イセサキ町

【宴の後】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/02/13(Thu) 06:53
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「ふぅっ・・・飲みすぎたようだな・・・」
 石目は建物の壁に寄りかかりながら色とりどりのネオンをぼんやり眺める。
「社長・・・コレからの予定ある?」
 スクワッター風のポン引きがいきなり右手に腕を絡めて引っ張っていこうとするので,石目は無言で手を払う。ポン引きはニヤリと笑うと次の通行人に腕を絡め,何かを耳元で囁いている・・・。
(そういえば,拉致まがいの客引きでボラれて破産させられた社員がいたっけな・・・タクシーに乗ったほうが無難だな・・・)
 ふらつく足で,客待ちのタクシーにたどり着き,なんとか中に転がり込む。
(もう,酒は辞めよう・・・酔いすぎだ)
 タクシーの後部座席で一息つくと,けたたましい音とゴッドファーザーの愛のテーマを流しながら単車数台がタクシーのすぐ側を蛇行していく。
「危ないな・・・」

 [ No.1 ]


【魔窟サティスファクション】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/02/15(Sat) 12:36
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 暴走車を追うように走っていくケーサツはBHだろうか?
 BH本来の業務から考えると職務上本気でゾクどもを取締ろうとしているとは考えがたい。一時の暇つぶしか,後輩にヤキを入れようというOBといったところか・・・。
 どっちにしろ,本家ケーサツであるBHのお膝元であるこのイセサキ町の治安を見れば,如何にBHが地域の治安に関心を払っているかがよく分かる。
 石目はつらつら考えながら,社内購入で入手した皮下注射タイプの酔覚薬を左手に打った・・・いつまでも酔っていられるほど暇ではないのだ。
 タクシーは,ケーサツの車両が去った後,すべるように走り出した。
  窓越しに広がる光景は興味深い,路地で,嘔吐する“さらりまん”,寒そうな格好で客を待つマネキン達,ナンパ・・・スカウトをするレッガー(マネキンのブ リーダーか?)。ガラス窓の向こうの管理された危険地帯・・・ニューロエイジのサファリパークの終点に着く頃には,薬効により酔いは既に覚めていた。念の ため,IANUSで呼気のアルコールチェックをするがグリーンだ。
 ネクタイ善し。社章善し。髪乱れていない。口臭臭くない。顔脂ぎってない。
 一通り確認を終えると,運転手に代金を支払いタクシーを降りる。柄にもなく気取って(一般のタクシーで乗りつける辺りで台無しだが),サティスファクションへと入る。
「石目だが・・・」
 店員は柔らかく微笑み。
「いらっしゃいませ石目様。お連れ様がお待ちです。」
 と洗練された身のこなしで石目を店内へと招き入れた。

 [ No.2 ]


魔窟、カジノルームにて

Handle : “夢魔姫”ジャスリン・アトカーシャ   Date : 2003/02/17(Mon) 16:27
Style : アヤカシ● ミストレス◎ マヤカシ   Aj/Jender : 20/♀
Post : サロン・ドルファン


 カードが配られた。
 周囲の男女達が、私たちを興味深そうに見守る。
 対戦相手は…若いエグゼク。あくなき行動力と野心を持つ好青年。でも少々勝ち気、そして負けず嫌いなよう。小さな負けが続いてレートを上げてしまうような。

 彼は配られたカードを見ても微動だに表情を変えない。
 すぐに手札を選び、ディーラーに告げる。
「3枚」
 ディーラーと彼が私の方を向いた。
「何枚交換いたしますか?」
 手札を見つつ、私は首を傾げた。
「さて、どうしましょうか?」
 注目が集まる。私の容姿は、嫌でも人目を引いてしまうらしい。
「1枚お願いします」
 カードを伏せると、代わりのカードが補充されてくる。
 再び5枚になったカードを見て、私は宣言した。
「今までの勝ち分、全てを賭けます」
「同額を賭けよう」
「レイズです。私の残りチップを上乗せします」
「受けよう。コール。同額を賭ける」
 くす。
 よろしいですか? とディーラー。
「もう一度、レイズをよろしいでしょうか?」

 [ No.3 ]


密談の後

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/02/17(Mon) 21:24
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 サティスファクションを出る頃には石目は疲労困憊していた。あの『老人』と話す時はいつも緊張を強いられる。
 ネクタイをゆるめつつ客待ちタクシーに乗り込む。
「安くて気楽に飲める店知らないかい?運転手さん」
「南海漁場あたりがどう・・・」
 ドンッと鈍い音が響く。
「運転手さん。なんだい,あの音は?」
「ATM荒らしが近くのATMを襲ったんじゃないかねぇ。工事現場の作業用ウォーカーを盗んでよくやってるようだよ。誰か駆けつける頃には,ウォーカーを乗り捨ててトンズラさ。・・・お客さん南海漁場でいいね。」

 [ No.4 ]


【BHヨコハマ支部/ウォーカーハンガー】

Handle : BH特車隊   Date : 2003/02/18(Tue) 00:23
Style : 背景
Post : ブラックハウンド警備部特殊車輌中隊


警戒中の全車両に報告。警戒中の全車両に報告。目標は建設中のマンション予定地から北上。通路上を突破した後、そのまま現場で破壊行為に及んだ模様。各移動はすみやかに現場へ急行し、周辺道路の封鎖を行え。くりかえす…。

「形式はイワサキ重工のDOOL&GAUNTLET型だ!本気で暴れられたら機動隊じゃ持たないぞ!点検急げ!」
ハンガーに整備班長の怒声が響き渡る。その号令の下、特車隊LU$T分隊の夜が始まった。彼らは、BHヨコハマ支部に隣接したウォーカー格納庫を間借りする形で、この冬から試験的に活動を開始していた新設部隊であった。

「えー…諸君。相手は違法改造した工業用ウォーカーだ。ただのATM荒らしなら、我々の出番は現場の事後処理に終わるだろう。だが、我々の到着が間に合えばどうだ。我々の舞台に華を添える名脇役を演じてもらおう。我々はどんな手段をつかってでも、ヤツを確保するのだ!」
ウォーカーキャリアーを前に、隊長が隊員たちを鼓舞している。
「本隊のウォーカー隊に遅れをとるな!…よーし時間だ!幕を上げるぞ!」

 [ No.5 ]


魔窟その後

Handle : “夢魔姫”ジャスリン・アトカーシャ   Date : 2003/02/18(Tue) 18:40
Style : アヤカシ● ミストレス◎ マヤカシ   Aj/Jender : 20/♀
Post : サロン・ドルファン


 テーブルに新たなチップが積まれていく。
 ざわめく人々。
 チップの価値は、ここでの借入の限度額。つまり、賭けるものは私の破滅。
 青年の眉が動いた。手が震え、視線が彷徨う。こんな勝負は初めてなのだろう。
 ふと、視線が合う。
 瞳が語るのは、とまどい、不安、そして微かな期待。
 私は彼に、曖昧な笑みを返してあげる。
「…愚かな娘だと思われましたか?」
「……」
 彼は黙って手札を確認した。強い手の様だ。でも、私が1枚しか交換しなかったのが気にかかるらしい。
「どうしますか? コールか、降りるのか… 貴方のご自由に」
「……」
 彼にとっては永遠とも思える僅かな時間の後、青年はカードをテーブルに伏せた。
「…降りる」
「あら、残念」
 私はちらりと手札を見せた。私の手は、“役無し”。
 周囲からの感嘆の声。
 私は敗北感に打ちひしがれる青年の手を取り、甲に口づけた。
「お疲れさまでした。今夜は私の夢を見て下さいね」

 [ No.6 ]


【イセサキ町:レイノルドレポートより一部抜粋】

Handle : “真実の眼”アリシア・レイノルド   Date : 2003/02/19(Wed) 00:41
Style : フェイト◎ ミストレス● イヌ   Aj/Jender : 40/♀
Post : 私立探偵/オーストラリア警察対国際犯罪チーム・ケルビム・貸与捜査官


 ATM荒らしと一般人(エキストラ)が聞けば、「何それ?」と首を傾げるに違いない。「そもそもATMって何?」と。

 この場 合のATMは automatic [automated] teller machine 、つまり自動おしゃべり機、……ではなく、オールドエイジで言うところの自動預入支払機の事だ。金銭がコインや札からデータへと変わっていく時代の流れの 途中にあったものだ。
 かつてのATMには、その中に現金があり、重機を使用してATMを破壊して現金を奪うという犯罪が行われていたことがあった。

  さて、承知の事だと思うが、ニューロエイジでは金銭はクレッド・クリスを通してデータという形で取引される。従って仮にATMがあったところでその中に現 金はない。そもそも買い物にするのにお金が足りなければ、公衆DAKに駆け込めばいいだけの事で、口座を解約して引き落とす事も、消費者金融から借りる事 も簡単にできるのである。

 しかし、このイセサキ町にはATMが存在する。何のためにあるかといえば、やはりキャッシュを取引するため だ。そう、現代にもキャッシュと呼ばれるものがある。ストリートの住人ならお馴染みのカッパー、シルバーなどと呼ばれているプリペイドカードの事だ(単位 としての方が定着している感があるが)。
 日頃気軽に使っているキャッシュだが、これはクレッド・クリスがあって初めて作れるものだ。Xランクの 市民にはクレッド・クリスはなく、キャッシュを手に入れるためには手段を選ばないため、下手に持ち歩いていれば、それこそ身ぐるみはがされてしまう。だ が、逆に他人のクレッド・クリスを奪ってもDNAまで照合されるのでは、そう使い道もない(脅してキャッシュに落とさせればいい? まぁ、それはまた別の 話だ)。
 ところが、このイセサキ町のATMは他人のクレッド・クリスだろうがなんだろうがキャッシュに落としてくれるのである。そう、これは LU$Tのヤクザ、銀星会が扱っている闇金融のATMなのだ。マネーロンダリングから身元不詳者への高利貸しまで、表向きは消費者金融出資広告の公衆 DAKという形で置かれているのである(もちろん利用には銀星会関係のコネから特別なコードを仕入れる必要がある)。
 しかしマネーロンダリングといっても即座に処理が済まされるわけではなく、都合上、銀星会のものが回収に来るまで一旦クレッドクリス等を保管しているため、ATM荒らしはそれらのものを狙ってくるのである。

 しかし、そのような特殊なATMが堂々と置かれているのは、イセサキ町における銀星会の影響力の大きさによるもので、ATM荒らしが割がいいからといって普通は銀星会に楯突く事になる行為を行うものはいない。
 だが、昨今はそういったルールを知らない(あるいは怖いもの知らずの)若者が増えていたり、あるいは昔気質の銀星会を侮るものが多くなっているのか、ATM荒らしが増えているようだ。

 ヤクザの運営するATMを荒らすATM荒らしを公的警察のブラックハウンドのウォーカー隊が追う、というのは皮肉な話である。



「……それにしても独自にウォーカー部隊を持つLU$T支部にわざわざ分隊を送り込んでくる、とはね。特車隊の設立にも稲垣司政官絡みの癒着が関係あるという話だし、さて“本店”はどういうつもりなのかしら」

 レポートの手を休め、事務所の窓の外から聞こえてくるサイレンの音を聞きながら、アリシアはそう独りごちた。

「ま、近藤課長も麻矢もこのまま大人しく要求を飲んでいるつもりはないんでしょうけれど、ね」

 [ No.7 ]


【BHヨコハマ支部:隊長室】

Handle : “ヤマ天”天竜麻矢   Date : 2003/02/19(Wed) 04:52
Style : クロマク● イヌ◎ イヌ   Aj/Jender : 37/♀
Post : ブラックハウンド・ヨコハマ支部警部


麻矢は直立不動で隊長室に据えられたモニターの一つを眺めていた。そこには今まさに出動する特車隊の様子が映し出されている。
「随分と張り切っていますね」
「まぁ、仕事熱心なのは良いことじゃないかね」
一方近藤課長(彼は隊長代理でもあるが、皆「課長」と呼んでいる)は悠然と椅子に座り、片手にコーヒーカップ、くわえ煙草というスタイルで書類を眺めている。
「随分と余裕ですけど。何か今後の方策はおありなんですか」
近藤は大きく煙を吐き出す。室内は既に霞がかかったように白くなっている。果たしてこの部屋の空気清浄機は働いているのだろうか。
「ん?そういう天竜君こそ、まさか、また何か企んでおるんじゃあなかろうね」
「『また』とは人聞きが悪いですね。それに話を逸らすのは良くありませんよ、課長」
既に出動は終わったが、麻矢はまだモニターを見ている。何かを考えている様子で、一言二言、小さく何事か呟く。
近藤は近藤で質問には答えず、ただコーヒーを一口飲んで“うむ”とも“ふーん”ともつかぬ不明瞭な声でうなる。
「で、君はアレだ、今回は何もなし、ということかね?」
ようやく近藤の方を振り向き、小首をかしげる。
「さて何のことでしょう」
「さて何のことかな」

 [ No.8 ]


【タクシーは疾走する】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/02/19(Wed) 20:32
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「ATM荒らしかそれは物騒ですね。」
 石目ははじめATMといわれてピンとこなかったので,コッソリとIANUSを使ってデータベースを検索する。
(・・・ふむ,BLAKK公衆DAKというところか)
と,データを勝手に解釈する。
「こういう繁華街では足のつく金は使いづらい・・・誰だって風俗店で自分の身分を曝したいとは思いませんから,いい商売ですよね。」
 ほどなく微かなサイレンが遠くに聞こえはじめた。
「おや,あの音は天下のBHだ。」
 うれしそうに運転手が呟く。
「もしかすると,ウォーカー戦が見物できるかもしれませんよ。」
 ウォーカー戦といって石目も興味を持つ。LU$TBHなら,おそらく自社製品同士の戦いになるに違いないと勝手に推測する。
「運転手さん,目的地を変更していただきたいのですが,よろしいですか?」
「本牧倉庫街コロッセオですか?」
運転手がとぼけて言う。
「いえ,BHの皆さんの御活躍を見物に。」
仕事用の微笑を浮かべて石目は言った。

 [ No.9 ]


野良犬達の挽歌

Handle : BHヨコハマ 警備部ウォーカー部隊整備班   Date : 2003/02/19(Wed) 21:32


「待機?マヂかよ?!」

ブラックハウンド・ヨコハマ支部。
その警備部の下部組織には独自のウォーカー部隊を持っている。

し かし昨冬よりブラックハウンド本部の所属となっているウォーカー部隊が、ヨコハマ支部へ研修という名目でやってきている。様々な憶測は流れているが、現場 の人間には正規の辞令が無かったことに不満が高まっており、ヨコハマのウォーカー部隊と本部のウォーカー部隊「特車隊」との間には険悪な雰囲気さえ産まれ 始めていた。

そもそもヨコハマ支部は政治色がより濃くなった近年の本部から距離を置いており、現場の人間も「本店(ブラックハウンド本部)」「支店(ヨコハマ支部)」と差別化意識を顕にしているのが現状だ。

特に本店の特車隊は政治的な駆引きで資金とスタッフを掻き集めて創設されただけあって、配備されたウォーカー、キャリア等々も最新鋭の装備が並んでいる。
一 方のヨコハマ・ウォーカー部隊は、横浜運営委員会の管轄にあって制約が多々あり、市街地において運用性は高いものの汎用性の限られた千早重工製「CCP- 010」を中心とした部隊編成である。重量級・戦術級のウォーカーを揃えているウォーターフォード警備保障などの企業警察の部隊と比べても見劣っているこ とを否めない。

数々の制約と限られた資産、その中で次々に発生する事件に日夜対応している現場の人間こそが、ヨコハマ支部の数少ない財産と云えるだろう。
しかしそんな彼等の努力を知ってか知らずか、今回ヨコハマ・ウォーカー部隊に下された命令は「待機」であった。
「本店」の出動準備を横目で眺めていた整備班員達は憤っていた。

「さっき電脳班から聞いた話だと、もう目標のウォーカーには予備も含めて5本アンカー打ち込んでるって話だぜ? あとは接近しちゃえばハイオシマイだろうに!」
「だいたい本店の奴らあんな市街地運用化してない装備で行くつもりかよ。舗装路の液状化現象で苦情の嵐だな……」
「オメガ隊長時代からの人間だっていうから安心してたのによ……あの天竜って警部は何考えてるんだ?」

整備班の大半はウォーカー稼動数なら戦場にもひけをとらないコロッセオ出身者ばかりだ。
荒くれ者ども、というイメージが強い彼等だが、法の番犬ブラックハウンドの一スタッフとしての意識はなかなか……

「それよりも、だ。とりあえず今回はうちの部隊が出なかったんで不戦勝だな」
「よっしゃー!倍率5倍ゲットー!」
「待てぇ!!待機なんか考えてなかっただろうが!無効だ、今回の賭けは無効だ!」
「不戦勝だって!早く賭け金よこせよ!」「なんだと!」「オラッ!」


……場所は変われど、人間そうそう変わるもんじゃない、ということか。

http://www.dice-jp.com/ys-8bit/test/walker_sample.html [ No.10 ]


【ウォーカーATM襲撃事件・現場:野次馬側】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/02/22(Sat) 21:43
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


 タクシーは裏道を巧みに潜り抜け,事件の現場のすぐ側にまで接近した。
「やるねぇ,運転手さん。通信を傍受でもしたのですか?」
 石目は運転手の鮮やかな手並みに素直に感心する。
「コレはお代。労働に対する正当な対価ですよ。」
 気前よくゴールドを一枚渡し,もっとよく見えるところに行こうと車の外に出る。後ろで運転手が何か叫んでいたが,兎に角今はさして重要ではないことだ。
 運良く小さなビルの屋上に潜り込むと,丁度眼下にATMを持ち,しかも逃げ遅れたマヌケな犯人が包囲されて困っているのが見えた。
「あれあれ・・・犯人の機体は我が社の製品じゃないですか・・・しかも」
 包囲しているのは予想通りのBHだったが肝心の機体・・・近づいてくるBHの機体はイワサキ製ではなかった。
「これは不味いな・・・。」
 空にはチョッパー,隣や向かいのビルの屋上にはフリーやどっかのクグツと思われるトーキー達。石目はおもむろにポケットロンを取り出し,社に連絡を入れる。
「TV見てますか?あまり良くない展開です・・・ええ・・・お願いします。早急に手を打っておいて下さい。・・・そう,分かっていればよろしい。」
 連絡を終えると一息つき,今度は子供のような目で,これから起きるであろうBHの手並みを見守ることにした。

 [ No.11 ]


[ Non Title ]

Handle : “叢”霧島 郁巳   Date : 2003/02/23(Sun) 01:59
Style : アラシ● カゼ イヌ◎   Aj/Jender : 27/♂
Post : BH特車隊ヨコハマLU$T支部


「第1班、配備完了」
「第2班…所定位置に到着しました。現状の確保完了!」
 
 大通りを挟んでちょうど逆方向に正対する位置に、LU$T特車隊の誇る「移動要塞」“影艶”がその巨体を現していた。濃紺と黒に配色された装甲が、傾きかけた太陽の光を浴びてにぶく輝いている。
「霧島警部、第3班から報告入りました。固定用アンカーによる捕縛が完了したようです」
 特車隊実働指揮官、霧島郁巳警部は管制官からの報告を受け、軽く頷いてみせる。
「ふん、見えているよ…。3班はそのまま攻撃姿勢のまま待機だ。……しかしどこから嗅ぎつけて来たのやら。少々野次馬が過ぎるな」
「排除しましょうか?」
 霧島の不愉快そうな表情を察し、副官が声をかけた。
「ジャミングは準備しているな…なら問題ない。報道陣には我々の仕事振りをしっかり撮ってもらわねばならんからな」
 そして不適な微笑を浮かべ、手にしていたインカムを装備する。
「“天叢”を廻せ!装備は第2種兵装。私も出るぞ!」

http://www.dice-jp.com/ys-8bit/b-2unit/data.cgi?code=CA114 [ No.12 ]


【同時刻/第1班3号機コクピット】

Handle : “禍”日向 祀   Date : 2003/02/27(Thu) 18:28
Style : アラシ◎ カブトワリ マヤカシ●   Aj/Jender : 18/♀
Post : BH特車隊ヨコハマLU$T支部


……神経系接続状況開始。
……深度40…60…80…100…神経接続オールクリア。
起動シークエンス完了。

「…………っ」
  ゆっくりと、伏せていた視線を前方に向ける。モニターと同調した視界の中で、即座に機体周辺の状況がデータ化され、電脳に流れ込んでくる。周辺気温・湿 度・機体高度・目標までの相対距離・残弾数・残り稼働時間・目標の機体データ・自機の機体データ・etc。それらが瞬時に更新され続け、IANUSに流れ 込み続けてくる。
「……痛い」
「ん?…何か言ったか?」
 指揮車でその起動状況をモニターしていた管制官が、直通回線で異状を確認してくる。
「別に…。問題ありません」
 管制モニター上に異状は確認されていない。
「今回はそいつで後方待機しているだけでいい。気楽にいけ」
「……了解」
 
 眼下には、友軍機に包囲されている目標が確認された。

 [ No.13 ]


【ウォーカーATM襲撃事件・現場】

Handle : “叢”霧島 郁巳   Date : 2003/02/28(Fri) 03:03
Style : アラシ● カゼ イヌ◎   Aj/Jender : 27/♂
Post : BH特車隊ヨコハマLU$T支部


「搭乗者に命令する。速やかに機体から降車し、投降せよ。貴様は完全に包囲されている。無駄な抵抗はためにならんぞ」

 夕暮れも押し迫ったイセサキの街路に、特車隊の投降勧告が響き渡る。その駐車場1区画を遠巻きに包囲する濃紺の機体群の中央に、拘束アンカーを数箇所に打ち込まれ、最早まともに起動することすら危ういであろう犯人ウォーカーが頓挫していた。
「繰り返す。機体を捨て、ただちに投降せよ。…これは警告ではない、命令だ」
 冷静かつ冷徹な口調。犯人ウォーカーを眼下に見下ろし、指揮官機の機体紋を刻んだ機体が、悠然と浮遊している。霧島はその機体“天叢”のコクピットから、形式上の降伏勧告を行なっていた。
「うるせぇ!命令だと!このオレに指図するんじゃねぇ!!」
  外部音声が犯人の交戦意思を伝える。密閉型に違法改造されたコクピットブロックからは、その表情を図り知ることはできない。霧島は軽く吐息を漏らす。と同 時に、薄く微笑していた。 “天叢”を急降下させ、犯人ウォーカーの直上に着地する。強烈な負荷を受け、機体が金属音の悲鳴をあげた。
「あくまで投降する意思は無いようだな?このゴミクズが…」
霧島は“天叢”の上体を屈め、囁くように吐き捨てた。外部音声装置を介さない、ただの囁き。自分と、犯人にしか聞こえないであろう接触回線での会話である。
「てめぇ…!警官がこんな事していいと思ってんのかよ…っ!」
下から非難の声が聞こえてくるが、霧島は微笑のままそれを黙殺し、更なる負荷をかける。
「機体各所の違法改造。それと民間での運用が禁じられている兵装類の装備。さらに器物損壊と公務執行妨害。まぁ…これだけやらかしたんだ。10年はかたいだろうな…だが」
 霧島は、“天叢”が脚下に踏みつけている武装に視線を落とした。連装型60mmロケットランチャー。おそらく裏のルートから入手したであろう、違法物品。霧島は再び“天叢”の外部音声装置の電源を入れなおした。
「何だ?そのロケットランチャー、まだ管制が生きてるじゃないか!」
 “天叢”を急上昇させる。と同時に、犯人ウォーカーのスピーカーケーブルを引きちぎる。
「器物損壊および公務執行妨害、ならびにLU$T都市治安条例違反だ。この場で強制排除する!」
 “天叢”が右腕を真上に振りかざした。夕日を背に、黒い巨大な機影が犯人ウォーカーを覆い隠す。

「各機、砲撃許可」
 犯人ウォーカー周囲の空間が歪み、潜伏していたエクリプス部隊がその機体を出現させた。
 そして“天叢”が腕を振り下ろす。
「消えろ、ウジムシめ…」

 

 [ No.14 ]


遅れてきたテンサイ 【ウォーカーATM襲撃事件・現場、野次馬最前列】

Handle : “より良い未来[あした]を科学する”元部敦盛   Date : 2003/02/28(Fri) 19:00
Style : タタラ◎ カゼ ハイランダー●   Aj/Jender : 20代後半?/♂
Post : 高機動研究所 所長


 神業だった。交通規制とそれに伴う渋滞、取り巻きの如き野次馬やトーキーをかわし、最前列の一等席にリムジンは陣取っていた。出遅れていたのに、である。元部はそのリングサイドと呼べる一角からフロントウィンドウ越しに巨人たちの『舞台』を仰ぎ観ていた。
 特等席を確保し落ち着いたところで、肝心なことを思い出す。ニュースチャンネルのチェックだ。懐からポケットロンを取り出し、短縮キーで自宅兼店舗へコールする。
「ミディ、直ぐに……そう、それ。流石だ。じゃ、宜しく」
 ディスプレイの向こうでは、機転を利かせた少女が誉められた事に気を良くしていた。が、そんな彼女を他所に一方的に回線を切ると視線を戻し、片目の望遠機能を駆使して状況確認を始める。
  まあまあのシチュエーションか、そんな不穏当な思考が表情に出る。素人目にも明らかな戦力差なのだ、(この手の事柄に関しては)目の肥えた元部には少々物 足りないのも当然だろう。しかしそれ以上に何処か芝居臭さを感じ、違和感を覚えていた。八百長だとか出来レースだとか云うのではなく……。
「“見せ物”か」
 そんな詞が口を吐く。そして確信を誘う様に、実に高圧的な、それでいて絶対の自信に満ちた降伏勧告が響いた。次いで、それに呼応した罵声も。
「……ま、そんな事はどうでも良いか」

―――状況は、始まった。

 [ No.15 ]


【ウォーカーATM襲撃事件・現場:野次馬側最後列】

Handle : “人事部長”石目 夷吟   Date : 2003/03/03(Mon) 21:09
Style : エグゼク◎ カリスマ● クロマク   Aj/Jender : 46/♂
Post : イワサキ人事局


「酷いもんだな・・・」
ぽつりと石目は呟く。先の展開は丸分かりだし,全然エキサイティングでない。
「ま,こんなところでしょ。でもいいインスピレーションを与えてくれました・・・」
おもむろにポケットロンを取り出し,誰かにコールする。
「居ましたか。石目ですが,ある人物と連絡を取っていただきたいのです。・・・ええ,私が直にお会いしようと・・・。それは結構です。くれぐれも失礼がないように・・・。はい・・・はい・・・なるほど。で?・・・。
そのあたりは大丈夫ですよ。それと・・・そう♪その通りよろしくお願いしますね。」
 歩きながら,誰に聞かれてもおかしくない状況で大声で話す・・・もっともビルに木霊するウォーカーの駆動音で,特に盗聴しようとでもしない限り聞き取れないような状況ではあったが。
 そして,石目は通話を終えるとポケットロンを懐に滑り込ませリニア駅へと消えた。いつもの仕事用の笑みではなく,子供のような微笑を浮かべて。

 [ No.16 ]


【魔窟・一般ロビーにて】

Handle : “夢魔姫”ジャスリン・アトカーシャ   Date : 2003/03/03(Mon) 23:28
Style : アヤカシ● ミストレス◎ マヤカシ   Aj/Jender : 20/♀
Post : サロン・ドルファン


 現場のトーキー達が提供する生中継。
 そこに映るのはゴテゴテとした工業用ウォーカーを取り囲む、最新鋭の制圧用ウォーカー達。
「あれは…?」
「ATM荒らしですな……最近多いようですね。これほど大騒ぎになるのは珍しいですが」
 誰にいった問いでもないのだが、初老の紳士が答えてくれた。
 振り向いて一礼する。彼も会釈を返してくれる。
「LU$Tには初めてで?」
 彼はATMについて解説してくれた。
「…しかし、今回は運が悪かったようですね。彼らの逃走計画より、ブラックハウンドの方が一寸、手際が速い」
 画面の中では、工業用ウォーカーがじりじりと追いつめられていく。ブラックハウンドの的確にして冷徹な指揮。
 隊長機らしきウォーカーが、犯人ウォーカーに覆い被さった。
「もう終わりですよ」
 さして興味のなさそうな彼。きっと同じ様なニュースを何度か見ているのだろう。
 私は目を瞑り、…そして目を開いた。一瞬の暗闇に映るイメージは、<塔>。
「さて、どうでしょうか?」
 画面を見ながら私は言った。
「"鼠猫を咬む"いいますよ?」

 [ No.17 ]


【第1班3号機コクピット/任務完了】

Handle : “禍”日向 祀   Date : 2003/03/05(Wed) 18:59
Style : アラシ◎ カブトワリ マヤカシ●   Aj/Jender : 18/♀
Post : BH特車隊ヨコハマLU$T支部


 PM4:25。散開していた2班のエクリプス隊が、指揮車の秘守回線から集合命令を受け、目標の周囲に移動を開始する。1分後、目標の包囲を完了。熱光学迷彩による偽装効果は良好、目標は2班の存在に気づいていない。
 同刻30分。霧島警部が“天叢”で出撃、目標へ単独接近。以後、5分にわたり投降勧告を行なうも、交渉は決裂する。
 同刻36分。2班全機の待機命令が解除。後、目標への砲撃許可が下る。同分47秒。各機、砲撃開始。
 同刻38分05秒。砲撃終了。
 同刻39分。目標撃破を肉眼で確認。全部隊に待機命令。
 同刻40分。任務完了。

「3号機、記録任務完了。…帰投します」

 [ No.18 ]


【ウォーカーATM襲撃事件・現場:撤収】

Handle : “叢”霧島 郁巳   Date : 2003/03/06(Thu) 14:54
Style : アラシ● カゼ イヌ◎   Aj/Jender : 27/♂
Post : BH特車隊ヨコハマLU$T支部


 任務完了を受け、展開していた全部隊に撤収命令が下った。犯人ウォーカーは大破、至近距離からの一斉砲撃を受け、その場で爆発炎上。あらかじめ 出動、待機していた消防隊の消火ヘリによって、速やかに消火作業が行なわれている。犯人1名死亡(遺体は爆散)、被害にあったATM機器は中身ごと犯人と 共に燃えカスになっていた。
 懸命に作業を続ける消防隊と吹き上がる黒煙を背に、霧島は“天叢”をキャリアー上に着陸させた。トーキーたちがウォーカーキャリアーを取り囲む。
「記者会見は開くとお伝えしてあるはずだ。それまでは何もコメントはない」
 コクピットから降り立つなり、瞬く間にインタビューを引き出そうとトーキーたちが殺到する。霧島は一言だけそう発言すると、数人の隊員たちにガードされ、足早に指揮車のドアを目指した。
「かなり迅速な対応でしたが、何か情報があったのですか?」
「犯人の検挙にしては、明らかに過剰な対応だったのではないでしょうか?」
「今回の出動に対して何かコメントを」
 
「お疲れ様でした。後のことは支部の連中に任せておきましょう。彼らにも活躍の場を取っておかねばならないでしょうから」
 副官が労いの言葉をかける。霧島は軽く手をあげ、シートに腰を下ろした。
「記者会見の準備はどうか。“事後処理”に問題はないな」
「順調です。夜までにはすべて片付くでしょう。…見事な演技でしたよ、警部殿」
 副官の台詞に、霧島はわずかに口元をゆがめた。
「演技…か。くっく…そうだな。こうまでも戦力差があってはそう言うのもありか。だが、今回その“演技”を命令したのは本部だぞ?我々は脚本通りに動けば良い。…今はな」

 PM5:30。ヨコハマ特車隊全機、撤収完了。

 [ No.19 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/03/06(Thu) 22:47
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


 碧霞はいささか待ちくたびれていた。高い天井を支える大理石の柱に背を預け、通り過ぎていく華やかな人々をどこか違う世界の出来事のようにぼん やりと眺めている。碧霞に気付いた客が見せる好奇と憐れみの表情に曖昧な笑みを返しながら、碧霞は時間が過ぎるのをじっとこらえていた。

「ふぅ。」

 ため息を吐く。碧霞の待ち人が現れるまではもう少し時間がかかった。

 [ No.20 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : “ラプソディ4シスター”国東修二   Date : 2003/03/11(Tue) 22:37
Style : カブト◎ クグツ● ミストレス   Aj/Jender : 21/♂
Post : フリーランス/稲垣機関


 はぁ。ついていない。
 “ラプソディ4シスター”国東修二―21歳、華の独身―はため息をつき、ずれた眼鏡を正した。
 極彩色の街。アルコールと化粧と香水と、、、よく分からないたくさんの臭いを無理矢理綺麗に纏め上げた、そんな臭いの漂う繁華街を歩いていた、ただそれだけだった。
 別に自分は悪くない。
 ちょっと前方不注意だったと思うが、それでもよくあることだ。
 ただ、ぶつかってしまった人間はあまり素行がよろしくなく、慰謝料やその他諸々を請求されたため、断ろうとしたら路地に連れて行かれただけだ。
 まったく、ついていない。
 彼も。
 ちらりと先ほどまでいた路地を一瞥し、ちょっとだけ溜息。
 まぁ、お金は授業料だと思いましょう。
 先ほどより少しだけキャッシュの増えた財布をさすり、国東は心持早足に先を急いだ。
 ま、運がよければ、生きてるだろう。二度と会いたくないけど。

 ‥‥生きる、か。
 先ほどのレッガーではないが(まぁ、彼も生きてたことで人の役に立ってるのだ。今頃胸を張っているだろう)、そのことについて別に深く考えたことはない。
 自分は何のために日々を生きているのか、と問われればたぶん答えは一つ。分からないから、だ。
 だから色々と交わり、色々な問いかけを求め、色々なことを試してみる。
 興味を持てば近づくし、興味を失えばすぐに離れる。カブトと言う職業を選んだのもそんなものだ。興味があるうちは対象を守ることが出来る、ただそれだけのこと。

 だから、その女性を見たときも、ただ興味が沸いた、それだけのことだった。別にとって食おうと思ったわけでも、何かの足しにしようとしたわけでもない。
 先ほどの騒動でジェントリーについてしまった埃をぱっぱと払い、そして顔にいつもの微笑を浮かべる。
「こんにちは。こんな夜にお一人ですか?」
 稚拙な言葉。
 虚飾された笑顔。
 まぁ、最初はこんなもんだ。

 [ No.21 ]


【魔窟・エントランスロビー:Impression】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/03/13(Thu) 21:35
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


 しっかりした言葉遣いで碧霞に話し掛けてきた男性はスーツをきちんと着こなしていて、いかにもビジネスマンという恰好だった。ここでまでも仕事なのだろうかと漠然とした疑問を抱いた碧霞はあいかわらず曖昧な笑みを浮かべたまま返事をした。

「いえ。人を待っていますの。」

 碧霞の答えに男性が一瞬だけ落胆の表情を見せたが、次の瞬間には笑みが戻って碧霞の言葉を継いだ。

「人を待っているということは、“今”は一人なんですよね。」
「ええ。そういうことになりますわね。」
「では、待ち人が来るまでのあなたの時間を私も一緒に過ごしてもよろしいですか。」
「申し出は嬉しいのですが、今の私の時間は私がお待ちしている方のものですわ。どうか貴方はご自分でご自分の時間をお過ごしになってくださいませ。」

 やんわりとした断りの言葉に男性の顔が曇る。姉に諌められた弟のような、神妙にしているが不服そうな表情。碧霞の店を頻繁に訪れる学生にもこんな顔をする少年がいたことを思い出し、ついクスクスと笑みがこみ上げてきた。

「お名前は何と仰るの?」

 そう尋ねた碧霞の意識からは「待ちくたびれている」という気持ちが薄れていた。待ち人は依然として現われなかった。

 [ No.22 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : “ラプソディ4シスター”国東修二   Date : 2003/03/13(Thu) 22:32
Style : カブト◎ クグツ● ミストレス   Aj/Jender : 21/♂
Post : フリーランス/稲垣機関


「名前ですか?国東修二、と言います。“くに”は国家の国で、“さき”は東。それと、修正するに漢数字の二です」
 偽名ではなく、これだけは本当。
 虚飾の中の唯一の真実。嘘で塗り固められた核となる事実。
 さて、どうでるかな。
 微笑の仮面。その奥で瞳だけが対象を“観察”する。
 彼女は少しだけ、ほんの少しだけ警戒心を解いた表情が浮かんでいた。

 いつも相手にするチンピラや、企業の犬、そして、“奴ら”に対し、女性と言うものはその機微の全てが不可解。それ故に‥‥好きだ。
 理解できないものを理解したい、と言うタタラ的な探求欲があるわけでもない。ただ、自分にあるのは。
 まぁ、それは今は関係ない。
 とりあえず、今、自分が演じているのは彼女の美貌に興味を持った下賎な男だ。もっとも、彼女がそれに興味を持ったわけではないのは百も承知。
 何に興味を持ったのか。
 何が彼女の警戒を緩ませたのか。
 それをまず、知りたい。

 僅かに思考し、言葉を続ける。
「貴方の名前も教えていただけませんか?」
 少しだけ、片目をつぶった。

 [ No.23 ]


【イセサキ町:溝川の前にて】

Handle : “Sugary Dog”皆見 悠樹   Date : 2003/03/13(Thu) 22:46
Style : イヌ◎ チャクラ ミストレス●   Aj/Jender : 24/♂
Post : ブラックハウンド機動捜査課巡査


 ポチャリ。
 投げ入れられた石が水面に波紋を生じ、そして、音を立てて沈んでいく。
 それはすぐに極彩色の液体に溶け入るかのように、その姿を失っていった。
 ポチャリ。
 再び石が投入される。
 ポチャリ。
 ブラックハウンドの制服を着た人物は、その行為に飽きた様子もなく――もしくはただの惰性で、それを繰り返していた。

『しゅ、出向ですか?』
『ええ。皆見巡査。これからしばらくの間、LUSTに行ってくれる? これは正式な命令よ』
『あ、あの、冴子さん?』
『千早警部』
『ち、千早警部。なぜなんですか?』
『貴方の良い人生経験になる、そう判断したから。‥‥と言えば信じる?』

 そのやりとりがあったのはつい半刻前。
 それからLUSTまでのリニアに乗り‥‥イセサキ町についたまでは良かったが、そこまでだった。

「よし、後もう少ししたら行くぞ」
 愛用の六尺根を支えにし、立ち上がって。
 ‥‥再び、座り込む。
 駄目だった。
 足がどうにも動かない。

 どうして、自分なのか。
 他の誰でも良かったんじゃないか。
 何か悪いことでもしただろうか。
 自分のような小さな存在が何か大きな陰謀劇に巻き込まれたというわけでも無いだろうし。
 N◎VAという都市じゃなければイヌは出来ないと思っていたわけじゃないけど、理由が分からない異動は正直、不安にしかならない。

 再び、立ち上がり、また座り込む謎の屈伸運動。
 周りの小石を全て川に投げ込んでしまっても、その屈伸運動は終わらない。
 皆見 悠樹がその場を離れるのには、まだまだ時間が掛かりそうだった。

 [ No.24 ]


【路上:祭の後】

Handle : Mr.ジョンソン   Date : 2003/03/16(Sun) 15:05
Style : エキストラ   Aj/Jender : 50以上/♂
Post : スクワッター


「なんてこったい!」
 自称“元メガコーポ重役”の通称“Mr.ジョンソン”は荒れ果てた現場を見て嘆息した。
 彼の縄張りでも1,2を争ううまい食い物を入手できるゴミ置き場は綺麗に片付けられており,焼け焦げや機械臭があった。
「そういや昨晩はブラックハウンドが暴れたと言っていたが,まさかこことは・・・」
 一人が長いと自然と独り言が多くなる。Mr.ジョンソンも例外ではない。なにより今までうまい食い物を提供してくれた飲食店がしばらく休む(だろう)ことから受けた衝撃は大きかった。
「物乞いか,置き引きでもして,今夜はどっかに泊めてもらおうかい。」
 そしてとぼとぼと歩き出した。

 [ No.25 ]


【魔窟・エントランスロビー:Why】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/03/16(Sun) 18:09
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


「ユェン・ビーシアですわ。」

 名を告げた碧霞は国東の仕草に若干の違和感を感じていた。一瞬だけ見せたあの表情を考えると軽薄そうな仕草はかえって似合わない。国東の何がそうさせているのか興味を惹かれたが、碧霞はそれを押し止めて別の質問をしてみた。

「どうして私に声をおかけになったのですか?」

 菫色の瞳が国東の顔を見詰めていた。

 [ No.26 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : “ラプソディ4シスター”国東修二   Date : 2003/03/20(Thu) 19:53
Style : カブト◎ クグツ● ミストレス   Aj/Jender : 21/♂
Post : フリーランス/稲垣機関


「よく分かりません」
 好奇心を持ったから、と言えばあまり良い顔をしないだろう。街頭にいるカモを求めているマネキンならともかく、彼女はそんな気配は微塵にもない。
「ただ」
 ただ。
「‥‥なんとなく、似てたんですよ」
 そう、彼女は似ていた。
 会えない影を待つ姿が、だろうか。それとも、今感じているのはただの自嘲だろうか。
「だから、声を掛けてみたくなったんですよ」
 そして、出来るならもう少し話してみたい。
 そうだ、彼女はそっくりなのだ。
 この場で逃したいと思えないほど。ここで分かれれば必ず、惜しくなるほど。
「すみません。ちょっと失礼ですよね。でも、もしかしたらその人かも、‥‥と思ってしまうくらいに」
 菫色の瞳に訝しげな輝きが宿る。
 あるいは、ただの疑問。
 誰に似ているのか、考えているのか。
「声を掛けた理由はそれだけでしたけど、‥‥でも、少しだけ、もう少しだけ一緒にいたい、と思うんですよ。‥‥なんだか、ナンパしてるようなこと、言ってますね、僕」
 もともと、そんな台詞を羅列していたが、気にせず言葉を続ける。
「そうじゃない」との言葉に隠された「本当」。
 菫色が苦笑にゆれる。
 その様子もやはり、似ている。
 僕に。

「ですから、もう少し、ここにいてお話してても良いですか? 退屈しのぎくらいのお相手は出来ますよ」

 [ No.27 ]


【魔窟・エントランスロビー:Eyez】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/03/21(Fri) 16:58
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


「構いませんわ。」

 微笑とともにYesの答えを返すと、碧霞は体の一部のようになっていた大理石の列柱から背中を引き剥がして国東の目前まで近づいた。国東の言葉の裏に隠された思いを探そうと黒い瞳を覗き込む。

「同じ年頃の方と違って、思ったことをそのまま口になさらないんですね。」
「そうですか?いつもこんな感じなので気にしてませんでしたけど。」
「どうしてそう思ったんですか?」
「なんとなく、ですわ。」

 何気ない会話を装って国東の真意を掴もうとするが、満足できる答えは得られなかった。碧霞は方向を変えて再び国東に聞いてみた。

「貴方の本当の待ち人はこちらにいらっしゃるの?」

 国東の瞳がかすかに揺れた。

 [ No.28 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : “ラプソディ4シスター”国東修二   Date : 2003/03/27(Thu) 20:42
Style : カブト◎ クグツ● ミストレス   Aj/Jender : 21/♂
Post : フリーランス/稲垣機関


「貴方の本当の待ち人はこちらにいらっしゃるの?」

 受けた言葉に一瞬、体が硬直する。
 ほんの一瞬。体の硬直はすぐに治まる。
 体は。
 精神が受けた打撃は、抑えようにもなく。
 動揺を浮かべそうにゆれる瞳をまぶたで無理矢理押さえつけ、それを出来るだけ悟られないように前髪をいじることでカモフラージュ。
 何を待っているのだろう。
 誰を待っているのだろう。
 何故待っているのだろう。
 飛びそうになる思考。

「ずっと、待ってるんですよ」

 何故か、その声だけが出た。

「待って、待って、待ち飽きるくらい待って、それでも会うことが出来ずに、ただ、光が指し示すだけのしるべの通りにさまよって、偶然に出会うことに期待して」

 どうして、ここまでしゃべっているのか。
 似ている、と感じたからか。
 いや、もうそれはどうでもいい。

「もう半ば諦めていて、でも、かすかな希望があればそれにしがみついて。立ち止まっても立ち止まっても光は僕に追えと言ってきて」

 頭の中で何かが鳴り始める。
 うるさい。
 警鐘。
 黙れ。
 警告。

 一呼吸だけ、一呼吸だけおいて言葉を続ける。

「会いたかったんですよ。偶然でも何でも」

 これでいいんだろ?

「今日は、ついてます。貴方に会えた偶然とやらに感謝したい」

 菫色の瞳を見つめる。
 その中に映っているのは眼鏡を掛けた卑小な自分。

 馬鹿だ、僕は。
 だから。
 馬鹿は馬鹿なりの結末をたどればいい。
 好奇心、猫を殺す、か。

 苦笑。
 いや、自分に対する嘲笑なのかもしれなかった。

 そして。
「ええ、ずっと貴方を探してました」
 その顔に浮かんでいたのは、いつもの笑みで。

 両手は、無防備に近づいてきた細い体に回されていた。

 [ No.29 ]


【魔窟・エントランスロビー:Hold】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/04/03(Thu) 21:28
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


「あっ。」

 国東の突然の行動に碧霞が身体を固くする。だがそれは一瞬のことで、自分の身体に回された両腕から表情や言葉だけで はとらえることのできなかった国東の思いを感じとった碧霞は少しだけ微笑した。そして国東の手の甲を思い切り抓る。突然の痛みが国東の両手を引き戻させ た。自業自得ながら僅かに非難の表情を浮かべた国東に碧霞が尋ねた。

「痛かったかしら?」
「痛いに決まっているでしょう。こんなに腫れてしまって。」

 国東が赤くなった手の甲を碧霞に示した。しかし碧霞は手の甲には目を向けず国東の顔を真っ直ぐ見詰めたままだ。

「何ですか?」
「苦しいときも、『苦しい』と言ったほうが自然だと思いません?」

 国東の瞳が驚愕の色を湛える。両腕から力が失せ、彫像のように立ち尽くす。言葉を発しようとする国東の喉がからからに渇いて、上手く話すことができない。碧霞はそんな国東の背中を抱いて優しく微笑した。

「貴方は強い子ですわ。だからきっと、貴方が本当に捜している人を見つけることができますわ。」
「本当に、そう思いますか?」
「もちろんですわ。」

 かすれた声で尋ねる国東に碧霞が大きく頷いて答えた。

 [ No.30 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : “ラプソディ4シスター”国東修二   Date : 2003/04/15(Tue) 23:48
Style : カブト◎ クグツ● ミストレス   Aj/Jender : 21/♂
Post : フリーランス/稲垣機関


「見つかる、でしょうか」

 どうしてこう、内心を見透かされてしまうのだろう。
 赤くなった手の甲に息を吹きかけながら、ただ目を見開いて彼女を見つめる。

「でも‥‥」

 そういうのは嫌いじゃないが。
 でも、一応、断りは入れておこうと思う。

「子ども扱いをしないでくださいよ」

 ま、子供じみた我侭ばかりしてるから、そう思われてしかたないんだろうけど。
 降参の意思表示を上げ、そして言葉にする。

「なんだか、喉が渇きました」

 目線はまだ、彼女に向けられたままだった。
 

 [ No.31 ]


【ブラックハウンドヨコハマ支部にて】

Handle : “Sugary Dog”皆見 悠樹   Date : 2003/04/16(Wed) 18:52
Style : イヌ◎ チャクラ ミストレス●   Aj/Jender : 24/♂
Post : ブラックハウンド機動捜査課巡査


 それを聞いたとき、悠樹の思考は空白になった。 
 それを聞いたとき、教えてくれた同僚は嫌悪感をあらわに、そして嘲笑った。
 手が出るのは、自分が思っていたよりも早かった。
 同僚は吹き飛び、周りの机やら椅子やらががちゃりと派手な音を立て、散らばった。

「――嘘だ」

 あたりも気にせず、飛び出す。
 課長の注意も悠樹の耳に飛び込みはすれど、その動きをとめることは出来なかった。
 入り口で屈強な同僚に阻まれ、二人ほど殴り倒したところで体を掴まれ、地面にたたきつけられた。

 愛用の六尺根は悠樹の手に無く。
 あれば負ける気はしなかったのに。

 ただ、手を憧れの先輩がいた方向に伸ばし、大声で叫んだ。
 N◎VA。レッドエリア。
 牙の抜け落ちたと笑われていた、あの人のいた場所。

「嘘だっ! ゼロさんがっ!」

 頭を殴られ、気絶するまで、それを叫び続けた。


 結局、一週間の謹慎を喰らい、その話は終わる。
 ただ、それだけの話だった。

 [ No.32 ]


【魔窟:ントランスロビー】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/04/18(Fri) 01:56
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


「ではラウンジへ行きましょう。この時間では良い席は望めないでしょうけれど。」

 碧霞は国東にそう告げるとバッグからK-TAIを取り出し、いまだ現れない待ち人に宛てて伝言を残した。碧霞の待ち人は“会議中”とのことであった。
 エレベーターに向かって歩き出した碧霞を追って国東もついていく。

「いいんですか?」
「何がですの?」
「待ち合わせのことですよ。約束が反古になったわけではないのでしょう?」
「ええ。でも、貴方は心配なさらなくてよろしいのよ。誘ったのは私ですもの。」

 国東の「喉が渇きました」という言葉に対して碧霞が「ラウンジへ行きましょう」と言ったのだから、確かに碧霞の言ったとおりだった。
 ロビーの端にあるエレベータが開いて碧霞と国東を迎え入れる。碧霞のしなやかな指がパネルをすべり、行き先階のボタンを押した。

「それでも、私の待ち人が現れたときには仲裁を期待してもいいかしら?」
「余計こじれるかもしれませんよ。」

 笑いながら答える国東から演技はなくなっていた。碧霞は国東の様子に満足しながらも言葉には不服の意を表す。

「やっぱり待つことにしますわ。」

 そう言ってエレベータを降りようとした碧霞だったが、扉が閉まる直前に乗り込んできた恰幅の良い中年男性に遮られてしまった。扉が閉まり、上へと移動する。

「失礼。ひょっとして降りるおつもりでしたか?」
「いえ。そうではありませんわ。」

 碧霞に気づいた男性が髪の薄くなった頭をかきながら詫びると碧霞は何事も無かったかのように答えた。国東は笑いを押し殺しながら階数表示パネルを見上げていた。

 [ No.33 ]


[ Non Title ]

Handle : “抜け道屋”燕 ユウジ   Date : 2003/04/20(Sun) 18:57
Style : カゼ◎ レッガー ニューロ●   Aj/Jender : 18/♂
Post : フリーランス/抜け道屋


「ユウジじゃねぇか。久しぶりだな」

 商店街のゲームセンターから出てきたところを、派手なスーツに身を包んだ男に呼び止められた。ユウジは缶ジュースを口に運びながら、横目で声の主を確認した。

「何だ、リュウさんか…。お久しぶりっす」

 普通のサラリーマンなら、まず着ないであろう純白のスーツ(刺繍つき)に、極彩色のネクタイといった格好の、見るからにカタギの人ではない男……リュウと呼ばれた男は、親しげにユウジの肩を叩いた。

「聞いたぞユウジ、探偵始めたんだってな。将来は名探偵にでもなるつもりか?」
「探偵見習いですよ。将来のための修行って感じでね。…リュウさんの組こそ、例のATM荒らしの時は大変だったらしいじゃない」

 バンバン肩を叩かれてむせながら、ユウジも反撃を試みる。

「あぁ、ありゃホント大変だったな。組をあげて犯人探ししたからな。…まぁ、結局イヌにお宝ごと持ってかれちまったけどな」
「たしかATMの中身ごと燃やしちゃったんですっけ?あれって結局、救済処置なかったんですよね」
「所詮は個人経営の闇金融だからなぁ…。行政府が何とかしてくれる訳もないんだがな」

 リュウは胸ポケットから取り出したタバコを咥えて毒づいている。ユウジは使い捨てライターを投げてよこした。

「お、悪ぃな。…お前も吸うか?」
「遠慮しときますよ。これでも一応仕事中なんでね」
「何らしくないこと言ってんだよ(苦笑)。まぁ、いいさ。がんばれよ、ユウジ。何かあったら手ぇ貸すぜ」

 もう一度ユウジの肩を叩き、リュウはゲームセンターの中へ入っていった。

 [ No.34 ]


再開発計画と区画整備の現場にて

Handle : “抜け道屋”燕 ユウジ   Date : 2003/04/27(Sun) 20:01
Style : カゼ◎ レッガー ニューロ●   Aj/Jender : 18/♂
Post : フリーランス/探偵助手


『私有地につき立ち入り禁止』

 真新しい南京錠でロックされたフェンスに掛けられた看板には、『関係者以外進入禁止』の注意書きが表示されていた。まだ工事は始まっていないのか、フェンス越しに見える小さな公園とその周囲の古ぼけた集合住宅地に重機は入っていないようだった。

「…やれやれ。ここもかよ」

 偶然立ち寄ったのだが、ユウジは愛車を停め、フェンス越しの様子を眺めてため息をついた。これで3ヶ所だか4ヶ所目だったか。このところよく見かける状況だ。
 最近、この一帯の旧住宅地を中心に大規模な再開発計画が立案されたらしい。それによって、比較的建築年数のたった古い宅地が区画整備の対象に選ばれ、取り壊しが決定していた。古いアパート群が立ち並ぶこの集合団地はその見本の様なものだ。

(ガキの頃によく遊んだっけな…)

 遊ぶ者の誰もいない小さな公園。昔、ここに住んでいた友人とよく一緒に遊んでいたことを思い出していた。その友人が引っ越すと同時に、今まで来ることも無くなっていた。

(なくなる前に来てみて良かった…ってことかな)

 ふと浮かんだそんな思いに自嘲して、ユウジはその場所を後にした。

 [ No.35 ]


【魔窟:エントランスロビー】

Handle : “ラプソディ4シスター”国東修二   Date : 2003/06/09(Mon) 22:19
Style : カブト◎ クグツ● ミストレス   Aj/Jender : 21/♂
Post : フリーランス/稲垣機関


 実は、国東修二は酒には弱い。
 それを知る同僚はイーヴル・イーターぐらい入れればいいのに、と言うし、表の職業のクライアントは生身にこだわっていないのならば、と首をかしげる。
 別にこだわりがあるわけではない。
 趣味とか、めんどくさいと言うわけでもない。
 おそらく、自分でも分かっていない。
 だから、いつもの言葉を返すのだ。
「まぁ、なんとなく」
 と。

 と言うわけで。
 碧霞の隣に座り、一杯、度の弱いカクテルを流し込んだだけでその頬は朱に染まっていた。眼鏡の奥の瞳もとろんとしたものに変わり、視線の先はふらふらと漂っている。
 そのくせ、呂律だけは回っており、質が悪いことこの上ない。

「残念でしたね。やはりここしか開いていないようで」

 ちらりと視線を泳がすと、窓に面した席で沢山の男女ペアが愛を語り合っている。
 その先に見える景色。
 実はその景色は好きだった。
 眠らない町。彩られたネオンサイン。芥子粒ほどの人々が行き交い、時々ぶつかり、大きなうねりを作る。電飾装飾虚飾‥‥。
 反吐が出るほど愛している。
 自分にとっては全く価値がないからこそ、もっとも高価な営み達。

「で、先ほどの件ですけど」
「‥‥なにがですの?」
「仲裁の件ですよ」
「あ」

 単なる軽口だったため、気にもとめていなかったのか。
 碧霞が小さく呟き、微苦笑を浮かべる。

「出来る限りのことはしますよ。もっとも、相手がどこかの大企業の社長だったり、やくざの親分だったりしたら二の足を踏みますが」
「苦手なんですの?」
「僕には苦手なものが三つ、ありましてね」

 そう。
 軽い調子で言葉を続ける。
 久々のアルコールが口を軽くしていたのかもしれない。
 それとも、口を軽くしていたのはアルコールだけではないかもしれませんが。

「お化けと借金の取り立てと怒り狂う上司です」

 一瞬の沈黙。
 脳裏に浮かんだのは揺らめいて消える金にがめつい上司。

「‥‥嘘ですね」
「何故?」
「大企業の社長も、やくざの親分も出てきませんでしたわ」
「‥‥そう言えば」

 笑う。
 苦笑でも嘲笑でも冷笑でもなく、ただ単に。

 頭の隅で、どこかで上司がくしゃみをしていればいいな、と思った。
 ざまあみろ。

 [ No.36 ]


【魔窟:夜景を俯瞰するバーラウンジ】

Handle : 元碧霞   Date : 2003/06/29(Sun) 23:25
Style : ミストレス◎ カリスマ ハイランダー●   Aj/Jender : 24/♀
Post : 雑貨店店主


 街を覆う闇は極彩色の光に染められ、黒いビロードに宝石をばら撒いたような華麗さを見せていた。そんな明るい夜でさえ一度その中に身を置けば闇 の深さと光の乏しさをいやと言うほど感じさせるのであったが、1枚のガラスを隔てただけであるのにひどく幻想的で、また綺麗に見えるのだった。
 極度まで落とされた間接照明は愛を語る者たちの息遣いさえ映し出し、テーブルを這うように揺らめく小さなキャンドルが彼らの熱情を静かに焦がしていく。
 国東と元碧霞もまたその中にあった。
 グラスに付いた露が大きくなる頃、元碧霞が口を開いた。

「喉の渇きは癒えました?」

 [ No.37 ]


笹と短冊と幼い日のしょっぱい記憶

Handle : “抜け道屋”燕 ユウジ   Date : 2003/07/05(Sat) 19:03
Style : カゼ◎ レッガー ニューロ●   Aj/Jender : 18/♂
Post : フリーランス/探偵助手


「オーライ、オーライ!もーちょっと右に寄せて…そうOK!」

 ショッピングモールのメインストリートに乗り入れた作業用の軽 ウォーカーを誘導する声にも、気合が入る。2日後に控えた七夕用の一大イベントを前に今日、イセサキ中央ショッピングモールでは最後の飾りつけに取り掛 かっていた。搬入された膨大な量の「販促物」を取り付けるために、ユウジは朝から作業用ウォーカーの操縦にかり出されていた…。

  LU$Tリニアコープ「イセサキ駅」のターミナル広場から真南に伸びるメインストリートの上に、そのショッピングモールがある。いわゆる都市型複合商業施 設として建てられたこのモールには、地上3階地下1階のスペースに様々な業種職種の商店が軒を並べている。一番の特徴は、メインストリートを中心にして、 3階部分の天井までがすべて吹きぬけになっていることだろうか。その天井部分には巨大なスクリーンが敷き詰められ、季節ごとに様々な映像を映し出してい る。旧世代には、こうしたショッピングモールや地下道が多く存在したらしい。ここもそうした「昔ながらの」技術様式を演出として取り入れているのだ(もっ とも、映像技術は当時とは比較にならないほど進んだものになっているのだが)。
 
 「OKOKー!そいつで最後だユウちゃん!こっち持ってきてくれ!」
 
 組合長がユウジの軽ウォーカーを先導して声を張り上げる。ユウジは軽く了解すると、その最後の「販促物」…巨大な笹の木を搬入させた。

 「オジサンたちも今年はずいぶんガンバッたんじゃない?…これ天然モノだろ?」

 ユウジはマニュピレーターで固定したその巨大な笹の木を眺めながら、軽く苦笑する。聞いた話じゃ、今年の七夕イベントの目玉らしい。まぁ、予算はだいぶつぎ込んだらしいのだが。

 「まぁ…確かにちょっと高い買い物だったけどな。でもいいじゃねーか、七夕とくれば笹に短冊だろーよ」

 当日は近くの小学校や保育園、あるいは募集しておいた一般の住民たちから寄せられる短冊が、この笹に飾られることになっている。ユウジもそれ位の歳の時、同じようなことをした記憶があった。

 「ユウちゃんもどうだ?願い事かなうかもよ?」
 「よしてくれよ…今更もうそんな歳じゃないよオレは」

 その時に短冊に書いた恥ずかしい願い事を思い出して、ユウジは軽く口元をゆがめた…。

 [ No.38 ]


世界の中で、唯一君と

Handle : ”Judgement D”三笠 雅已   Date : 2003/08/12(Tue) 20:25
Style : トーキー◎ カリスマ● カブトワリ   Aj/Jender : 26/♂
Post : マリオネット/フリー


 喧噪に包まれた居酒屋。
 仕事帰りのクグツとか、非番のイヌとか、まぁ、ともかく、ストレスにまみれた人々が酒の力を借りて嫌なことを忘れる場所。気取ったバーなどのようにうまい酒があるわけでもないが、そこまで高くない。どちらかというと質より量の食事が主目的の場所かもしれない。
 雅已は義妹に酒を注がれながら、あたりを見回し、そんなことを考えていた。

「っとっとっと」

  コップからあふれそうになった合成清酒に口を付け、余裕が出来るくらいに喉に運ぶ。いくら合成酒だからといって、こぼすのはもったいなかった。それに、こ れはイワサキが生み出す天然物にも負けない、と言うキャッチコピーの一品だ。‥‥もっとも、天然物など飲んだこと無いが。

「しっかし、あれだね。雅兄ぃもこっちに来てたなんて」
「俺としてはお前がこちらに遊びに来てることの方が不思議だ」
「んー。かもね」

 すでに空になった容器はテーブルの端に積み上げられ。
 五本の空瓶は床に並んでいる。
 店員を呼べばすぐに片づけてもらえるだろうが、店が一段落するまでは放置する事に決めていた。

「仕事はどうしてる?」
「貧乏暇だらけ。‥‥慎兄ぃの様に定期収入があるわけじゃないし、雅兄ぃの様に大きな収入源を抱えている訳じゃないからね」
「‥‥ま、運が良かったからなぁ」
「雅兄ぃはそう言うのがうまかったもんね。昔から」

 昔。
 家も持たず、その日その日を何とかして生きていた時代。その日食べるものすら困っていたあのときから考えると、今は天と地の差だ。
 もっとも、自分は極端に成功した例で、目の前の義妹は普通に運が良かった例だ。そのまま野垂死んだ奴らだってごまんと居る。
 ‥‥今の金があれば、そいつらを助けることが出来ただろうか。

「‥‥雅兄ぃ」
「ん?」

 膨れ面。
 黄色人種にしては白い肌がアルコールで朱色に染まり、加えてそれを膨らませているため、頬のあたりは真っ赤に染まっている。
 義妹の表情は多彩だ。上の義兄の考えは良く分からなかったが、多分、この表情の多さにやられたのではないかと思う。だから、義妹に迎えた、と。

「‥‥空だよ」
「あ、すまんすまん」

 再びなみなみと注がれたコップに口を付け、逆に酒瓶をひったくり、義妹のコップにもなみなみと注ぎ返す。

「‥‥もーのめなーい」
「おごりだから飲め」
「無茶言わないでよ」

 悪態を付きながらも、コップに口を付ける。
 それの1/3が喉に入っていったところで、雅已はようやく、本題を切り出そうと自分のコップを飲み下す。
 義妹――雪の右手が酒瓶に伸び、それを左手で制した。

「もうギブアップ?」
「お前より先にしねーよ」
「ふぅん」
「それより、仕事の依頼だ。3シルバーまで出せる」
「1ゴールド」
「‥‥まけろ」
「お金持ちからは取る主義なの。最近、生活苦しくてさー。今日だってご飯のおごりがなければ、もう本気で真黄さん所にお世話になりに行こうかと」
「‥‥分かった分かった。1ゴールド、1ゴールド。それ以上は出せないぞ。経費も出ないだろうし」
「取材じゃないんだ」

 ちろりと伸びた舌が薄紅色の唇を舐める。
 好物を見つけたときの義妹の癖。
 いや、こいつは食べられるものが目の前にあればは何でも食べる主義だ。満腹でない限りは。

「うん。どーせ暇だからいいよ。で、何するの? 雅兄ぃだから企業絡みじゃないよね?」
「‥‥少なくとも、千早とイワサキじゃないな」

 二人の前では不文律の企業の名前を出し、そして雅已は苦笑じみた笑みを浮かべる。
 それが一瞬にして冷たい笑みに変貌した。

「‥‥了解。じゃあ、今晩雅兄ぃの部屋で聞くよ」

 雪は肩を竦め、そして。

「‥‥ところで雅兄ぃ、こっちのパフェ、注文していい?」
「‥‥報酬から抜いておくぞ」
「けち」

 先ほどまでの緊張感もなく、ただの義兄妹の会話がそこにあった。

 [ No.39 ]


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