいだろう。しばらく休めば動くぐらいはなんとか可能だろうが、激しい運動は当分無理だ。
死神の使いの名に恥じるとんだ失態だった。ふたつの盟約も果たせなかった。ただ一撃で、この自分が倒れ伏してしまったのだ。
目を閉じると悪夢のようにあの時の光景が甦ってきた。陽炎のように揺れるあの男の腕。そこから振るわれた堕天使の力。また、誰かが犠牲になどなっていないだろうか。
頭を振って記憶を振り払い、窓の方に目をやる。
自分の装備は全てそこにあった。あの銀狼が気を遣ってくれたのだろうか、自分が昏睡している間に、簡単な状況と連絡先のデータはポケットロンに転送してあったらしい。幾度となく自分を救ってくれた盾、夜の力を撃ち出す大型拳銃、砕け散ったお守りに古ぼけたタロット‥‥ただ一つ、彗星剣だけが欠けていた。
タロットを手に取り、軽く切る。この街に光の軍勢がやってくる前から帯びていた剣だった。盟約にあらざる死を断ち切る剣。星幽界をも断ち切る剣。自分の半身も同じだった。今はあの娘が、持っているのだろうか。
アレックスは苦笑した。いや――紅玉の戦姫にはもっと相応しい刃があるだろう。
何気なくめくったカードは女帝だった。その時――彼の脳裏に不思議なイメージが浮かんだ。
あの剣を手に取り、決意を固める彼女。あの剣に無言で語り掛ける彼女。右手にあの剣、左手に盾、紅玉の戦姫の紅の演舞を護るように寄り添う彼女。あの剣を鞘に、少女を救いに駆ける彼女。そうだ、一緒にいるはずだ。
結婚式で頼まれた品を渡した時の彼女の表情が思い出された。その盾がいつまでも砕けることがないよう、自分は祈ったのだった。優しい心を持ったあの花嫁に。
――大丈夫さ、盾の貴婦人。君にならあの剣を使える。
アレックスは窓の外に目をやった。黒い布に金粉を散らしたようだった。不夜城のようにLU$Tの夜景が広がっていた。まだ、夜は終わっていない。
――強き想い持つ主の手にて、あの剣に再び夜の炎が灯りますように。正しき死の盟約が護られますように。そして、戦地に赴く戦士たちに、夜の加護のあらんことを。
遥か遠くで、LIMNETヨコハマのネオンが輝いていた。http://www2s.biglobe.ne.jp/~iwasiman/foundation/repo/991030.htm [ No.337 ]
ザンジュウケンと20人の強化兵
Handle : “バトロイド”斬銃拳 Date : 99/11/07(Sun) 19:57
Style : カタナ◎● カブトワリ チャクラ Aj/Jender : 25歳/男性
Post : フリーランス/ソロ
そう斬銃拳に和泉という知り合いはいない。
日本軍進駐以前・・・N◎VAに既に進入していた諜報員が数名いた。
その一人が斬銃拳とコネクションの深いクロマクである“天魔”である。
彼はストリートのソロの紹介人・賞金稼ぎ達の情報源としてひとりのクロマクと認められストリートの情報を得、それを日本軍に報告している。
また斬銃拳は最小限の情報だけを知らされ、天魔がストリートでの汚名を着せた反日思想の者達を賞金首として狩る事が多かった。
そして斬銃拳は常に“ただの賞金稼ぎ”として反日主義者を処刑してきた。
今回も似たような依頼だった。傭兵としてアンダーソンに雇われバージニアを無事に彼の元へ届くのを確認しなくてはいけなかった。そして出切ることなら賞金をいただきたかったのだが・・・。
・・・斬銃拳の体がゆらりと揺れた。
一瞬で強化兵達の間を駆け抜けると、その空間には何時の間にかショットガンの弾丸が浮いていた。
そのまま振り向かず“駆風”を放つ。渾身の背面撃ちは一撃で5つの弾丸を貫き、空間を炸裂させる。
一瞬の後、斬銃拳は四方から射撃を受けた。
「馬鹿ナ・・・!」
手を地につかぬまま連続的に側転を放ち、ぎりぎりで避ける。
散弾は全て地を抉ったのみだった。
(何ィ・・・!散弾の雨を全て避けたというのカ・・・!)
強化兵達は不気味に、そして恐るべきチームワークと戦術で斬銃拳を追い詰める。
(ならば・・・コレならどうデスか!)
駆風の残弾5発を全てフルオートで放つ。
「うおおおおおおぉぉぉ!」
斬銃拳は地を蹴り一気に弾丸に追いつきかい潜り、強化兵の陣形の中心に立つ。そして脇の下に刀を滑り込ませ前かがみになり、背中から刃が突きだしたような格好となる。
弾丸は刃に当たり四散し前衛の強化兵達を貫き、その後衛の強化兵達をも打ち倒す。
しかし、せいぜい7,8人を倒しただけで、残りの兵は臆する事無く銃を向ける。この姿勢からでは回避は不可能だ。
「やっタ・・・!」
斬銃拳はほくそえむ。
「私の勝ちデス・・・“アタナひとりを騙せた”私の勝ちデス・・・!」
たった一発、強化兵達をそれた弾丸はまっすぐに、斬銃拳のギターケースへと飛び、それを貫いた。
爆薬の詰まったギターケースは大爆発をした。
十数人はそれで吹き飛ばされた。飛ばされてくる兵を裏拳で叩き潰し、近距離でバランスを崩している兵の右手を掴む。そして射撃を行う兵に投げつけビルから弾き出し、また一人の兵の首を掴み楯にして射撃を繰り返す残りの兵に一気に近づき、連続の突きで砕く。
さっと辺りを見渡すと、斬銃拳はさっさとSTARビルへと飛び移った。
“千眼”本人の姿が見あたら無かったからだ。[ No.338 ]
Kugel Zeit
Handle : ”LadyViorett”我那覇 美加 Date : 99/11/09(Tue) 01:34
Style : カブト◎=カゼ●=カブトワリ Aj/Jender : 28/female
Post : フリーのカブト/元”麗韻暴”二代目頭の兼業主婦
「さあ、こいよ。ぶっ飛ばしてやる」
風土の声が響いた瞬間、美加は乗っていたバイクを振り回し、壬生の方に走らせる。
そして壬生の方に向けてショットガンを撃ち続けるが、その弾は逆に当たらずに美加を乗っているバイクごと引っくり返してしまった。
かろうじてバイクの下敷きにならなかったものの、なぜひっくり返ったのかわからず、ショットガンは彼女の手の届かない所に転がっていた。
「私には生半可な手は通用しない。」
背後から壬生の声がする。
「!?」
殺気を感じて腰のホルスターの9−WHを抜き、後ろを振り向きざま撃つ。
壬生はすっと最小限の動きで動き、避ける。
撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
しかし壬生は全て最小限で避ける。
そして美加を軽くあしらう。
「思ったほど手応えないな。」
「・・・!?」
改めて壬生との間合いを取り、9−WHを構える。
「・・・・そろそろこっちも本気出さなきゃね。」
[ No.339 ]
蜘蛛の糸─血化粧
Handle : “紅の瞳”秦 真理 Date : 99/11/09(Tue) 05:08
Style : Mistress◎Regger Katana● Aj/Jender : 24/female
Post : N◎VA三合会
生暖かくぬるまってまとわり付く、淀んだ空気のけだるさとは全く相いれぬ緊張感。
それが、それぞれの思惑を孕み、各所で間断なく、びりびりと音を立てている。
のぼった月の高さを、一度も確かめることなく──
蜘蛛の糸に絡め取られるような感覚、自分達を正確に追い続ける冷徹なまでの、視線。
何人、いや何十人切り倒したかなど、もう覚えてはいない。着実に、相手の部隊を─恐らくは半数以上削りながら、確実に、その不気味なまでに統率がとれた“手足”に、追いたてられていったのは真理と羽也だったのだ……。
ゆっくりと、そして緩慢に、追い詰められていく。
まるで、ひとつの生き物のように不気味なほど死角なき攻撃を繰り返す、“機械人形”達。
焦りが、ここへ来て初めて、真理を捕らえる。思ったように行動できない──
その複数の視線ひとつひとつが、自分達の動きを正確に捉えていくのを、真理は肌で感じていた。
それが、ひとつの思考にあやつられるように─複数の視線?ひとつの思考?
──フラッシュバック。数ヶ月前の関帝廟で、あの時感じたのはまぎれもなく、カーマインの複数の“眼”─
つまり、その“眼”すべてを目の前に展開する人形達に置き換えれば─脳裏に閃くものがあった。
──人形達の指揮官は、ニューロ。そして目の前に出てくるほど、愚かではあるまい。
(せめて…一瞬、いや刹那でもかまわない。付け入るスキができれば……)
その時、羽也が“AP10”を抜き、正確な射撃で打ち倒していく…驚愕に真理は一瞬目を見開いた。
真理ですら、羽也が銃をここまで使えるとは、知らなかったのだ。
そして、指揮官に何か予想外のことでもあったのか、一瞬だけ動揺が走ったのを真理は見逃さなかった。
─刹那、思考が認識するよりも疾く、真理は羽也の背後から舞い出る。
一斉に、羽也の射撃から体制を立て直した人形達のライフルの銃口が真理を捕らえ、火を吹いた。
ふわりと、風のように、軽やかに真理は舞う。弾が僅かに真理をかすめるが、“舞”は止まらない─一気に距離を詰めて、かろやかに、舞い降りる。血が滴り落ち、すでに斬れぬ愛刀を目の前の人形に突き刺すと、手放し、オメガREDを起動。
「生きて帰れると思わないことね…」
まさに、神業といってよかった。流れるように優雅に、真理は飛び交う死への招待状をかわしながら、紅い刃を空間に滑らせる──確実に、死をもたらす舞踏。
紅い刃が人形達の体をなぎ、紅い蝶が群れをなし、舞った。
残った人形達が真理の背後を取り、銃口が彼女を捕らえ──羽也の“AP10”が火を吹く。
その正確無比な射撃が、かまえられたアサルト・ライフルを撃ちぬき、弾く。その手腕はまさに、落つることを知らぬ盾。
二人とも、息のあったコンビネーションだった、持つべき実力すら凌駕した──
音もなく、流れる真理の靴をこする音だけが室内に響き、人形達が次々と物言わぬ躯と化していく……。
最後に残った人形の前に舞い降りると、真理はタイミングをずらしてスローモーションのように─視線を流す。
「痛みを、知りなさいな…」
血化粧に彩られた、形の良い唇を割ったその声音は、これまで羽也でさえ耳にしたことがない、低く、高い、温かく、まろやかで、鋭い、えもいわれぬ声。血のようにとろりとして甘く、奥深い場所に絡みつく。
その“人形”を通して見ているであろうものに。『痛み』を知らぬものには、負けぬと。
そして初めて、真理は表情を浮かべた。見惚れる妖艶で凄絶な笑み。
紅の刃が、最後の人形を凪いだ。
死に近いひとときの静寂と物言わぬ躯。その合間で真理は一回転してその“舞い”を止め、返り血とかすめたライフル弾につけられた傷で、己が身を紅く染めながら、がくりと片膝をつく。疲労の色が濃い。慌てて駆けよる羽也に、真理は自嘲気味に微笑む。
「なんて、無茶をするんです!いきなり飛び出すなんて、死にたいのですか!!」
その様子に羽也は珍しく声をあらげて真理をしかる。弥勒越しの視線を羽也へと向けて。
「死ぬことは、怖くないわ。…私が怖いのは、自分が自分でなくなることよ…自分自身を見失って、ね」
真理を駈りたてるのは、繋ぎ止めるのは、護りたいもの、帰る場所という名の蜘蛛の糸。
闇の中に、落とされたひとすじの光明──
「私達はあくまで足止め、よ。だけど、一人も上へと行かせる気はないわ。残りは上で迎え撃ちましょう。…恐らくは半数、いえ、三分の二は削ったはずよ?もうひとふんばりね」
疲労と集中力の酷使から、悲鳴を上げる体を動かし、立ちあがって真理は羽也にいった。
「ええ、そのようですね…」
階下から上がってくる気配と屋上の方から漏れる深淵の気配に、羽也は疲れた体を、表情を引き締める。
下から上がってくる気配に向かって、真理は“EXPLODER”短剣型手榴弾を数本、時限信管モードで放ち、その指向性爆薬が爆発する音が聞こえる中を、羽也とともに上へと駆けた。
目的地は広いフロアを持つ、10階。もし自分達の息の根を止めるつもりなら、来るはずだ。
真理のサイバーウェアの残り稼動時間は、あとわずか……。http://www.freepage.total.co.jp/DeepBlueOcean/canrei.htm [ No.340 ]
闇の力
Handle : “監視者”壬生(ミブ) Date : 99/11/09(Tue) 22:08
Style : クグツ◎・チャクラ・カゲ● Aj/Jender : 30代/男
Post : 大災厄史編纂室室長
我那覇の攻撃とともに来方と神狩もまた行動を開始した。
神狩は腰を落とし、全身に力をためた。
壬生との距離は5メートル。彼の超人的跳躍力をもってすれば無いに等しい距離だ。
来方は我那覇の攻撃によって生じた壬生の隙をつき、左へ円を描くように移動した。
その手に手品のようにハンドガンが現れる。
マズルフラッシュが閃く。
“ぶっとばす”と宣言し、ファイティングポーズをとったまま、ぎりぎりまで素手の間合いに接近してからの絶妙の奇襲だ。
しかし
カシュッ
微かな擦過音と共に銃弾がかき消えた。
とっさに右方へと跳ぶ来方。
その横を何かがかすめて通り過ぎた。
「化け物め。」
来方が毒づく。
壬生は彼が撃った銃弾を全て素手でキャッチし、そのまま指弾で返したのだ。
しかし、背後にはすでに神狩が迫っていた。
瞬間移動と見まごう程の跳躍から無防備の背中へ、必殺の貫手が振り下ろされる。
ユラリ
壬生の体が陽炎のように揺れた。
来方への攻撃のために踏み出していた右足を軸にして、回転するように必殺の貫手をかわす。
丁度、神狩と壬生が背中合わせで立つ格好になった。
ズシン
100sをゆうに越す神狩の巨体が中を舞う。
そのままフェンスに激突する。
中国武術に似た0距離からの体当たりが炸裂したのだ。
そのまま、さながら舞いのように体を捻ると無造作に右腕で後方を薙いだ。
ウォン
不可視の衝撃波は我那覇が撃った拳銃弾をはじき返し、再び攻撃を加えるべく近寄ろうとしていた来方を吹き飛ばした。
空中で体をひねり、猫のように着地する来方。
神狩もまた、ダメージを感じさせない身のこなしで立ち上がった。
壬生と来方、神狩が丁度三角を描くような形で再び対峙した。
ジッとブラックグラス越しの視線が来方を睨め付けた。
そして何かに納得したように微かに頷く。
「なるほど、あなたは“風”を操る能力を有しているのですね。ミスタ・来方。」
「“力”で空気の振動を押さえ、衝撃波のダメージを軽減し、加えてとっさに後方に跳ぶ事により“震王”の射程から逃れた、といったところか。若いのに大した反射神経だ。」
淡々と壬生は言った。
“デスロード”を一撃で瀕死に追いやった力が通じなかった事による動揺は微塵も感じられない、ただ冷静に状況を分析している風だ。
「アンタの衝撃波、“震王”の射程は案外短いようだな。せいぜい3・4メートルといったところか?ん?」
来方が壬生の口調を真似た。
相変わらずの、悪戯小僧のような邪気のない笑みを浮かべる。
「今はしのいでいるとはいえ、月村を倒した神狩サンにあちらのミスタ・ガンマン。これだけのメンツを相手じゃ、いくらアンタといえども勝算があるとは思えないんだけどな。」
「で、モノは相談なんだが何も言わずココを引き上げる気はないかい?」
しかし、おどけた様子の来方を無視し、壬生は右方の神狩に目をやった。
彼の様子から何かを感じとったのか、満足気に頷く。
その口が来方のものとは対照的な、観る者をゾッとさせる邪悪な笑みを形作った。
「体の調子はどうです?ミスタ・神狩。」
まるで明日の天気でもたずねるような気軽さで言った。
「企業というものはとても熱心な研究家なのですよ。」
「我々の“データ”ではあなたはこれ程長時間、“鬼”のままでいたことがないはずです。いくら超人的な体力と再生能力を有しているとはいえ、元は人間。そろそろ限界が近いのではないですか?」
「先ほどの攻撃も月村を倒した時のキレが失われているようですが?」
当の神狩は何も答えず、ただジッと目の前の男を睨み付けた。
「さて、ミスタ来方。さきほどあなたが言った勝算とやらですが。」
「私には関係者を全て片づけ、目標のミス・ヴァレンタインを確保する良い機会に思えるのですがね。」
壬生が勝ち誇ったように軽く胸をそらした。
[ No.341 ]
守るもの
Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴 Date : 99/11/10(Wed) 14:03
Style : カブト=カブト=カブト Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス
自分の名前を呼ばれ、バージニアが振り向いた。美琴は、それを確認すると一気に駆け寄り、そして、彼女に勢い良く抱きついた。
「バーニィ!!」
「…ちょ……モリー………」
勢いに負け少しよろけるバージニアに、美琴は慌てて手を伸ばした。そして、ぎゅっと彼女の手を握ると、彼女も美琴の手を握り返してきた。そして、お互いの顔を確認すると、再び抱き合う。
「今度は消えないよね?」
美琴が恐る恐る言うと、少しだけ寂しそうな笑顔でゆっくりとバージニアはうなずいた。何となくひっかかったが、美琴はゆっくりと彼女から離れた。
それとほぼ同時に、我那覇の鋭く冷たい声があたりに響き、それに答えるようにして男はゆっくり姿をあらわす。
(………………)
美琴は男を見た瞬間、全身が総毛だつのを感じた。背中にかすかな汗を感じる………。
「モリー………」
バージニアの呼びかけで、慌てて美琴は手の力をゆるめた。どうやら、かなり強く彼女の手を握っていたらしい。
「バーニィ………あたしはバーニィを守るよ。でも………もし、守り切れなかったら………その時にはバーニィだけでも逃げてね………」
大きく深呼吸をして、ゆっくりと一言一言告げると、バージニアの表情が曇り、いやいやをするように首を振った。美琴は、そんな彼女をみてにっこりと笑ってうなずくと、少しでも壬生から離れられるように、バージニアと壬生の線上に立つ。。
(バーニィだけは守る…。絶対に…。それがあの人との約束だから………)
美琴とバージニアの傍らで壬生と仲間たちが戦っている。しかし、壬生は彼らの攻撃を冷静に読み、少ない力でこちらを追いつめている………。
壬生の力の強大さを改めて感じさせられる。彼らの手助けをしたいと美琴は切に思った。しかし、今の自分が手を出せるのだろうか、邪魔にはなりはしないだろうか………そう考えると手が出せなくなってしまう。
ぱちん………
「モリー!」
それを破ってくれたのはバージニアだった。軽く美琴の頬をたたいた後、じっと目を見詰める。バージニアのまっすぐな瞳………一瞬でも自分を、そして仲間を疑ってしまった自分を恥ずかしく思った。
「何か、バーニィに守られたみたい……あたしが守らなきゃいけないのにね」
小さくバージニアに笑い
「………例えあなたが何者であろうとも……絶対にあなたの思い通りになんかしてやらない………」
コクン、小さくうなずいた後、美琴は壬生を睨み付けた。
「運命の女神があなたの方を向いているんだったら………みんなで後ろ髪を捕まえてこっちを向かせてやるんだから………」
[ No.342 ]
決死の一撃
Handle : “疾駆の狩人”神狩裕也 Date : 99/11/10(Wed) 19:47
Style : チャクラ◎、カゲ、ヒルコ● Aj/Jender : 23/男
Post : 狩人
壬生の言葉は当を得ていた。鬼の力はそろそろ枯渇してきている。動ける時間は残り僅かだ。「良い機会」というのにしてもハッタリでも何でもない。壬生がその気になればこの場にいる者を容易に皆殺し出来るだろう。
誰も動こうとしない。もしかしたら動けないのかもしれない・・・しばらくの間にらみ合いが続いた。
均衡を破ったのは神狩だった。
体をかがめ、全身のバネで一気に跳躍する。次の瞬間
「キシャアッ!」
中からの斬撃が壬生を襲った。
だが、壬生は体を軽くひねるだけで難なくかわす。まるで全ての動きを見切っているかのようだ。
着地の衝撃で神狩の態勢が崩れる。その隙を壬生が見逃すはずもなかった。
「Good−bye,Mr.Kagari」
刹那、悪魔の笑みと共に“震王”が放たれる。避けようとする神狩−だが、一瞬のタイムラグがあった。
ごろん。
肉塊が地に転がる。“震王”の一撃は神狩の左腕を吹き飛ばしていた。鬼化による反射神経の増強が無ければ直撃をくらい、即死していたろう。
「くくく・・・これを待っていた!」
だが、神狩はひるむことなく凄絶な笑みを浮かべた。
どれほどの超人とて攻撃の直後には隙が出来る。たとえコンマ
秒以下のものであったとしても、だ。
一瞬の隙をついて、鋼鉄すら貫く鬼の爪が唸りをあげた。
ぶしゃっ。
・・・鮮血が宙を舞った。[ No.343 ]
ザンジュウケン対サウザンドアイズ
Handle : “バトロイド”斬銃拳 Date : 99/11/11(Thu) 01:54
Style : カタナ◎● カブトワリ チャクラ Aj/Jender : 25歳/男性
Post : フリーランス/ソロ
斬銃拳は静かに千眼の気配を探っていた。
『無駄だ。』
千眼の声が直接頭の中に響く。
『私は“兵(ポーン)”を動かすのに殺気は放たない。仕事をするのは“私”であって“私”でないからだ。』
「そう急かさないで下サイ、もう少しデスから・・・。」
『ほざけ。お前は面の見えていないほうが男前だな。次から女性に声を懸ける時はそうしていろ。もっともお前の次のバカンスは地獄のゴミ溜めだがな。』
両脇の廊下の曲がり角の向こうから無数の足音が迫る。
斬銃拳は静かに気配を探していた。彼が思うに・・・
STARビル内の“兵”達は先ほどの者達に比べ、シンクロ性が弱いことから千眼の能力の射程距離はそれほど長くなく、本体は先ほどのビルから見てSTARビルと反対側の何処かに居る。
その遥か遠くの気配をじっと探っていた。
スナイパーが遠方のターゲットを小さなスコープの視界内に捉えようとするように。
斬銃拳は突如、駆風を放った。
六発の弾丸は壁を貫き、先ほどのビルを貫き、さらにその向こうのビルへと飛んだ。
殺気。
『惜しいな。外れだ。』
直後、向かいのビルの様様な窓から銃撃が返ってきた。斬銃拳は一歩進み、壁にぴたりと張り付く。彼が一瞬前までいた空間で弾丸が交差し、激しい火花が散る。
『一歩進むことで銃撃の交差位置から逃れたか・・・。』
「おかげ様で生きてマスよ。」
『そして今のお前の攻撃に反応した私の気配を見つけたというわけか。で、それからどうする?』
「さあ、どうしマショウ。」
弾丸は今の銃撃で尽きた。しかし、曲がり角の向こうの足跡は止まない。
『残念賞だ。私の“兵”をたらふくくれてやる。』
“兵”が両側10mほどの所に姿を現した。リロードを行う間に蜂の巣にされるだろう。
斬銃拳はぽいと拳銃を投げ捨てる。そして右に掌打を放ち、続けて左に足刀蹴りを繰り出した。不思議な事に、その届かない掌打は“兵”達の腹を打ち壁に叩きつけ、その足刀は“兵”達の持つライフルを蹴り上げた。
「アナタ達の専売特許だと思うナよ・・・」
『何・・・!その技は・・・!』
斬銃拳は“千眼の方を”向き、刀を横にしたまま肩へ引き寄せた。
「“震王”!!」
そのまま刀を突き出す。
その見えざる一撃は窓を震わすことすら無く、そのまま隣のビルすらするりとすり抜けた。何枚も何枚も壁を抜け、その一撃は千眼のもとへと辿り着いた。
『ばかなぁぁ・・・・・・!!』
千眼は窓ガラスを突き破りビルの外へ弾き出された。
「次のバカンスでお会いしマショウ。・・・しかし」
“兵”達はそのまま動きを止めた。
「しかし疲れる技ダ・・・“全身”を使ってようやく“壬生”や“逢魔(オーマ)”の半分弱といったところデスか・・・。」
斬銃拳の体がふらりと揺れ、壁にもたれかかる。
「しかも、あの距離だと・・・」
瞳を閉じる。
「命を削る。」
どこかで爆発が響いた。[ No.344 ]
手品のタネ
Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ Date : 99/11/11(Thu) 13:54
Style : KABUTO,FATE,KABUTO-WARI◎● Aj/Jender : 外見20代/Male
Post : "Gunslinger"
…チャリン…チャリン…チャリン…チャリン…
男は俯きながら作業を進めた。考えなどしなくても勝手に動くいつもの作業。輪胴(シリンダー)を弾き出す。手の上に空になった薬夾が黄金色の輝きを秘めて弾き出された。しかしその薬夾は弾丸が発射されているせいで何かに食い破られたかのようにすでに空である。まるで今の自分の心を表しているようだ。
素早くポケットから6発の弾丸を取り出す。常に愛用している11mmの蒼い特殊徹甲弾。手首のスナップを利かせると瞬時に装填が終わる。何度も、何度も、繰り返し、繰り返し。同じ事を行ってきた。タバコは常に左手で吸う。何故なら右手は常に開けておかねばならないから。常に銃を抜ける状態に保っておかねばならないから。それと同じだ。ガンファイターの習性などは絨毯に染みついたくだらないブランデーの染みのようなものだ。
しかし今日に限ってはどこか動作が重かった。その理由を確かめるなんて甘い感情を抱けるほど自分は素直な生き方をしてきたわけではなかった。ただそう感じてしまうことがどこか悲しかっただけだ。
男は”悪魔”に向き直った。所詮彼も自分と同じようにただの歯車のたった一枚だけにすぎない。大きさの違いはあるだろうが、役割などは所詮同じものだ。それが他の物を愚弄している。たちの悪い手品をひれかして。
「手品ショーはそれぐらいかな?」
自分の左腕を犠牲にして一瞬の隙を狙った神狩の作戦は壬生には筒抜けだったらしい。神狩が攻撃を仕掛ける前にすでに“震王”の一撃を食らわす準備は整っていた。しかし“震王”を起こすにはごくわずかな癖があった。ウェズが今まで攻撃を仕掛けずにひたすら様子をうかがっていたのはまさしくそれだったのだ。
ごく僅かに肩が震える。
コンマ4秒か5秒の世界であろう。普通のカタナやカブト、カブトワリでは捉えるのは難しいかもしれない。しかし、コンマ2秒や3秒の世界に生きるものにとっては難しい話ではなかった。
腐りきった豚は起こしてしまったのだ。自分の中で眠りについていた冥府の獣を。
「手品ショーはそれぐらいかな?」
ウェズはそう呟いた。手には愛用の”Model.20RE C.M.C”。鋼鉄の冷たい輝きを秘めたリボルバーの銃口からはうっすらとした煙とともにかすかな硝煙の香りが漂っていた。彼の銃弾が射抜いた物。それは間違いなく今まさに神狩に向けようとした”壬生”の左肩だった。マグナムよりもさらに火薬量を増やし、弾丸にも特殊加工を施したこの弾丸を持ってしてようやっと”壬生”の特殊装甲を貫けたのだった。
壬生の表情が変化した。絶対を誇る傲岸不遜な表情からかすかな驚きの表情へと。今まで気付きあげてきた自信ごと銃弾が射抜いたようであった。しかし、次弾を放とうとその冷たい光を帯びた銃口を再び壬生に向けようとした瞬間、ウェズの背中に言い様の無い何かの気配が走った。その気配は”銀狼”という二つ名を持つ青年にごくかすかな空気としてまとわりついている代物であった。その本質が何か、ウェズには答えることができなかった。例えていうならそれは本物の『恐怖』。所詮高々100年以下しか生きられぬ我々人間が持ち得ぬ代物。今時分と対峙している壬生すらもこれほどのものは漂わせてはおるまい。彼がこれを漂わせることができるのならば今ごろ我々はこのように恐怖におびえていないはずだ。
真の恐怖というものは相手に全く気づかれずに相手を飲み込んで食らって行く者なのだから。
「ちんけな三流手品師さん。くだらない手品をありがとう」
ウェズはそう壬生に呼びかけた。全くの無表情で。
「あんたの手品のタネは解かせてもらったよ。おっと安心してくれ、種明かしなんて無粋な真似をするつもりは無いさ。ただ、俺には時間が無くてね。ここであんたとはおさらばだ」
(恐らく俺の想像が正しいとすれば…全ては見られている。そしてその中心にいるのは、全ての始まりから絡んでいる”俺”と”彼女”しかありえない。…”紅の姫君”。秦 真理…か)
ウェズは次の瞬間自分の腰に結わえ付けておいたロープを折れていない左手で操り、口にマグナムを銜えたまま屋上から一機に下へと降下した。目標は10階。彼女なら屋上に上がるもの立ちのサポートをするためにここで待機するはずであろう。広く広大な空間を使って”壬生”の部下どもを根絶やしにできるからだ。ロープを使っての降下は傭兵時代以来なのでずいぶん久しぶりだったが、体は勝手に動いてくれた。ウェズは足で10階のフロアーの窓ガラスを蹴破り転がり込むようにして中に飛び込んだ。
[ No.345 ]
タナトス
Handle : “監視者”壬生(ミブ) Date : 99/11/11(Thu) 20:56
Style : クグツ◎・チャクラ・カゲ● Aj/Jender : 30代/男
Post : 大災厄史編纂室室長
「手品ショーはそれくらいかな?」
ガンスリンガーが銃口を向ける。
“震王”はすでに起動状態にあった。しかし、避けられないわけではない。
壬生には撃ちだされた弾丸の軌道までもが読めていた。
体を反らし、回避行動を行おうとしたその時、胸のあたりに違和感を感じた。
わずか、ほんのわずか行動が遅れた。
ガァン
凄まじい衝撃が右肩を襲う。
・・・・・・・・・・・・・・・
「オレは失礼させてもらうよ。」
ビルのフェンスを乗り越え去って行くウェズリィの姿を信じられない面もちで見送りながら、壬生は身の内からわき起こる異質な感情を持てあましていた。
さきほど違和感を感じた胸部に目をやる。
胸板が深々切り裂かれていた。
神狩がニヤリと笑みを漏らす。
しかし、鬼人の体力もついに尽きたのか、ガクリとうなだれたまま動かない。
鬼の中の人間、神狩が満足気な吐息を漏らした。
この男がいかに完璧な戦闘機械であったとしても、いや、精密であればあるほど、ささいなバグが致命的な狂いになりうるはずだ。
自分の一撃は、充分その役目を果たした。そしてあのガンマンも。
今や目の前の男は“得体の知れない強大な存在”ではなくなった。
たとえ、今だ手強い相手ではあっても“強敵”なら、彼らの力が通じるはずだ。
神狩はゆっくりと目を閉じた。
それに答えるように。
「オオオオオオ。」
雄叫びとともに、無数の突き、蹴りが鬼人の体に叩き込まれた。
巨体が、木片のように中を舞い、STARの電飾を支える柱に激突する。
「汚らわしいミュータントめ。」
壬生は怒り拳をふるわせ、ピクリとも動かない神狩に一瞥をくれると吐き捨てるように言った。
ゆっくりとブラックグラスを外す。
「おまえ達はつくづく私の計画に狂いを生じさせてくれる。」
ミシリ、と手の中のグラスが砕けた。
「跡形もなく、この世から消し去ってくれる。」
まぎれもない、憎悪が壬生から発せられた。
それははじめて抱く、彼自身の感情だったのかもしれない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「Wake up.」
「Wake up the Tanatos1.2.」
目の前に力無く横たわった“千眼”の口から呪文のような言葉が漏れた。
「?」
そして、突然発作のように体を痙攣させると目の前の“男”は動かなくなった。
「精神を・・・」
ザンジュウケンの口が自嘲気味に歪められる。
「逃がしたか・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2体の影がビルの壁面を駆けた。
クロームの光沢を放つ人型のソレは1体は9階に、そして残る1体はそのまま屋上へと垂直の壁をまるで重力を感じさせないスピードで駆け抜けた。[ No.347 ]
THE SIXTH SENSE
Handle : 来方 風土(きたかた かざと) Date : 99/11/11(Thu) 21:27
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎ Aj/Jender : 21歳/男
Post : フリーランス
神狩とウェズリィが作り上げた、僅かな隙。風土はその僅かな隙を見逃さずに、壬生に向かって疾走する。その風土に対して、壬生が右手を上げる。その手から、衝撃波が放たれるまでの僅かな時、その僅かな間に空気の動きを感じた風土は、身体を左へと移動させる。その横を“震王”の衝撃波が、通過する。
「いっただき!」
風土の拳が壬生を捕らえる瞬間、壬生の姿が掻き消すように消える。首のうなじの毛が逆立つ様な感触に、風土はとっさにその身体を前に投げ出す、その頭上を壬生の手刀が通過する。一回転して立ち上がると、距離を取る様に下がる。
「ふ〜、危ない、危ない」
風土は髪を掻き上げると、苦笑いを浮かべる。
「まさしく、影だね。ホンと見つけるのに苦労するよ、でも見つける方法が無い訳じゃない」
その言葉に答える様に壬生の姿が、消える。風土の背後に影の様に移動し、姿を現すや掌底を打ちこむ。
しかし、風土はその打ち込みを寸前での所でかわすと、逆にパンチを打ち込む。その拳は壬生の顔面を捕らえ、その身体を吹き飛ばす。
「大事なのは、考える事じゃ無くて、感じる事さ。さあ、懺悔の時間だぜ」
風土はそう言うと、不敵に微笑む。[ No.348 ]
運命の天秤
Handle : “監視者”壬生(ミブ) Date : 99/11/13(Sat) 19:43
Style : クグツ◎・チャクラ・カゲ● Aj/Jender : 30代/男
Post : 大災厄史編纂室室長
壁面を走る影は勢いを殺さず、そのままフェンスを飛び越えた。
月光がメタリックブラックのボディを照らし出す。
高々と中に舞ったソレは、腕が長く、太いまるでゴリラを模したドロイドのようだった。
体長は2メートル程か。両腕の手首の下あたりから、“ガイスト”のような刃がそれぞれ垂直に突き出ている。
「タナトゥスか・・・」
壬生が呟く。
タナトゥスと呼ばれるソレはSTARの電飾の支柱に隠れるようにしてこの場を撮影していた遊衣のすぐ側に着地した。
単眼のモノアイが不気味な赤い光を放つ。
「ああ・・・」
逃げようとする遊衣。しかし、タナトゥスは巨体に似合わぬ俊敏さで追いすがると、右腕の刃を振り上げた。
月光を反射し、不吉な光を放つソレはまるで死神のデスサイズのようだ。
「遊衣さん!」
バージニアの絶叫と悲鳴が屋上にこだました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
真理と羽也は10階にたどり着いた。
もとはレストランであったのか、吹き抜けのフロアには机やイスの残骸が散乱している。
奥に屋上へと続くドアが見えた。
ジャリ
踏み出した足の下でガラスの破片が砕ける音が、妙に大きくこだまする。
月光に照らし出された室内には、机の影やそこかしこに先に神楽達が通り過ぎた際の戦闘の跡、エージェント達の死体が不気味なシルエットを晒していた。
敵の姿は見あたらない。それどころか下階からの追手の気配も感じられなかった。
「なんだか、拍子抜けですね。」
わずかに緊張を解き、羽也がやわらかく微笑んだ。
真理もつられて、微かに口元をゆるめる。
“限界だわ。”
全身に擦過傷や打撲を負い、敵と自らの血にまみれた真理の痛々しい姿を見、羽也は胸中で嘆息する。
彼女はすでに限界を越えている。今は戦闘の高揚感が背を押しているにすぎなかった。
慣性はやがて衰え、ゼロになるだろう。
そして、それは自分にも言える事だ。
このまま引き返した方がいいのだろうか?
屋上の事は、バージニアという少女の事は他の者にまかせて自分たちはこのまま去った方が得策なのではないだろうか?
そんな考えが脳裏をよぎる。
それは正論だった。
真理は、彼女は何と答えるだろうか?
おそるおそる、友人の方に目をやる。
そして
その表情が氷ついた。
真理のほんの数メートル後ろの床から50pはあろうかという反り身の刃が突き出ていた。
海面を走る鮫の背鰭にも似たソレは、床をバターのように易々と切り裂きながら凄まじいスピードで真理へと突進した。
軽い放心状態にある彼女はその事に気付いていない。
考えるより先に体が動いた。
「危ない!」
もつれ合い、床をころがる二人。
羽也の、カブトとしての反射神経がまたしても真理を救った。
しかし
「ありがとう。」
礼を言い、幾度となく命を救ってくれた友人を見る真理。
その目が驚愕に見開かれた。
羽也の行動は確かに真理の身を凶刃から守った。
しかし、それは友人が身をていしてかばってくれたからだったのだ。
羽也の脇腹がベットリと血に濡れている。
それは今までの擦過傷などではなかった。
羽也の手にした盾に切り裂かれた跡が残っていた。
刃は大口径の銃弾をもはじき返すクリスタルウォールを紙のように切り裂いたのだ。
「羽也・・・・」
押さえた手からしたたり落ちる血を呆然と見つめながら、真理は信じられないモノをみる思いで呟いた。唇が震え、体から力が抜けていくのを感じる。
その眼前に震える掌が、しかし強固な意思をもってかざされた。
「行って。」
「え?」
「先に行って下さい。」
何とか立ち上がり、刃に向き直る羽也。
かざされた掌がゆっくりと屋上へと続くドアを指さす。
「あなたにはしなければ、見届けねばならない事があるはずです。」
羽也が青ざめた顔で微笑んでみせた。
その眼前で、床を切り裂きゴリラに似た巨大なシルエットが姿を現した。
決死の覚悟で敵を睨みながら、羽也は先程の問いに胸中で答えていた。
真理には、彼女にはまっすぐに前を見て歩んでいてほしい。
私はそれを出来る限り助けていこう。
影が彼女に後ろから追いすがらないように、彼女がいつも陽のあたる方を見つめていられるように。
その時、屋上の方から女性の悲鳴が聞こえた。
まぎれもなく、それはバージニアの声だった。
[ No.349 ]
ゴメンネ。
Handle : “ボディトーク”火鷹遊衣 Date : 99/11/14(Sun) 01:36
Style : マネキン◎トーキー=トーキー● Aj/Jender : 17歳/女
Post : フリーの記者
……泣かないでよ、バーニィ。
やっと、味方に勝機が、女神の笑みが向いてきた矢先だった。
神狩が倒れた。
ほかの皆も、辛そうだった。
でもやっとこれで。
……そう思った瞬間に自分の目の前に現れた、怪物。
大きな影が、覆い被さる。
とっさに身を捩って避けようとして、適わずに。
そして、遊衣は、腹部に厚い塊がねじ込まれるのを感じた。
「ーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
絶叫は、高くかすれて声にならなかった。
世界が暗転する、その瞬間。
遊衣の耳は、バーニィの悲鳴を捉えた。
「……バ……二…ィ……」
そうだ。
護らなきゃ。護らなきゃ。
このままだと、きっと……
遊衣は、だからとっさにカメラを離し、タナトスの巨体を抱きしめた。
『いっしょに……死んでやる、化け物!!!!!!』
瀬戸際まで追い詰められていたのが、幸いなのか不幸なのか、もう判断はつかなかった。
後ろに思いきり体を倒す。
足は……最後の力で、力強く屋上の縁を蹴った。
「いやああああああ!!!!!!」
バーニィの叫びとも泣き声ともつかない声が響いた。
……バーニィ。
短い間だったけど、大好きだったよ。
泣かないで。泣かないでよ。
ボクは、後悔なんかしてないから。
……ごめんね、一緒に月に行けなくて……
爆発音と共に、意識は途切れた。
[ No.350 ]
Re:運命の天秤
Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴 Date : 99/11/14(Sun) 07:32
Style : カブト=カブト=カブト Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス
> 月光がメタリックブラックのボディを照らし出す。
「何、あれ………」
バージニアが不安そうに小声で話しかけてくる。その姿から目を離さずに、美琴は首を軽く横に振った。
そして、彼女の不安をなんとかしようと、彼女をきゅっと抱きしめた。しかし、その動きが途中で凍り付く。
>STARの電飾の支柱に隠れるようにしてこの場を撮影していた遊衣のすぐ側に着地した。
「遊衣さん!」
バージニアの絶叫と悲鳴が屋上にこだました。今にもかけだそうと、美琴の腕の中でもがいている。しかし、美琴はその腕をはなそうとはしなかった。
「美琴はいいの!?」
「いいわけないでしょ………」
激しいバーニィの言葉に、美琴は腕の力を緩めることなく返した。美琴の言葉に、バージニアの動きが止まった。
「何で………」
「………」
「モリー………」
美琴だって、助けに行きたいのは当たり前である。しかし、壬生のねらいはバージニアである(もちろん、自分たちもそうではあるが………)。
他の仲間を助けたい………しかし、自分が離れると彼女が………。美琴の頭の中がぐるぐると回っている………。
火鷹の姿が後ろに倒れようとしている………。
美琴の隙を見つけたのか、バージニアが彼女の腕をすり抜けて走っていこうとする。
「バーニィ!」
美琴は彼女を捕まえようと手を伸ばす。
何とか彼女の体を再び抱き留める。
[ No.351 ]
願うもの。
Handle : 羽也・バートン Date : 99/11/15(Mon) 01:32
Style : ミストレス◎カブト=カブト● Aj/Jender : 26歳/女性
Post : フリーランス
無理をして、微笑む羽也に真理は、言う。おそらく、羽也の意図を汲んでくれたのだろう。
「…必ず、お迎えに参りますから」
真理は、羽也の言葉を受けると、きびすを返して扉へと向かった。
…鋭利な刃ほど、斬られた痛みは少ないという。しかし、その傷は深いとも。
鈍い痛み。それでいて確実に体力を奪っていく深き傷。
押さえてもにじみ出る自分の血液。わずかに苦笑して、傷を押さえるのをやめる。もう、自分には気力しか残されてはいない。今、彼女が立っていられるのは友人を助けたい、と言う一念だけ。それだけが、羽也を支える礎。
切り裂かれた盾を地に落す。
きり、と唇を噛む。同時に、ブースタマスタと、オーヴァドライブを起動。連続使用によるリスクはもちろん承知の上で。
懐から鉄扇を。盾の代わりとばかりに開ける。それを左手に。
真理から受け取った短剣を。右手にそれとなく構えて。
地を蹴った。
タナトゥスの放つ一撃目のなぎ払いを間一髪で避け切って。避け切れたのには、突然の援護射撃があったから。窓が壊される音とともに。それがどこからか、と言う事は考えている暇はなかった。視界の隅には、窓から誰かが飛び込んできたのは確認できたのだが。
窓を突き破り、入り込んできた人影に、立ち止まりそちらに向かって真理はいう。
「羽也さんの援護をお願いします」
真理のその言葉は、入ってきた人物に向かっての言葉。その言葉は、羽也の耳にも届く。しかし、今は振り返ることも、人影を確認する事も出来ず。
真理から預かった短剣をタナトゥスの右腕――鎌と、腕との間。つまり、関節部――にたたきつけて。羽也は、勢いのまま後ろへと跳躍して後退。
短剣にしこまれた指向性爆薬が衝撃を感知して爆発。爆風を利用して羽也は更に後退し。
その間に“死の卿”の剣をもう一度抜き放つ。窓の隙間から入る月光によって、それはより切れ味をますかに見えた。
……ダメージは、与えた。手応えはあった。右腕を落した。だが。
「それ」はまだ、動きを止めていない。ダメージを受けた事によってますます動きを早くしたように思える。タナトゥスに感情と言うものがあるならば。それはまるで痛みに気を狂わせた獣のように思えた。
(完全に動きを止めるには…?)
しゅっと、短く息を吐く。後ろからの援護も、計算に入れて。正面からタナトゥスに向かって突っ込む。
射撃は思った通りタナトゥスの足止めだった。
動けず、だが、死神の鎌を振り回すタナトゥス。それに向かって羽也はまっすぐに突っ込んでゆく。
無秩序に、しかし、本当は計算され尽くされた動きで鎌を振りまわす「それ」。
鉄扇が鎌を受け止めきれずに二つに切り裂かれる。…盾と同じ運命をたどり。
それでも、まだ、距離が足らない!
更に、踏みこみ間合いを詰め。叉、鎌が振り下ろされる。かろうじて、避ける。その代償は、鉄扇をなくした左腕。左腕が斬られる一瞬の間に身体を前に詰め寄らせる。
右手に渾身の力をこめる。刀にすべてを賭けて。タナトゥスの腹部に刀を突き刺す。そのまま、右へと大きく薙ぐ。
――突き刺す直前、刀から炎が見えたのは気のせいだったのだろうか――
最後の凶刃が、羽也に迫る。まるで、道連れだと言わんばかりに。今までにない速さの鎌が、振り下ろされる。
一歩、後ろに引いてかわそうとする。
……が。わずかに反応の遅れた右腕が、死神の鎌へ最後の供物となってしまう。
胴を真っ二つに裂かれ、タナトゥスは、もう、動かない。
そして、羽也も。
彼女は2、3歩よろめいて壁にぶつかり。そのままずるずると座りこむ。
羽也が最後に見たもの。それは、外からの月の光。いや、それすらも曖昧で……。
吐息とともに吐き出された言葉。
「どうか…どうか、ご無事で……。」
……それは、願いだった。今の彼女にとって、唯一の。
羽也は、ゆっくりと眼を閉じる。[ No.352 ]
Frash Bakk
Handle : ”LadyViorett”我那覇 美加 Date : 99/11/15(Mon) 02:45
Style : カブト◎=カゼ●=カブトワリ Aj/Jender : 28/female
Post : フリーのカブト/元”麗韻暴”二代目頭の兼業主婦
突如火鷹の前に現れたタナトスの姿。
後ろに倒れようとしている火鷹と一瞬だぶった昔の友人の顔。
それだけで十分だった。
”モウダレモシヌンジャナイ、ダイジナヒトノタメニイキノビルンダ。”
そう言って彼女は死んだ。
「離れろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
傷付いた身体の事など忘れて二人の方に駆け出した。
走りながらタナトスの頭に照準を合わせ、火鷹を救おうとする。
一瞬タナトスの注意がこちらに向ける。
「消えやがれ、このデクのボー!!」
すっと頭部に9−WHが入りトリガーを引く。
そして左腕で残ったガイストを防ぎ、蹴り上げる。
後ろの虚空に火鷹が吸い込まれそうになるのを慌てて掴み、ビルの中に引き戻す。
そして火鷹が自分の腕にいるのを確認するとタナトスに向き直る。
やはり、というべきか頭部を破壊しても動いていた。
残ったセンサーをフル稼働して二人を探し死を呼ぶ刃を持って目の前にいた。
「・・・・死ぬな、大事な人達のために生き延びるんだ。」
そっと呟くと、美加は9−WHをタナトスに向けてトリガーを引いた。
そしてタナトスは断末魔を上げる間もなく小さな爆発を起こして崩れ落ちた。
[ No.353 ]
YOU ARU GUEST・・・FOREVER
Handle : “薄汚れた鑑札”沖直海 Date : 99/11/15(Mon) 03:56
Style : レッガー◎フェイト●カブト Aj/Jender : 24/女性
Post : フリーランス
火鷹の身体がビルから舞い下りた。
すぐ後に続いた爆発音。
バージニアの悲鳴。
沖の中で、何かが引き千切れた。
今まで自分を縛りつけていたそれが何なのか、もう分からなかったけれど。
「・・・大概にしやがれ・・・」
目の前の男をねめつけ、トンプソンの銃口を向ける。
「好き勝手しやがって・・・エグゼクどものパシリが、思い上がって勘違いしてるんじゃねえよ」
考えるのはもう止めた。
沖は直感と感情のままに言葉を吐き出す。
今までの壬生の言動。
入ってきた情報の中に感じた僅かな違和感。
無意識の中でピースが、重なり合っていく。
そして、一筋の真実の光が差し込んだ。
さながら、刃に宿る光のごとく。
「手前らの本当の目的は一体なんだ?
災厄の真実の隠蔽?時間移動能力者の保護?もったいつけて大層な看板しょって、その裏で何企んでやがる。
一体、何であろうとここまでする必要があるのかよっ!?」
挑発的な台詞と態度は半分は意図的に、もう半分は今まで押し隠してきた地の自分である。にやりとヤクザの微笑みを浮かべて、沖はマシンガンの引き金を引いた。
これで壬生が倒せるとははじめから思っていない。
只、幾らかの牽制と、自分に注意を引きつける事はできるだろう。
「ここは、私達の街だ。招かれざるゲストには、そろそろ退場願おうか?」
軽快な銃声が屋上に響いた。
[ No.354 ]
真実の切端(1)
Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ Date : 99/11/15(Mon) 09:30
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI Aj/Jender : 外見20代/Male
Post : Freelans
「おそかったか…」
ウェズは10階のフロアに飛び込んだ。屋上まで上がったとき一通り確認した通り、このフロアは広間になっていて、そこは空虚で空ろな空間を抱え、生ける者は誰もいないようにも思われた。しかし、機械仕掛けの耳には屋上へと上っていこうとする誰かの足音を捕らえていた。そして、目の前にはクリスタル・ウォールと彗星剣を構えたカブトらしい女性の倒れた姿と”死神”らしき切り刻まれた何かが転がっていた。彼はそのカブトに一瞥をくれると素早く階段を上り始めた。彼女にかまうよりも早く伝えたいことがあったから。
踊り場の所で馴染みの後姿を見た。見覚えのある漆黒のチャイナドレスの女性がそこにはいた。「よぉ、待ってくれないか、別嬪サン」彼が声をかけると彼女は微笑み混じりに振り向いて探偵に声をかけた。ウェズは飄々とした様子でありながら油断せずに銃口を下ろさずにその声をかけた方にゆっくりと顔を向けた。声をかけたのは目的の人物、秦 真理であった。
「…どうやら終わったみたいね。他の方のおかげで」
彼女は別人と見間違えるほど雰囲気が違っていた。彼が知っている限り元々そういう雰囲気を隠し持っていたが、滅多に表に出すことはなかったであろう。悪い言い方をすれば『女狐』と呼ばれてもおかしくないようなタイプである。その彼女が傷を受け流した己の血と敵からの返り血に塗れていた。彼女はカブトの女性については何も尋ねなかった。ウェズも何も伝えるつもりもなかった。
「おやおや…今日は化粧ののりがいい様だな」
「久しぶりに、“舞った”ものですから」
修羅場に出会ったことのない普通の人から見れば真理の今の様子はすごい状態であると感じたであろう。しかし過去から引き吊り出された血に飢えた”Gunslinger”の目には、彼女の姿が紅色の一輪の椿の花のように例えようもなく艶やかに美しく写った。軽口に軽口で答えていた真理であったが、実は内情は立ってるのがやっとのようであった。しばらく佇んでいたが少し後にふらついて倒れそうになったのを、ウェズはそっと支えた。
「へぇ、なるほど。花形の演技を見れなくて残念だ…それにしても随分代償は払ったようだね」
「何かを望むのなら、その代償を支払うのは当然でしょう?…私はそれを行ったまでです。それで…“上”の状況は如何?」
「手品師の魔法を解いてきた。じきにほかの連中も気づくだろうさ。止めを刺すほどの大物ではなかったからほうっておいたよ」
「………これで上は心配ありませんね、今の私は、バージニアに会わないほうがいいでしょうから…」
真理は自嘲気味に笑った。
「…それならそれで好きにするさ…。だが、このことは君が望んだことではあるまい」
「いえ、私が望んだことです。自ら“墜ちた”……少女を迎えに行くため、自分自身で在るため、帰る場所に戻るため。自分を呼び覚ましたんですよ、過去からね」
真理の利き腕から血がぽたぽたと滴り落ちて、その紅色の血がフロアのひび割れたタイルを染めているのが見えた。ウェズは何も言うことなくコートのポケットから真新しいハンカチを取り出した。そして静かにそれで傷口を縛ってあげた。救急治療の心得はなかったが体内に仕込んだ『オートマン』が自動的に適切な処置を体に指示したおかげで動作は流れるように綺麗で的確に素早く終わった。真理はその行為に対して、終わった後に深く、やさしく微笑んだ。
「有難う…でも、私にとってはいつもの、ことよ」
「お互いにな…。俺と同じというわけか。もっとも俺の場合は『神』を呼び戻そうとするいかれた誰かに引きずり出されたがね…」
探偵はその台詞が分かっているかのように軽く肩をすくめると、真理に向けて当にあきらめたような表情をみせた。その様子と先ほどの台詞から何かを感じたのか、それを見た真理はけげんそうに眉をひそめた。
「私自身が、危うい均衡の上にたたされますから…いくら、甘さを立ちきらないと勝てないとはいえ、危険な賭けでしたよ。……神?何の話ですか?」
「君も絡んだことのある件だよ。データは全て渡したはずだ。カーマイン、アラストール、銀の魔女…」
「………まさか。今回の件にも関わりがあると?」
真理はその台詞を聞いて自分の中にざわめく何かを目の前の探偵に見せまいとした。しかしその試みもむなしく狼狽を隠しきれなかった。しかし探偵はそれに気づかぬ様子で黙って壬生との会話記録を見せた。その表情には何もうつっていなかった。真理はそれを見、血の気の余りない顔で微かに苦笑した。その白き肌が血の気のなさでさらに映えて京劇の中に登場する美姫の如く見えた。だがそれを美しく感じられる目を持ち合わせる者はここには誰もいなかった。
「 ………考えなかった要因(ファクター)では、ありませんでしたけれど…。あえて、必要ないと除外していたのに。バージニアを迎えにいけば、すべてが終わるわけではないとは、思っていたのですがね…。私に、いえ、私達にとって、必要なのは「迎えにいくこと」でしたから。私はあえて必要ないことをかんがえなかったのですよ。しかし、何故?それが分かったのです?…会話記録だけでは、推測にすぎない…。」
「感じたのさ、あの神楽って奴の周りから。以前カーマインと対峙したときにも感じたあの異様な気配をね。壬生の言い口からすればバージニアは多分『鍵』と言うやつだ。押さえつけられてきたアラストールの力を解放するための。したがって壬生などは所詮歯車の一枚にすぎない。こいつらを撃退したところで、次の追っ手がくる。どうするね?」
「…………!!…神楽…さんですか?…まさか……いえ、気配を貴方が感じたのなら、多分そうなのでしょうね。彼女の件は、迎えにいってからで問題ないでしょう。…問題あるとすれば…神楽さん、ですね」
真理は軽くため息をついた。
「そうだな…。奴がどのような選択をするかによって、対応が決まってくるからな」
「…上に行く、必要性が出来たようです。“歯車”は上にいる皆さんにお任せして、私は足止めという名の“駒”のつもりだったのですが…」
真理は微笑んで上に向かおうとした。真理がヘリコプターでこの廃ビルまでやって来た様子を、ウェズはサンタナと向かい合っているときに眺めて知っていた。恐らく彼女は自分に対峙してた相手がいたことはしっているはずであった。だが彼女の口からはそれに関しての言葉は一言も告げられなかった。本当に知らないのか、知っていてわざと知らぬ振りをしているのかは分からなかったが、その沈黙は探偵にとっては暖かく感じられた。
彼は今にも上に向かおうとしている彼女らに向かって、そもそも告げようとしている本題を切り出した。[ No.355 ]
真実の切端(2)
Handle : ”無免許探偵”ウェズリィ Date : 99/11/15(Mon) 11:50
Style : KABUTO,FATE◎●,KABUTO-WARI Aj/Jender : 外見20代/Male
Post : Freelans
「ちょっと待ってくれないか。実はつまらない物語を思いついたんでね。是非とも聞いて欲しくてわざわざ出向いたのさ。あまりにくだらない話なんでね、不機嫌にしてしまったらまずい。先に謝っておくよ」
その場にふさわしくないほど軽い口調の言葉を聞いて真理は静かに頷いた。ウェズはその様子を見ると、真理に向かって言葉を続けた。暗くなっていく心の闇を押さえるように俯きかげんにひび割れたフロアのタイルを眺めていた。
「確かに壬生の台詞と、神楽から漂ってきたかすかな気配では確証には程遠いかもしれない。だから今から話す話はただの物語だよ」
「それでも、かまいませんよ。…参考までに」
「この廃ビルに蠢いている連中は『フェニックス・プロジェクト』の下で動いていたものだ。俺はといえばくだらない仕事でこいつらといやがおうなくかかわることになってしまってね。しかし、このプロジェクトに関してはほとんどのエグゼグが口を利きたがらない。はっきりとした動きもつかみずらい。俺が調べてわかったのは、『フェニックス・プロジェクト』と編纂室が絡んでいることだということだけだった。しかし編纂室についてもおかしいことは多々あった」
「奴らはどうして日本軍なのに外人を雇うのだ?日本の連中が自分たちの血や種族に異様にこだわっているのは、N◎VAに駐留している軍を見ればすぐ分かる。それに編纂室の連中はN◎VAに駐留している軍に直接タッチしていない。とすればあいつらの金はどこから出てきている?本国か?もしそうだとしたらここまで機敏に動けるだろうか?」
ウェズはそこで言葉を区切って真理の方に顔を向けた。真理の表情は能面の如く無表情であり、そこからは何も伺うことはできなかった。彼はその赤い瞳を己の蒼い瞳でのぞき込んだ。そこに写る己の姿は過去の忌まわしき記録を餌食とする現代から来た亡霊のように感じられた。
「そこで思いついたんだ。ある一部のエグゼグが、自分たちの利権をもっと増すために、”災厄”を起こす。あの時、災厄の後、日本が主導権を手に入れたのと同じように、自分たちが手に入れようともくろんだ。自分たちの手で起こすことなんだ、対策は万全にとれるはずだ。そうだろう?万人に行き渡る対策を採らなくてもいいんだ。一部のエリートだけが生き残ればいいんだよ、彼らにとってはね。 アラストールは滅びの神だ。裁きの神だ。そいつが引き起こすとするなら”災厄”は格好の舞台だろうな」
ここまでは多分壬生が漏らしたとしても判るであろう。推理できるはずだ。しかしここから先の話はウェズとサンタナ、つまりミトラスでのあの事件に関わっていなければ知る由もない事実であった。のどが何かを求めるように一旦無意識に震え、それに続けて言葉を話した。
「しかし、そこで疑問が生じるわけだ。いかに装備を万端にしても、軌道上に人を逃がしたとしても、どのように災害が自分たちに降りかかってくるかわからない。何しろ”災厄”をもう一度引き起こすのだから。そこで奴らは考えた。自分たちが「不老不死」になってしまえばいいのさ。その実験台に選ばれたのはならず者の傭兵部隊の連中だった。みんないい奴だったのさ。所詮人殺しにすぎないというかもしれないが。だけどエグゼグ連中にとってはどうでもよかったのさ。ごみ掃除と自分たちの利益のために一石二鳥を図って、奴らはそいつらを実験台にした。おかげで薬はめでたく完成した。こいつは市販されるわけは無い。自分たちで使う代物だからな。これで奴らは心置きなく災厄を起こせるというわけさ」
自分たちが人体実験され、このような事件を引き起こした原因が『不老不死』の薬だったというのはサンタナから知らされる前に掴んでいた。それはサンタナと今の自分の容姿の年齢差を見れば一目瞭然だった。しかし、誰がその実験をもくろんだのか、何の目的なのかはさっぱり掴みようがなかった。製薬会社とすれば夢のような薬品ではある。しかしそれが商売に結びつくかというと疑問であったからだ。こういう効能のある『完全な』薬が一度市販されてしまえば、一般に出回る薬の大半が効力を失ってしまうからだ
。わざわざ自分たちの首を絞めるようなことをやるだろうか疑問だったからだ。
しかし、これが「フェニックス・プロジェクト」と絡んでいれば話は別だ。
「つまりは、「不死鳥は焔の中より、飛び立つ」というわけですか…。随分と狂った夢ですね」
「正確に言うと「不死鳥は炎に己の身を焼き、清らかな一部を持って再生する」と言う奴さ。どうだい? この物語は」
「 ……狂った夢ですよ、それ以外の何者でもない。……しかし。……狂っているいるのは、世界ですか?それとも……私ですか?」
「あるいはこんなことを想像している俺の頭かもしれないな」
「 ……狂っているのは『彼ら』ですか?それとも……深淵に立ち向かおうとする私達ですか?」
「あるいはこんな世界を作ってしまった誰か様かもしれないな」
既に決意を固めていたのであろう。紅色に染まった真理の顔に浮かんだのは妖艶で凄絶な笑みであった。それに対して真理の紅色のその瞳にうつった自分の浮かべた表情はどこか哀しそうな、どこか虚ろでありながらいかなる感情も表していないようにも見える代物であった。
瞳を覗き込んでいることについては何も言わずに、真理はウェズに話を続けた。夢を見るように。
「…狂った夢です…」
「夢を見なくなって随分経つよ。久しぶりに見た夢がこんな悪夢とはね。粋な計らいをしてくれるものさ」
「確かに、粋な計らいね。……楽しい『物語』を有難う。そろそろ行かなければ。…貴方はどうするのです?これから」
真理はすでに重傷に近い傷を負っていた。ヘリコプターがビルに接触した時刻が彼女たちの突入時刻であり、それから少し後にサイバーウェアを起動したとしても、その制限時間は既に切れていると想定された。しかし、なおもなにかに向かって戦いを挑むことをやめようとはしない真理の様子は、ウェズからみると「命の焔」を燃やして、まだ闘おうとしてるように見えた。ウェズは一瞬彼女に声をかけようと試みた。真理の瞳と眼があった。その時、心の奥底にその行為は今の彼女を侮辱しているという何かが走った。彼は次の瞬間声をかける事を断念した。
ウェズはその瞳の中に深い哀しみ色を見た。深い慈愛の色も見た。それは嘗て戦友達が持ち合わせていたものと同じだった。彼が黙って彼女を見送るにはそれで十分だった。彼女にとっても同じであっただろう。彼女はウェズに対して何も言わなかった。今の台詞にしても質問というのではなかった。ただ何かを確認しているだけだった。
「依頼された仕事は終わった。しかし、俺は仕事を終わりまで見届ける癖がある。そうしないと次の仕事にかかれない」
「…誰のためなの?」
「自分のためさ」
それで全てを察したのか彼女はほほえむと最後の言葉を呟いた。
「…ご苦労様です。…そしてご壮健で」
二人はすれ違い、そしてその瞬間ふりかえって真理はそうつぶやいた。彼女が探偵に向けた微笑みは深く、優しくそしてどこか悲しく感じられた。それは愛する人に向けられる物と同じ物だと思われたが、それは探偵の希望的観測にすぎなかった。
「粋な計らいをしてくれるものさ。反吐が出そうなほどな…」
ウェズは10階に戻った。気を失ったカブトの女性に簡単な応急手当を施し終えると、誰もいなくなったフロアーで誰に言うともなく静かに呟いた。
[ No.357 ]
終局の幻視
Handle : “監視者”壬生(ミブ) Date : 99/11/15(Mon) 23:23
Style : クグツ◎・チャクラ・カゲ● Aj/Jender : 30代/男
Post : 大災厄史編纂室室長
血を吐くようなバージニアの絶叫は我那覇によって、遊衣が転落から救われた今も続いていた。
遊衣の腹部に黒々と口を開けた不気味な斬傷が彼女を一時的なパニック状態に陥れていたのだ。
タナトゥスの刃によるその傷は内蔵にまで致命的なダメージを与えているようだった。もしかしたら、中枢神経を破壊されているのかもしれない。
放っておけば蘇生すらままならぬ、絶対の死に繋がる事は確実であった。
そして、バージニアの心を占めているもう一つの不吉な思いが、パニックに拍車を駆けていたのだ。あの光る時の大河で聞いた声、これからの自らの道を暗示する声が、頭の中で蘇っていた。
「やっぱり・・・やっぱり、みんな死んでしまうの?」
自らの体を抱きしめるように、バージニアが呟く。
「バーニィ?」
モリーが今にも倒れそうな彼女を支えながら、心配そうにのぞき込んだ。
瞬間、息を飲む。
月光に映し出された蒼白な横顔は、数時間とはいえ彼女が間近に接し、護って来た少女のものに違いなかった。
しかし、何かが違うと彼女の勘が告げていた。
まるで、離れていた少しの間に、数年も年経てしまったような、どことなくあの紅の戦姫に似た哀しげな光がその深淵をおもわせる藍瞳に宿っていたのだ。
「バーニィ・・・」
問うように、そしてどこかすがるようにモリーが再び呼びかけた。
・・・・・・・・・・・
トンプソンの銃声が軽快なリズムを刻む。
最前までの壬生であったなら、それを容易にかわし、死角から致死の一撃を見舞っていただろう。
もともと、この男は神狩のような人間離れしたスピードをもっているわけではない。
筋肉の僅かな動きと、殺気によって相手の動きを読み、流水をおもわせる円の動きによって実体をつかませないでいたにすぎないのだ。
まさに先ほど来方が言った「大事なのは感じること」を実践していたのは、ほかならぬこの男だったのだ。
しかし、今の彼は怒りに我を忘れ相手の気を読む冷静な判断力を失っていた。
銃弾をかわさず、衝撃波を放ってソレを弾くと、そのまま追いすがるように沖に詰め寄る。
そこに横から来方の拳が再び壬生の顔面を捉えた。
「動きが直線的すぎるぜ。大将。」
不敵な笑みを漏らす来方。
「おのれ。」
「鍵を目前にしながら・・・」
ギリリと歯がみし、来方と沖を睨み付ける。
「貴様らなどに遅れをとるはずが・・・対アラストール用に生み出されたこの私が・・・」
「・・・」
「そうか・・・」
何かに思いあたったのか、壬生の瞳に刹那冷静な光が戻った。
そして、今までほとんど使わなかった左腕をゆっくりと前にかざし、はじめて壬生は構えをとった。
「貴様を殺す。」
怒りの感情を内にひめ、しかし明らかな殺意のこもった声が来方に向け、発せられた。
[ No.358 ]
Coup d’ Glas
Handle : 来方 風土(きたかた かざと) Date : 99/11/16(Tue) 21:35
Style : バサラ●・マヤカシ・チャクラ◎ Aj/Jender : 21歳/男
Post : フリーランス
「貴様を殺す。」
最初は7・3だった。それが、神狩とウェズのおかげで、6・4となり、今では五分五分だ。それなら勝機が有る。風土は壬生の発した言葉に対し不敵な笑みを浮かべる。確かに風土の言う通り、今の壬生の動きは直線的過ぎた。今までの相手の死角へと移動する、影の様な動きではなく。只、目の前の敵へと“震王”を放つ、その動きはまさに直線的だった。
それに対して、風土の動きはまるで空気の様だった。壬生が風土を捉えようとすれば、僅かな動きで“震王”の射線上から逃れ、壬生が下がれば、死角へと移動し拳を放つ。自らを歯車と呼ぶ男は、歯車の歯が欠けたとき、その精密な動きに乱れが生じ、空気を感じる事が出来なくなっていた。
風土に向けられた壬生の“左腕”、風土はその“左腕”を気にした様子も無く、無造作に移動を始める。風土は円を書く様に壬生の右側へ移動し、その動きに呼応した様に壬生は身体の向きを変えると、”左腕”では無く、右腕で掌底を放つ。風土は更に1歩踏み出す事によって、その一撃を避けると、壬生へと拳を放つ。拳が捉えた壬生の身体の手応えに、風土は怪訝な表情を浮かべ、その動きを一瞬止める。
その動きを待っていたかの様に、改めて壬生の“左腕”が風土に向けられる。咄嗟に後ろ回し蹴りを放ち、壬生が右腕をそれを上げ防ぐと、その反動を利用し自らも後ろへ下がる。
「成る程、硬氣功か。自分の身体を囮にして、“左腕”を当て様ってか。凄い事考えるな、大将。」
風土は苦笑すると、改めて壬生へ向かう。風土の言う通りなら硬氣功を纏った壬生に、その拳が通じる筈も無いのに、風土は歩みを進める。
壬生が掌底を放つ。風土はその右腕に、自らの左腕を添える様に、突き出す。お互いの腕が触れた瞬間、壬生の右腕が弾かれる。壬生がその顔に驚愕の表情を浮かべ、風土がその顔に笑みを浮かべる。風土はその身に纏った風を高速に回転させる事によって、壬生の右腕を弾き飛ばしたのだった。
風土は壬生へと更に踏み込む。その身体に両手を添えると、纏った風の全てを両手を通して壬生へと叩きこむ。その威力たるや、壬生の身体は猛烈な勢いで吹き飛び、セスナに激しく叩きつけられると身体を床の上に横たえる。
「路上のゴミは、アンタの方だったな。土に返れ生ゴミ」
風土は不敵に笑い、バー二ィの方へと向かう。
[ No.359 ]
ザンジュウケン、10階に達す
Handle : “バトロイド”斬銃拳 Date : 99/11/16(Tue) 23:35
Style : カタナ◎● カブトワリ チャクラ Aj/Jender : 25歳/男性
Post : フリーランス/ソロ
探偵がこちらにリボルバーを向ける気配がしたが、それは一瞬で掻き消えた。斬銃拳に戦闘の気配がしなかったからだろう。
斬銃拳は10階に這い上がった。“タナトス”の残骸の他、いつかの女性カブトと見知らぬガンファイターらしき男がいた。女性の方は両腕に重傷を負っており少し危険な状態に思えた。
斬銃拳は無傷であったが体力を激しく消耗しておりふらふらとした足取りであった。
「おやおや・・・タナトスを倒しマシタか・・・助かりマシタ。もう一匹は・・・屋上デショウかネ・・・。」
「別にお前を助けてやった訳じゃない。」
“タナトス”の“死体”はそのまま“千眼”の棺となったようだ。
「申し遅れましたが私は賞金稼ぎの者デス・・・こうなった以上、今更バージニアを渡せとは言いマセンが・・・」
ちらりとタナトスを見る。残骸の隙間から赤い光の点が見えていた。
「ところで・・・」
斬銃拳の顔に冷や汗が浮かぶ。
「“機械”と“赤い光”で何を連想しマス・・・?サイレン?レーザーサイト?消火栓?・・・根拠はありマセンが私は・・・」
じっと“タナトス”の“光”を見つめる。
「私は“爆弾”を連想してしまいマスね・・・」[ No.360 ]
squarely scruple
Handle : ”SwornSword"九条 誠 Date : 99/11/16(Tue) 23:54
Style : エグゼク◎●、カリスマ、レッガー Aj/Jender : male/30代前半
Post : イワサキ
秦が階段を上ろうとしたところで九条は彼女に声をかける。
「やっと追いつきましたか。件のものは解明がすみましたよ」
言って隣へと赴き説明を開始する。いわく、
「震王というのは衝撃波をだして攻撃するタイプのバイオウェアです。これだけなら別段MEGADYNE社のサイバーウェアと対して変わりません。重要なのは出力と本体が耐えれるのであれば出せる威力が無限大という点にあります。彼の場合多分外部に出力をして彼自身に対するダメージなどは軽減しているのでしょうね」
そういってから彼女に向かって微笑みかける
「さぁすべき事を果たしますか。互いにもはや引き返せぬ身。いささかの不満は在ると思いますがエスコートさせていただきますよ」
優雅に一礼をし彼女と連れ立って階段を上っていった……[ No.361 ]
終焉への道標─還るもの
Handle : “紅の瞳”秦 真理 Date : 99/11/17(Wed) 03:19
Style : Mistress◎Regger Katana● Aj/Jender : 24/female
Post : N◎VA三合会
この世のものとは思えぬ血を吐くような少女の絶叫は、探偵と道を違えた真理の耳にも届いていた。九条にエスコートされ、その話を聞きながら一歩一歩ゆっくりと階段を昇る彼女の心は、波立たぬ湖面のごとく、恐ろしいほど静かだ。
しかし、その湖面に波紋が立つかのように、どこからか“内なる声”が木霊する。
男とも女ともつかぬ、まろみを帯びた声、それが探偵と別れた時より問いかける。“限界”を超えたものに。
──許されざるものを討つ力を求むる、か?
──復讐を求むる、か?と。
その声に真理は答えられず、自嘲気味に口元を歪めると弥勒を再びかけ、九条の“震王”の解説を思いだし、質問をぶつけた。
「それだけ分かっているのでしたら、もちろん対策もしてらっしゃるのでしょう?」
「もちろん」
抜け目のないエグゼクは、そういって穏やかに微笑む。…どこか遠くで出力装置が爆発する音が聞こえた。
「すでに、戻る道はなく、ただ……還る場所が、あるのみ。堕ちた修羅には相応しいわね」
探偵より忠告された神楽がらみの話が、杞憂であってほしい。片隅でそう思いながらたおやかに、艶やかに微笑む真理に、九条は微笑み、拾ってきたらしい真理の刀を手渡すと、屋上への“扉”を開けた。
自らを駒と位置付けた真理が、開けるつもりがなかった、その扉を。
冷たい月光に照らされたその姿は、先程まで君臨していた“深淵”と意を違え─同質のもの。
ひとの手にふれ、ひとに染まったそれは、度重なった闘いのなかで磨きぬかれ、汚れていてもなお、その鮮烈さを失わない薄く儚い白銀の刃のように。
誰もが一瞬、本当に彼女かと目を疑うほどの凄惨さで。漆黒の洋装が、その血の気のない白き肌を際立たせて。
そこに、降り立つ─それは丁度、来方が、壬生を倒したその瞬間だった。
「ダンスはどうだった?こっちはゴミを片付けたばっかりだけど」
「無粋な方ばかりで、余り楽しめなかったわ。そちらの“ゲーム”は終わったのかしら?」
セスナに叩きつけられ動かぬ壬生に弥勒越しの冷たい一瞥を向け、バージニアの方へと、限界を超えたことを感じさせぬ足取りで向かう真理に、来方が悪戯っぽい笑みを絶やさずにいうと、真理は淡く微笑んで軽口を返す。
来方は、親指でバージニアを指差す。彼女の瞳には…どこか、自分の瞳に宿る光に似た、哀しい光が宿っていた…絶望をしたものだけが、宿す光をそこに、見た。
おずおずと、真理はバージニアに近寄ろうと歩み寄る。…顔に表情が浮かばぬまま。
バージニアは、その深淵を宿した藍瞳で真理の姿を確認し──なにを見たのか、恐れるように、再び悲鳴を上げた。
痛みに耐えかねて、真理はバージニアからあからさまに視線を反らし、後ろを向く。
「…い…今の私には、彼女にしてやれる…ことは…別のことです…彼女を元に戻してあげて…下さい。ただ、気をつけて…」
分かっていた。自分の持つ昏き闇を拒絶されることは。だが…光を求めてさ迷うものは、その限界を超えた心は、間違いなく救いを、癒しを求めていた。だから…羽也に、アレックスに背中を押されるように、来てしまったのだ。光に近づきすぎれば、燃え尽きてしまうのに。痛みに耐えかねて背を向けると、バージニアのそばにいる美琴達にそういって離れた。
傷ついたように、真理は神楽へと視線を向ける。神楽はその無力さに打ちのめされているのだろうか─それとも…。
彼が、その復讐の焔に身を焦がしているのは、分かっていた。しかし…自らも過去、復讐を望んだが為に、そして…同じものを許せないがゆえに、彼女には神楽になにも言うことが出来なかった。
「……神楽さん、皆さんの手当てをお願いできませんか?」
「__ああ、かまわない。だけど真理さん…」
壬生を倒しても、まだ終わったわけではないと、告げようとする神楽を真理は、動く右手を顔の前に差し、制止する。分かっていると、今は、私には何も告げなくてもいいと。
優しく、深く、微笑んで。
確証がある話ではない探偵から聞いた物語と忠告は、下手に喋るわけにはいかなかった。せめて…なにか証拠がほしい。場を混乱させるだけだからだ。
バージニアと倒れふしたまま動かぬ─気配さえ感じられない壬生の合間の警戒するように立つ、沖に真理は話しかけ、一通りの意見交換が終わると、真理は、もう一度だけ、壬生を見据えた。
「……力をもつがゆえの、奢り。その足場を見ることが出来なかったゆえの油断、そういった所なのでしょうね…」
「それゆえに、身を滅ぼした、といったところかな?」
沖の言葉に少しだけ顔を俯かせると、真理は、漆黒のフェイト・コートを止め金具一つだけ着けていた手榴弾を沖へと渡し、ゆっくりと、壬生と沖の間に歩み弥勒を外した。
その瞳は、ただ、闇の深淵を覗くかのように、余りにも深く昏い哀しい輝きを放っている。
「せめて、お眠りなさい。哀しいひとよ……」
それは、自らへも向けられた言葉だった。ゆるやかに、優しく、そして哀しく響く。
なぜ、これほどまでに、哀しいのだろうと。
そして…真理はフェイトコートを葬送の布のように、壬生へと投げた。
限界を超えた真理の精神は、その身を守る為に、より敏感になっていた。近くのフェンスに寄りかかり、バージニア達から離れて、神楽を取り囲む気配を、その場を読むように、真理は精神を集中させる。
微かな気配──心臓を鷲づかみにされる感覚。
先程より、酷い蜘蛛の糸に絡め取られる感覚、心の底から揺さぶられるほどの恐怖。
それが、バージニアと神楽から間違いなく感じられる…己からも。
己が心に響く、内なる声が、先程より強くなる。
それは一瞬のこと。まるで気配が掻き消えるように、真理には追えなくなった。
古傷が、以前の騒動で中華街に来たときのように、疼く。
その感じた気配に凍り付いたように、戦慄を覚えて、真理は動けなくなった。
真理が手にした刀だけが、冷ややかにずしりと重く手に馴染み、音無き蟲惑の声を囁き、誘う。
『還ろう』と。http://www.freepage.total.co.jp/DeepBlueOcean/canrei.htm [ No.362 ]
命を掲げる者達
Handle : “監視者”壬生(ミブ) Date : 99/11/17(Wed) 06:41
Style : クグツ◎・チャクラ・カゲ● Aj/Jender : 30代/男
Post : 大災厄史編纂室室長
「あなたの助けが無ければ、オレは敗れていた。」
寂しげに佇む戦姫にむけ、来方が言った。
「どういう事?」
問う真理。
「ヤツの・・壬生の左腕にはおそらくオレ達のような“力”を中和する仕掛けがほどこされていたんだと思うよ。」
「最後の一撃を放つ瞬間に軽い力の消失を感じた。すぐにそれは消えたけどね。」
それが本当であるのなら絶対絶命の危機であったというのに、来方は軽い調子で肩をすくめる。
「その時見たんだ。ヤツの肩口から小さなスパークがおこるのを。肩についていた傷は、ビルに来てから受けたものじゃあない。だとしたら、それはアンタがその腕を犠牲にして、与えたものだろう、と思ったのさ。」
何が言いたいの?と、疑問を投げかけるかのような真理の瞳を見つめ、来方はくったくなく笑い、言った。
「アンタはバージニアを救ったんだ。あの、運命に流される少女の命を。」[ No.363 ]
お帰りなさい
Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴 Date : 99/11/17(Wed) 13:41
Style : カブト=カブト=カブト Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス
美琴の目の前で壬生はゆっくりと倒れていった。しかし、バージニアの悲鳴はとまらない。
「バーニィ、もう大丈夫だから」
美琴の声にも、バージニアの悲鳴は止まらない。
「バーニィ………」
美琴は、何も言わずにただ彼女の体を抱きしめていた。自分のぬくもりが少しでもいい、彼女の心に届くようにと願って………。
美琴はバージニアの体を抱きとめたまま、風土に軽く頭を下げた。そして、そのまま少しの間動かなくなる。
「ありがとう………それから……何もお手伝いできなくて、ごめんなさい」
彼に聞こえるか聞こえないかの声でつぶやく。
そして、顔を上げたときに、真理の姿が目に入った。こっちにゆっくりと歩いてこようとする。美琴が駆け寄ろうとしたとき、真理がくるっと後ろを向いた。とても痛そうな、そして辛そうな空気が漂っている。
「待って!」
美琴は真理に叫んだ。
そして、近くに歩いてくる風土にバージニアのことを任せ、彼女の方に走る。そして、彼女の前に立った。辛そうな表情のままゆっくりと立ち止まる真理、しばらく沈黙が流れた後、美琴は真理ににっこりと微笑んだ。
「お帰りなさい。真理さんとの約束………守れたよ。 ………あたしの力じゃないけど………」
[ No.364 ]
街光の上
Handle : “薄汚れた鑑札”沖直海 Date : 99/11/18(Thu) 01:49
Style : レッガー◎フェイト●カブト Aj/Jender : 24/女性
Post : フリーランス
「対アラストール、ね。そんな御伽噺を信じているから後れを取る」
薄く苦笑した沖の台詞を、神楽と話していて、沖に手榴弾を渡した真理が聞き取ったようだ。弥勒越しに視線を投げて問い掛ける。
「でも、それが実在するとしたら、どうしますか?」
「う〜ん?
他に手立てがないなら、バサラかマヤカシに任せたいな。
白兎を追って穴にはまる趣味はない」
「・・・アラストール・・・その、名前をどこから聞きました?」
「そこのやつが喋ってましたよ。
鍵を目前にしながら、対アラストール用に生み出された私が後れを取るとは、とかほざいてましたね。
で、なんかその後勝手に、そうか、とかいって何かに納得してましたが」
真理が、軽く溜息を吐いて微笑んだ、ように見えた。
「推測に証拠が出始めてきましたね。
下でウェズリィさんから、物語をお聞きしたのですが…いやはや、自らそんなことを口走るとは…沖さん、挑発しました?」
「正直な感想を述べただけ」
軽く肩を竦めた沖に、真理が背を向けて言う。
「…もしかしたら、アラストールとバージニアがなにか関係あるかもしれませんね…。
とりあえず、彼女を正気に戻らせてあげて下さい。誰も、まだ犠牲になってはいないのですから……」
わざと距離を置くように背を向けた、その後ろ姿がなぜか遠く見えて、沖は思わず声を掛ける。
「大して付き合いない私より、あなたが適任では?」
「いえ…私より、貴女のほうが、彼女と長い時間いらっしゃったでしょう?
私は……私には、その資格はありませんから。
私の仕事は別にあります。それだけです」
「・・・やれやれ・・・やっぱり深入りしすぎたか」
そういって、切れ目ない悲鳴を上げる少女に向かう沖に、フェンスに向かう真理が呟いた。
「いったでしょう?あの時に踏み出せば戻れないと」
「ま、後悔はしてないけどね」
「一応、警戒だけは怠らないで下さい。…なにか出てくるかもしれませんから」
「了解」
真理が、壬生だった「モノ」にコートをなげた。
・・・いや、彼は最初からモノだったのかもしれないが。
そして沖は考える。
自分達も、おそらく遥か彼方から見下ろしているニューロエイジの支配者たる、エグゼク達には同じ事なのだろうか、と。
ビルの上から、きらめくネオンを見下ろせば、それは只の街の彩りに過ぎないけれど、その一つ一つの地上の星の下で生きている人たちを沖は等身大で想像できて。
どんな街にも、そこで生まれて死んでいくもの達がいる。
それは、どうでもいいことなのだろうか。
一瞬の物思いを表には出さないで、沖は何かを吐き出すように叫びつづけるバージニアに歩み寄った。
きっかけとなったのは、おそらく血まみれの真理だろう。
しかし、その原因は今まで見せられた一連の出来事だ。
現実から、今からの逃避を願って、叫びつづける少女の眼差しが空ろを見つめているのを見て取って、沖はバージニアに近寄った。
そして、力いっぱい頬を叩く。
少女の瞳が揺れて、沖を捉える。
「バージニア。独りでどこへいくつもり?」
沖は瞳と瞳をあわせたまま、バージニアの肩を掴んで、一言一言言い聞かせる。
「皆と、月にいくんだろう?
行きたければ、願うんだ。それがあんたの望みだろ、あんたが願わなくて誰が願うというんだ。
行きたいならいけると信じな。願いな。
帰ってくるんだ、今、ここに」
僅かながら、少女の瞳に正気の色が戻るのを見て、沖はにやりと笑って言葉を続ける。
「『あんたは』誰も殺しちゃいない。
誰かが死んだとしても、それはあんたのせいじゃない。
だから、帰ってこい。
かならず、あんたの望む場所に、あたし達が送るから」
言い切った沖の向こうで、優しく真理が微笑んだ。
その笑みだけは、初めて会った時のままに。[ No.365 ]
還ってきた娘
Handle : 『親愛なる天使』モリー美琴 Date : 99/11/18(Thu) 05:14
Style : カブト=カブト=カブト Aj/Jender : 14/女性
Post : フリーランス
「でも………バーニィに見せないって約束は守れなかった…ね………」
バージニアに見せてはいけないものを見せてしまったための彼女の変化………。美琴はそれだけ言うと、うなだれる。そして、真理の言葉をじっと待った。
その時、すっと真理のそばを離れて、沖がバージニアの方に歩いていく。そして、彼女の前に立つと、頬を叩いた。
乾いた音が辺りに響く。
「………!」
その光景に目を丸くして小さく抗議の声を上げようとしたが、真理に止められる。彼女は黙って首を軽く横に振っていた。
バージニアをじっと見ていると、その後の沖の言葉で小さく反応し、やがてゆっくりとこちらを向いた。そして、弱々しくだがうなずく。
彼女の瞳と反応を見て、沖が優しく微笑む。そしてこちらを見て、無言のままうなずいた。
「………」
「あたし………」
ゆっくり小さな声で言うバージニアに、何も言わずに微笑む真理と美琴。
その瞬間、冷たい空気に変わって優しく柔らかい空気が辺りを支配した。
[ No.366 ]
反逆の瞳
Handle : “銀狼” 神楽 愼司 Date : 99/11/19(Fri) 01:24
Style : シルバーレスキュー グラウンドスタッフ Aj/Jender : 推定年齢26 / 男性
Post : カゼ◎、カゼ●、タタラ
「・・・神楽さん、皆さんの手当てをお願いできませんか?」
真理の言葉に目線を合わせ、シンジは傍らに倒れている壬生の方へと視線を向けた。
「______________ああ、かまわない。だけど真理さん・・・」
『いいんです、神楽さん』
真理が言葉を遮る様に視線を返してくる。シンジはその視線に自分のそれを絡め、言葉にならない返事を返す。
真理は寂しげに微笑み、シンジもどうしようもないのだと声にならない自嘲の笑みで顔を満たした。
シンジは手早く無線に声をかけ、手が回る限り、屋上にいる全員に治療を施すが、火鷹と言う女性は深刻な状態だった。半ば目を細めたままに皆を見回した後、空電音を上げるバイザーに声をかける。
「今いるポイントだ。手を回してくれ」
『選択をせよ、シルバーウルフ』
バイザーの視界に、蒼く瞬く銀色の文字が踊った。
「まだ終わりじゃないんだ」
誰彼にともなくシンジは呟いた。
ふと思い出した様にその気配に真理がこちらを振り向く。
シンジはゆっくりと傍らの壬生の巨躯を抱え上げ、起こした。そのあまりの重さに、ミシリと微細な機械仕掛けのシンジの身体が溜め息を漏らした。
その場にいる全員の視線がその挙動に注がれた。驚きの溜め息を吐く者もいれば、無言の者。何か言いたげな視線を絡めるだけの者もいる。
シンジはさしてそれを気にかけず、しばらく壬生の身体を見つめ、やがてA-Killerの座席に戻ってモニターに手を触れる。そしてゆっくりと、沖の傍らに佇むバーニィへと目線を向けた。
真理がフェンスに凭れ掛かったままゆっくりと視線を起こして声をかけてくる。
「シンジさん・・・」
「俺が選んだ選択肢は」凍り付いた笑みを浮かべる。それは行き場所を無くした動物のようで、それは、帰る場所を知らない子供の諦めの笑みの様にも見えた。「皆が抗う事を選んだその選択を見守る事だ」
美加がシンジを睨んで、銃を地面に投げつけた。
「気に入らないね」
「あぁ、俺も気に入らない。俺達カゼが駆け抜けなければならない場所は、いつも遠回りだ。なぁ__________我那覇」
シンジが族特有の視線で美加に言葉を返す。
「誰も彼もが示し合わせた様にこれから動き始めるぞ・・・今から始まる収穫の宴に関わりのある者達が________その全てが」一度言葉を止めると辺りを見回した。「皆良い腕をしてる。誰だってそれなりに冷や汗をかいただろう」
風土が微かに笑う。シンジは風土を見つめ、微笑んだ。
その微笑みが交わされると同時に、沖や美琴が倒れた遊衣、そしてシンジとバーニィを結ぶ線上に足を踏み入れた。
九条は無言のまま、視線を漂わせている。
シンジはA-Killerのタービンを静かに回し、離れた壬生に向かって振り返る。本当にこと切れたのか? それとも端末と言う手駒を相手に我々は虚構を演じさせられたのか? 言い知れぬ疑問と共に、その顔を見つめ、目の前の男の静かでまだ多少暖かみのある傷ついたその姿を見、両目を閉じて自分が過去に歩いてきた惨状を振り返った。
あの日、銀の瞳の彼女は俺に何と告げたのだろう。
壬生の巨躯から伸びた影に消された自分の過去を彼女は何と言ったのだろう。
はっきりと思い出せない記憶が執拗に自分を責め立てる。
アラストールの声を背負う彼女が、あの日、自分を見つめたその視線に、何を感じ、何故動かされたのか。
霧に隠された真実を垣間見たがゆえに降りかかってくる災難や衝動を、この少女・・・バージニアはどうやって逃れようと言うのか。
シンジは沖と美琴の間から垣間見えるバージニア・ヴァレンタインの双眸を見つめた。
彼女が鍵[キー]だと言うのか? この儚い少女が。
キーであろうと無かろうと、彼女が生き延びたこの事実は、この場にいる全員毎にカタチを変えて現れては消えていった事象それぞれに臨んだ結果だ。アラストールが彼女を必要としている、していないは今のシンジにとっては、半ばどちらでも良いことだった。
いつまでも誰かが守り続けられる訳ではない。
我らNOVAに刻まれし者と同様に、強靭な精神や肉体を有しているのだと________育ってゆくのだと一体誰が言えよう。そして何よりも彼女の待つ未来を誰が選択・・・いや、この事象にいる彼女が選びたいであろう選択への歩みを誰が支えつづける事が出来ると言うのか。・・・出来はしまい。シンジは過ぎた時間を振り返り、そう素直に感じた。
「だが、こういった現実も繰り返される事象の結果の一つとして認めても良いだろう」
誰に聞こえるかどうかも解らない程の呟きを漏らし、シンジはバイザーの向うに佇む銀色の瞳の彼女へと意識を預けた。
シンジは一度はかりそめの死を迎えた身だ。その自分の辿ってきた過去の事象を振り返ると、壬生と言う男が強く信じ、選んできた歩いて来たその選択を、今なら理解できない訳ではないと考え始めている自分に驚いた。しかし、自分の奥底の何かが素直にそれを受け入れ始めると、否応無くそれにつられて復讐の焔が自分の中で、冷たく、氷の様な炎へと姿を変えて行く様子が映し出され、ただ黙ってそれを見つめた。
一体何が真実かだって?
シンジは自嘲した。
そうだ、あの女はこう自分に告げたのだ________その銀色に輝く瞳で。
シンジはあの時の彼女の言葉を、今、即座に理解した。だが頭で理解したのではない。視覚や聴覚、自分が身に纏うあらゆる感覚を超えて理解する何かだった。彼女は真実を語っている。何故分かるのか、何故理解できるのかと聞かれてもそれはうまく説明できそうに無かった。
シンジは両目に手をあてる。そしてゆっくりと黒く彩られた緩やかなカーブを描くカラーコンタクトを脱いだ。閉じていた瞳を開き、バージニアを見つめる。
その彩りは何処までもその奥行きの見えない陰りのある銀色の双眸だった。
シンジは未来の事情を見つめるその瞳でバージニアに、壬生の傍らのフェンスに疲れて凭れ掛かる真理へと視線を向けた。
エヴァンジェリンは、対峙する自分にこう告げたのだ。
『ココニ来イ。オ前ノ求メルモノハ___________________ココニアル』http://www.din.or.jp/~niino/ [ No.367 ]
生命の炎
Handle : “疾駆の狩人”神狩裕也 Date : 99/11/19(Fri) 01:33
Style : チャクラ◎、カゲ、ヒルコ● Aj/Jender : 23/男
Post : 狩人
ガラリ。
屋上の隅で音がした。気配を察した人間が警戒心と共にそちらに眼を向ける。
「よう、生きてたのかい」
来方が声をかけた。
「ふふ、また死に損ねたようだ。我ながらしつこいものだ。嫌気がさす」
そこには皮肉な笑みを浮かべ、人間の姿に戻った神狩がいた。適当に衣服をまとい、吹き飛んだ左腕をかばうようにして歩き出す。バーニィ達の脇を通り過ぎる。向かう先は倒れた火鷹の所だ。
腹部の傷の様子を見る・・・ほぼ致命傷。今から病院に運ぶ程度ではおそらく手後れだろう。
どうしたものか考えあぐねていると、火鷹の眼がうっすらと開いた。僅かだが、生命の炎が眼の奥にゆらめく。それを見た神狩は何とも形容しがたい笑みを浮かべた。
「ふふ・・・大したものだ。この炎、あのようなデク人形ごときに消させるのは惜しすぎる」
ぶちっ。
次の瞬間、神狩は自分の人差し指を噛み切った。かがみ込み、流れ出る血をそのまま火鷹の口の中に注ぎ込む。
しばらく注ぎ続けた後、その行為を中断する。
「神狩一族の鬼の血を分け与えた。しばらくは俺と同等の再生能力を持つはずだ。この傷なら跡も残さずふさがるだろうな。命に別状もあるまい」
先に火鷹を救った我那覇に声をかけ、屋上のフェンスにもたれかかる。
「さて、あとは奴等がどうなるか、か・・・」
バーニィ達の方を見ながら神狩はそう呟いた。
[ No.368 ]
イノチ
Handle : “ボディトーク”火鷹 遊衣 Date : 99/11/19(Fri) 19:12
Style : マネキン◎トーキー=トーキー● Aj/Jender : 17歳/女
Post : フリーの記者
熱い……
唇から、形容し難い熱いエネルギーが入ってくる。
それは『生命』。
無感覚になっていた身体を、生気の塊が駆け抜けた。
「……げほっ……」
遊衣の口が、血の塊を幾つか吐いた。
まだ、自分の物で無いような身体をようよう起こす。
「う〜……不味い……」
鉄くさい口の中に顔をしかめて言うと、小さな苦笑が彼女の背後から起こった。
「お前は結局変わらんな」
「……悪かったね」
片腕を失ったままの神狩が、いつもと変わらない口調で言うのにこちらもそう答えて舌を出す。
「……生きてたんだね……良かった」
鬱陶しく絡みつく髪の毛を払い上げながらそう言うと、神狩は黙って唇の端を吊り上げた。
「助けてくれたんでしょ?……ありがと」
言って頭を下げてから、余り力の入らない身体に力を入れて、立ちあがる。
何人かが、振りかえった。
膝が笑いそうになるのをこらえて、ひとかたまりに寄りあった懐かしい……そうだ、とても懐かしい人達の元に歩み寄る。
「バーニィ、美琴、真理さん、沖さん……皆、無事で良かった」
その人たちのためなら命を賭けられた、短くて濃い時間を共有した友達。
遊衣はゆっくり腕を広げて、長い腕で近くにいた、真理とバージニアを抱きしめた。
「……良かった……貴方達が生きててくれて……嬉しい」
そう呟いて、肩越しに見やったコンクリートの地面に、カメラが鈍く光って、いた。http://village.infoweb.ne.jp/~fwkw6358/yui.htm [ No.369 ]
決意
Handle : バージニア・ヴァレンタイン Date : 99/11/19(Fri) 22:59
Style : マネキン◎・マネキン・ハイランダー● Aj/Jender : 17歳/女
Post : ?
遊衣を見つめるバージニアの瞳に涙が溢れた。
「よかった、本当によかった・・・」
そしてゆっくりとわずかに熱をもって赤くなった頬に手を当てた。
それは先ほど沖に叩かれた痛みからではなく、そうすることで自らの存在を確かめ、現実に繋ぎ止めておこうとするような、頼りなげな仕草だった。
ズキリ
沖の胸がわけもなく痛んだ。
「ああ、なんともないです。もう大丈夫ですよ。」
その様子に気がついたのか、バージニアがパタパタと手を振った。
「もう大丈夫。それに沖さんの言葉で私は決心がつきました。自分の運命と向かい合い、闘う決心が・・・」
不吉な予感に遊衣が、モリーがバージニアをのぞき込む。
「モリー、私を護ってくれてありがとう。あなたがそばにいてくれたから、みくなはあの人に勝つ事が出来たんだと思うよ。」
「私がどれだけあなたが好きで、あなたに感謝しているか、言葉では伝えきれないよ。」
そう言って、照れたように笑った。
しかし、そんな最大級の感謝の言葉もこの小さな守護天使の心を晴れやかにする事は出来なかった。
なぜならそれは、まるで別れの言葉のようであったからだ。
[ No.370 ]