[ shoot the MOVIE BBS Log / No.151〜No.200 ]あなたは、立ち止まる。 こんなところに、バーがあったかな……? 目の前の古びた看板には『shoot the MOVIE』。あなたは、小首を傾げながらも、重い扉を押して中に入る。 たまには、こういう寂びれた店で飲むのも悪くないだろう。 程よく薄暗い店内には、静けさを引き立てるようにピアノの音が流れていた。思っていたよりも中は広く、想像していたような物憂い雰囲気はない。 「いらっしゃいませ」 初老のバーテンダーが、メニューを差し出した。彼の黒いベストの銀の刺繍と豊かな白髪が、動きに添って柔らかく光った。 「リッツォ、いいですよ。続けてください」 バーテンダーの視線の先で、ピアノを弾いていた青年が、椅子に座りなおす。どうやら彼がボーイらしい。眉をぴょこんと持ち上げて、おどけた表情をして見せる。 あなたは、黒い革で覆われたメニューを開く。『風と共に去りぬ』『ライムライト』『道』『ベン・ハー』『サイコ』『ゴットファーザー』『スター・ウォーズ』『ブレードランナー』『レオン』『タイタニック』……。 「これは? どうやら、ハザード前の映画のようですが?」 あなたの問いに、バーテンダーは端正な顔を和ませた。 「おっしゃる通りです。ここでは、主に映画細工のカクテルを楽しんでいただいております」 「よーするに、映画のイメージのカクテル、てことですね。もちろん、それに載ってない映画でも大丈夫です。マスター、凝り性だから、なんでも作っちゃいますよ。何を差し上げましょう?」 リッツォと呼ばれた南欧系の青年が口を挟んだ。バーテンダーに目顔でたしなめられるが、こたえた風もない。 さて、あの映画はあるかな? そしてあなたは、メニューに指を滑らせ始める。 |
お礼
Handle : 高田あやめ Date : 2000/04/13(Thu) 15:13
Style : ミストレス=クロマク=タタラ Aj/Jender : 20代/女性
Post : 新星帝都大 研究員
扉が小さな音を立てる。そして、女性が静かに入ってきた。
「こんばんわ。以前は美味しいお酒をありがとうございました」
そして、バーテンと青年にそれぞれ小さく頭を下げる。
「すみません。リトル・ヴォイスいただけますか?」
彼の前の席に腰を下ろし、コートを脱ぎながら彼女はバーテンに告げた。
彼女は、大きな袋を抱えており、スツールに腰を下ろすと、それをゆっくり開けた。中は小さな包みが2つ………。大切そうにそれを取り出すと、彼女は、青年に声をかけた。
「すみません」
そして、近くによってきた彼に、その2つを渡す。そして、彼にそっと耳打ち。
「これ、もらって頂けますか? 片方は、お仕事が終わった後にでもバーテンダーさんにお願いいたします」
「別に深い意味はないんですけど……美味しいお酒とステキな時間を頂いたお礼です」
少し困った顔をする彼に、彼女も困った顔をする。そして、バーテンの方に視線を向けた。
「あの………もしかして、こういうのはあげちゃいけないんですか?」[ No.151 ]
ウェイク
Handle : 【フラットライン】 メレディー・ネスティス Date : 2000/04/14(Fri) 13:20
Style : ニューロ=ニューロ◎、ハイランダー● Aj/Jender : 22/Female
Post : フリー(LIMNET雇用契約凍結)
グリッドを駆ける風に、ふと彼女は目を覚ました。
暗い視野の前に広がるのは心落ち着く、見慣れた店内。腕に触れる暖かな木製のカウンターの柔らかさに、メレディーはほっとため息をつく。
ほんの数刻の間にのばせるだけ足をのばしてきた。
磁気嵐にうねる北米のセブン・フォートレスの抱えるWebの、氷のように冷えきったグリッドの感触に比べれば、彼女の座るカウンターのスツールとはまるで天と地程の差がある。
目の前のグラスを一口あおり、メレディーは自らの電脳にダウンロードした情報を愛しそうにスキャンする。やがて彼女の体に歓喜の波が伝わり、どれだけ深い場所に位置するネクサスから運ばれてきたコアの情報なのかを訴えようと震え伝わる。
立ち上がるべき時が来た。
銀色に輝く頂きに隠されてしまった、自らの内にある記憶の核をこじ開ける術を知る者に、何としても接触しなければならない。
これまで自分が知る以上の大きな闘争が繰り返されているという事を、彼女が触れた情報は静かに伝えた。
行かねばならない。
今彼女が持つこの情報を、何としてもその者に渡さなければならない。
メレディーはグラスを飲み干すと、カウンターの奥でグラスを磨くマスターへと軽く会釈する。
「また___________________帰ってきます」
一瞬の彼女のうちの戸惑いもすべて見えているかのように、彼は微笑む。
キャッシュを手元に置き、彼女は階段へと向かう。
ゆくべき先は_________________________中華街だ。
彼女の視野に重ねられたマップはそう伝える。
それは、ちょっとした事からの始まりだった。だが、今は誰もそれを知らない。http://www.dice-jp.com/ [ No.152 ]
徹夜明け
Handle : ”双気筒”岳郷 邪摩仁 Date : 2000/04/17(Mon) 06:39
Style : タタラ◎カゼ●カブトワリ Aj/Jender : 23/M
Post : 二輪メーカー 風防公司
店の表でバイクのエンジン音がする。Vツインの独特な音だ。
その音が止み、一人の男が店に入ってくる。
くたびれた皮ジャンパーをはおり、古臭いヘルメットとゴーグルをつけている。
「ここか。美弥子が言ってたとこは。」どことなく疲労感が漂っている。
「お邪魔させてもらうよ。」ヘルメットを脱ぎつつ男はカウンターに座る。
メニューにひととおり目を通し、そして閉じる。
「”王立宇宙軍 オネアミスの翼”できるか?」
バーテンダーに向かって少々挑戦的な笑みを浮かべつつ彼は言った。
http://www.geocoties.co.jp/Playtown-Toys/1745/ [ No.153 ]
十戒 (Re:預言者)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/04/17(Mon) 23:19
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ゴブレットに卵黄を入れ、潰す。ウォッカ、トマトジュース、タバスコ、ステラ(エジプトビール)をいれ、ステア。
「お待たせしました」
ビール発祥の地、エジプトを舞台に行われた、聖者の物語。そのカクテルは、不透明で生々しい朱を称えて自らを選んだものと対峙した。[ No.154 ]
リトル・ヴォイス (Re:お礼)
Handle : リッツォ・カッシーロ Date : 2000/04/20(Thu) 23:09
Style : カゼ◎ レッガー=レッガー● Aj/Jender : 25歳/男性
Post : shoot the MOVIE ボーイ兼ピアニスト
大仰に、しかつめらしい顔をして見せる。
「お客様がお喜びになって帰って下さったなら。それが、わたくしどもにとって何よりの報酬でございます。どうか、そのようなご心配はなさらないで下さい」
破顔一笑。
「な〜んて、マスターなら言うんでしょうがね。オレは、ご厚意は断らない主義なんですよ。アリガトウゴザイマス」
言いながら、彼女を櫻庭から隠す位置に移動する。
櫻庭は、目の前の客と談笑しながらも、手を休めない。
ホワイト・ラム、フレーズ・ド・ボア、フレッシュ・レモン・ジュース、グレナデン・シロップ、クラッシュドアイス。ブレンダーにかけ、カクテルグラスに注ぎ、イチゴを飾る。
手を伸ばして2つの包みを掴んだとき。青年の背後のカウンターにグラスが置かれた微かな音がした。青年の手が胸元をなでると、包みは消えている。
「お待たせしました」
何食わぬ顔で、リッツォはグラスを女性に差し出した。
涌き出る泉のように華やかな、サーモンピンクのシャーベット。そのキイチゴの香りは、一夜の成功で自分自身を取り戻した少女の歌声のように、小気味良く辺りを魅了した。[ No.155 ]
疲れ?
Handle : 高田あやめ Date : 2000/04/24(Mon) 23:08
Style : 舞貴人=多々良=黒幕 Aj/Jender : 20代/女性
Post : 研究員
青年の反応を見て、あやめはほっとした。
(良かった、喜んで頂けて………)
そして、カウンターに置かれたグラスにそっと口を付ける………。微かに酸っぱみのある木イチゴの味………。それは少し前までの懐かしさを思い出させてくれるような気がする。
(あたしにも、あんな風にほんとの自分は取り戻せるのかな?)
他の人との間で疲れている自分をつくづく感じてしまう………。
「極道の妻………か………。そんなお酒ってあるんですか?」
マスターに尋ねる。そして、彼の動きをじっと眺めながら………
「疲れる事ってないですか?」
思わずマスターに尋ねてしまう。[ No.156 ]
王立宇宙軍 オネアミスの翼 (Re:徹夜明け)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/04/24(Mon) 23:23
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
アメール。フレッシュ・グレープフルーツ・ジュースをティ・スプーン一杯。グレナデン・シロップを1ダッシュ。シェイクし、クラッシュド・アイスを詰めた大型のタンブラーに注ぐ。
「お待たせしました」
グラスの中には、天上の闇があった。アイスとグラスが接している箇所のみわずかに光を通し、外の光を受けて輝く。
誘うように、柑橘系の香りが微笑みかける。しかし、口にすると、大人になっても夢を見ることの代償か、天蓋のカクテルは苦い。しかし、その奥には甘味が隠されている。
アメールは薬草が溶け込んだリキュール。その薬効が彼の疲れを癒すことを祈りつつ、老バーテンダーはグラスを置いた。
[ No.157 ]
馬鹿騒ぎと大きな夢
Handle : ”双気筒”岳郷 邪摩仁 Date : 2000/04/27(Thu) 15:36
Style : タタラ◎カゼ●カブトワリ Aj/Jender : 23/M
Post : 風防公司
>「お待たせしました」
出されたのは夜空のようなカクテル。
「ふぅん…。」感心したそぶりでグラスを傾ける。
「!」口の中に広がる苦味。そしてその奥の甘味。
「…。」頭の中で何かがくるくるまわっているような感覚が邪摩仁をおそう。しかし、その中でなにかが溶け出してゆく。
「…なんだろうなぁ…この感覚…
そうか。研究明けの飲み会ん時か…。
なつかしぃなぁ…。」
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Toys/1745/ [ No.158 ]
Re:疲れ?
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/05/04(Thu) 23:06
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
> 「疲れる事ってないですか?」
銀髪の老人は微笑んだ。
「この位の年齢になりますと、疲れるほどの元気もございません。疲れるのは無理をしている証拠、そして、無理ができるのはお若い証拠でございます」[ No.159 ]
ここで一発…
Handle : ”双気筒”岳郷 邪摩仁 Date : 2000/05/07(Sun) 01:14
Style : タタラ◎カゼ●カブトワリ Aj/Jender : 23/M
Post : 二輪メーカー 風防公司
たった一杯のカクテルで酔いがまわったのか邪摩仁は椅子に座ったままふらふらしている。
「…はは…。くはは…。」どうやら笑い上戸のようである。
傍から見ればずいぶん奇妙な男に見えるだろう。
「なかなかいい気分だ…。もう一杯飲みたい気分だ…。
”ホットショット”頼むよ。」バーテンに語りかける。http://www.geocoties.co.jp/Playtown-Toys/1745/ [ No.160 ]
無理……?
Handle : 高田あやめ Date : 2000/05/11(Thu) 09:31
Style : ミストレス=クロマク=タタラ Aj/Jender : 内緒/女性
Post : 研究員
>「この位の年齢になりますと、疲れるほどの元気もございません。疲れるのは無理をしている証拠、そして、無理ができるのはお若い証拠でございます」
「そうなんでしょうかね………」
ポツリとつぶやき、はふぅぅ〜とため息を一つ。
無理をしている自覚はなかったのだが………疲れているということは、やはり自分の中でどこか無理をしていたのだろう。
では、一体何の為に…何の為に今まで自覚のないところでまで頑張ってきたのであろうか。
それはきっと………
かばんの中からコンパクトを取り出す。ホログラフの映像が浮かび上がり、それが動きまわるのをあやめは笑顔でじっと見つめていた。
それはきっと、大切な人達と一緒にいたいから………大切な人達を失いたくはないから………。
あやめは、コンパクトをたたみ、かばんに大切そうにしまう。そして、目の前にあったグラスをじっと見つめていた。もしかすると、その向こうに何か別なものを見ていたのかもしれない。
「ごちそうさまでした。また来ますね」
数分後…目の前にあったグラスは空になっていた。……あやめはにっこり笑って、カウンターを離れ、戸口までゆっくりと歩いて行く。
「あ………」
扉を開こうとした時、あやめは小さくつぶやいてカウンターのほうに小走りで掛けてきた。
「あの…ここ、子供とか連れてきても大丈夫かしら? 雰囲気的には安心していられるんだけど…」
とても心配そうに尋ねた後、あやめは再び扉の方をむいた。そして、ゆっくりと歩いて行き、扉の前でくるりと振り向いて、ぺこりと彼とピアノの側にいる青年に頭を下げた。
キィィ……パタン…
そして、扉が小さく音を立てた。
[ No.161 ]
ホットショット (Re:ここで一発…)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/05/17(Wed) 23:15
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
櫻庭は、若輩の酔い加減を確認した。
スイカ・ジュースにグレナデン・シロップ、メロン・シロップ。ウォーターメロン・リキュールとアマレットは抜いて、代わりにトニック・ウォーターで甘さを押さえる。シェイクし、クラッシュド・アイスを詰めたゴブレットに注ぐ。赤い蘭を飾り、ストローを2本添える。
「お待たせしました」
底抜けに明るい、なんの翳りもないドリンク。ふんだんに使われ磨きこまれた木々の呼吸が聞こえるような重厚なバーの中で、浮き上がっていた。[ No.162 ]
都市伝説
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/05/19(Fri) 18:28
Style : Hilander◎,Manikin○,Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
音もなく、扉が開いた。滑るように、一人の女性が中へ入ってくる。
カウンターの奥まった席に腰掛けると、彼女は肘をつき、祈るように両手を組みあわせて頭を垂れた。
……一体どれだけの間、私はこの街をさまよってきたのだろう。帰るべき家はどこにあるのだろうか。
それともそんな物は私には初めからなかったのかもしれない……
自分の思考に囚われてしまった彼女に、バーテンダーはかすかな一瞥を投げかけたかにみえたが、その動作は全く普段と変る様子はなかった。やがて、彼女は頭を上げると、ささやくような声で注文を口にした。
「『ノーライフキング』を……。 記憶にあるのは、それだけだから」
そういうと、再び先ほどの姿勢に戻り、オーダーしたカクテルの調製を待った。[ No.163 ]
馬鹿騒ぎの時間は…
Handle : ”双気筒”岳郷 邪摩仁 Date : 2000/05/23(Tue) 13:47
Aj/Jender : 23/M
Post : 風防公司
> 「お待たせしました」
明るい色の飲み物がカウンターに置かれる。
「お、来た来た。」邪摩仁はゴブレットを手に取り、ストローをくわえる。
どことなくなつかしさをかきたてるスイカの香り。
「ん〜!」心地よさそうに目を閉じる邪摩仁。眠ってしまうわけではなさそうだが。[ No.164 ]
ノーライフキング (Re:都市伝説)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/05/31(Wed) 23:05
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
バーボン、チョコレートシロップ、牛乳、バニラアイスクリーム、クラッシュド・アイス。ブレンドし、球形のビターチョコレートの入ったコリンズ・グラスに注ぐ。ミントを飾る。
「お待たせしました」
チョコレートシロップが、グラスに不可解な線を描き出す。口に含むと、アイスと氷が舌に奇怪な触感を残す。バーボンの苦味と、シロップやアイスの甘味が混じり合い、アジへの判断を迷わせる。
その迷いの果てに。あくまで苦く「リアルな」チョコレートが待ちうけていた。[ No.165 ]
その傍らには
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/06/05(Mon) 12:48
Style : Hilander◎、Manikin●、Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
>「お待たせしました」
彼女は顔を上げ、目の前に置かれた茶色のカクテルを見つめた。細長いグラスを取り上げて口へ運ぶ。
バーボン特有の焦げた木の香りは、牛乳とバニラアイスに柔らかく包まれていたが、その本質までは隠せない。
苦味と甘味、そして喉を灼くアルコール。彼女は少しずつそれを味わった。
ノーライフキング――生命なき者の王。噂の中でだけ囁かれるその名。定命の人間ではありえないその名の持ち主に、
彼女は想いを馳せる。畏怖と、何故か湧きおこる慕わしさとともに。
目を閉じると、ひとつの情景が脳裏をよぎった。
霧に覆われた森の彼方の国。月光に照らされて佇む、古風なローブを身にまとった美貌の男。
そして、その傍らにいるのは――
だが、一瞬の幻視はそこで途絶えてしまった。ふたたび霧に覆われ、消え去ってゆく。
ため息をついて、グラスの残りを干す。
最後に残ったチョコレートは、彼女のやるせない想いを受けとめて苦かった。
[ No.166 ]
夜を越えて
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/06/05(Mon) 12:56
Style : Hilander◎、Manikin●、Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
空になったグラスを見つつ、彼女は思う。今夜はここで過ごそう。本当に帰るべき処など判らないのだ。
夜が明ければ――その先は考えたくなかった。仮の棲み家に戻ったとて、誰も彼女を待ってはいない。
そんな現実より今は、この時間を満たす一杯が欲しかった。
メニューを繰り、古今東西の映画のタイトルを眺める。どれも彼女の記憶にはないものだ。
しかしその中で、ひとつの題名が心をとらえた。
「スタンド・バイ・ミー」。
映画の内容は知らないけれど、どことなく寂寥を感じさせる題名だった。オーダーを口にする。
「あの、このカクテル『スタンド・バイ・ミー』、お願いします。
えと、この映画ってどんなお話なんですか?」
[ No.167 ]
スタンド・バイ・ミー (Re:夜を越えて)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/06/13(Tue) 23:23
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「スタンド・バイ・ミーでございますね」
ボーイが『スタンド・バイ・ミー』をピアノで奏ではじめる。そのメロディにあわせ、櫻庭は語り始めた。
「あれは…そう、この世にまだ「少年」というものがいた時代の話でございます。
流行作家ゴーディが、新聞で弁護士が殺されたことを知るところから、物語が始まります。彼は思い出します。弁護士となったクリスをリーダーに、いつも4人で遊んでいた、12歳の夏の日のことを……」
老マスターは、何かを懐かしむように微笑んだ。その笑みの中で、カクテルができあがり女性の前に現れる。
アップル・クラブ(アップル・リキュール)、アップル・ジュースをシェイク。氷入りのゴブレットに注ぐ。ソーダを注ぎ、軽くステア。ダーク・ラムをフロート。リンゴを飾り、ストローを添える。
グラスの中を上に昇るほどに、淡黄から橙に色が深くなっていく。それは、思い出を呼び覚ます黄昏か。それとも、郷愁の橙の帳を抜け、ゴーディが見た輝ける少年時代か。甘酸っぱく、幽かな苦味が哀しい。
「彼らは、行方不明になった少年の死体を見つけ、ヒーローになるために、森の奥に旅立ちます。たった2日間だけの、小さな、しかしかれらにとっては大きな冒険の物語です。
この夏が終われば、皆、ばらばらの将来に向けて歩いていく。そんな少年達の動き、悩み、そして、友情を描いた、珠玉の名作ですが……。
この映画で語られるように『何にも増して重要だと思う物事は、何にもまして口に出して言いにくいものだ。』 どうぞ、まず、御覧になってください」
そのグラスの横に、名刺大のカードが置かれた。黒地に銀の飾り文字で『オールド・シネマ・パラダイス』とある。
「この店では、昼間、予約制で厄災前の映画を鑑賞する会を開催しております。よろしければ、いらしてください。お待ちしております」[ No.168 ]
エリザベス
Handle : “法皇”和知 真比人 Date : 2000/06/16(Fri) 23:43
Style : 黒幕◎、狩魔●、拝乱駄 Aj/Jender : 49/M
Post : 元イワサキ人事局局長
「・・・ふむ」
初老の男は軌道人特有の痩せた体系をしていた。
そして、あたかも店内には自分とバーテンダーしかいないかのような不遜な身のこなしをしていた。
「・・・エリザベス」
そう、彼は告げた。[ No.169 ]
いけね!
Handle : ”双気筒”岳郷 邪摩仁 Date : 2000/06/20(Tue) 14:42
Style : タタラ◎カゼ●カブトワリ Aj/Jender : 23/M
Post : 風防公司
邪摩仁はふと壁の時計に目をやる。彼が来てからだいぶ時間が
経っている。
「っとっとっと。もうこんな時間か。最後にいっぱい頼むかな。”ショート・サーキット”を。」
幼い頃、珍しく父親が家にいた日。一緒に見た記憶がよみがえる。
「あれが…原点だったんだろうな…。」
彼自身が創りあげ、後に”甲殻”となったマシンに思いをはせる。[ No.170 ]
時の狭間で
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/06/27(Tue) 21:15
Style : Hilander◎、Manikin●、Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
老マスターの解説を聞くうちに、憂いを帯びたその表情が和らいでいくのを彼女は自覚した。
柔らかく微笑んで、「オールド・シネマ・パラダイス」の名刺を手にとると、自分に言い聞かせるように呟いた。
「そうですね・・・ぜひ、いつか・・・」
そして、ふと思う。
・・・この前に笑ったのはいつだっただろう? こうやって人が話すのを聞いたのは? 誰かと・・・
・・・やめよう。今はこの時を楽しめばいいのだから。それ以外、すべきことは無いのだから。
店内に流れるピアノの音を聴きつつ、彼女はゴブレットを傾けた。
リンゴの甘酸っぱさが、爽やかな炭酸と共に喉を滑り落ちる。
ダーク・ラムの香りがそれを追いかけ、穏やかに包み込んでいった。[ No.171 ]
エリザベス
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/06/27(Tue) 23:15
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
オールド・モンク、ドランブイ。シェイクし、氷を入れたグラスに注ぐ。キャッスルメイン・スタウトで満たす。薔薇を一輪飾る。
「お待たせしました」
厄災前、イギリスの植民地となったこともあるインドと呼ばれた国で作られたダーク・ラム、オールド・モンクの熟成された重厚な味。同じく植民地とされ、その風味にイギリスの影響を残すオーストラリアのスタウトの苦味。ドランブイの量を間違えれば、暗澹たる味覚の権力闘争が始まっただろう。
カクテルは、グラスの中で、インド人の監督が、オーストラリア人の女優を用いて描き出した”大英帝国”を再現していた。[ No.172 ]
[ Non Title ]
Handle : “法皇”和知 真比人 Date : 2000/06/30(Fri) 23:27
Style : 黒幕◎、狩魔●、拝乱駄 Aj/Jender : 49/M
Post : 元イワサキ人事局局長
男は“エリザベス”に口をつけた。
男自身のハンドルと相対する名をあえてカクテルのテーマに
したのは、彼なりの美学に基づくものだった。
だから、バーテンダーの機知に対する感嘆もまた、表に出すことはしなかった。それが彼の流儀だから。
当然、さも当然という表情でそれを飲み干すと、そこではじめて男は他の客を自らの興味の対象とした。
そして、ある客を見ると、やや満足そうな、それでいて寂しげな微妙な、東洋的な表情をした。
そして、男はふたたびバーテンダーに告げた。
「“海の上のピアニスト”を。全ての過ぎさりし幻影を称えて、かな」[ No.173 ]
ショート・サーキット (Re:いけね!)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/07/07(Fri) 23:13
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ウォッカ、ホワイト・ラム、ドライ・シェリー、ライム・ジュース。ステアし、丸底のカクテル・グラスに注ぐ。
「お待たせしました」
組み合わせることの少ないラムとシェリーという名の回路が、火酒(ウォッカ)によって短絡(ショート・サーキット)を起こしている。それは、人間味という新しい美味をインプットされたスピリット。[ No.174 ]
海の上のピアニスト
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/07/11(Tue) 23:02
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ディタ、マリー・ブリザール・ブルー・キュラソーを軽くステア。アラザンでスノー・スタイルにしたグラスに注ぐ。トニックウォーターで満たす。
「お待たせしました」
煌く小さな星々をエッジにまとったカクテルグラスは、細かい彫りで彩られ、強く握ると砕けて周りに光のかけらを振りまきそうだ。ガラスに切り取られた三角の空間の中は、深海の深い青から遠浅の砂浜までのグラデーション。
瀟洒で甘美な香りが、一種魔術的な味わいを呼び起こす。
戸籍もない、存在しない人間。船から下りることよりも、人生から降りることを選んだ。ピアニストとして美の神の寵愛を受けた天才。ナインティーン・ハンドレッド。
彼の人生を語るマックスの話は、実話と創作の間を大きく揺れながら進んでいく。しかし、この物語が現実であろうと虚構であろうと、聞き手は癒され続ける。[ No.175 ]
ニュルンベルクの卵
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/07/14(Fri) 17:53
Style : Hilander◎、Manikin●、Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
最後の一口をゆっくりと飲み干し、彼女はストローから唇を離した。その余韻を味わいつつ、他の客に視線を投げる。
そういえば、今何時ぐらいなのだろう? 隣の青年は時間を少し気にしていたけれど。
と、誰かが呼んでいるような声が遠く聞こえた。
それは、過ぎ去った夏の思い出を封じ込めたそのカクテルがもたらした奇跡だったのかもしれない。
少年たちの声が耳元でささやく。
――今、何時?
――3時。人がいちばん死ぬ時間だ…
――卵は世界だ
――生まれようと欲するものは、ひとつの世界を破壊しなければならない
その声が記憶を導いたのだろうか。彼女は言葉を紡いだ。
「『1999年の夏休み』……そんな映画、ありますか? 私の記憶が確かなら、少年たちの物語なんです。
いま、話してくださった『スタンド・バイ・ミー』のように。でも、なぜこの映画が……
もしご存知でしたら、お願いできますか?」
老マスターのいらえを聞いたのち、ハンドバッグから卵型の懐中時計を取り出し、眺める。
12時少し前で止まっているそれは、彼女の失われた時を象徴しているかにみえた。[ No.176 ]
1999年の夏休み (Re:ニュルンベルクの卵)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/07/25(Tue) 23:03
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ボーイが、ベートーヴェン作曲ピアノ三重奏曲”大公”を奏ではじめる。
「3人で弾けないのが、残念」
首を巡らせて、彼女にウインクしてみせる。
その間にも、バーテンダーの手は静かに動く。
ドライ・ジン、ウォッカ、クリーム・ド・ミント、レモン・ジュース。ステアし、飾り気のない、凍りついた薄手のグラスに注ぐ。パール・オニオンを沈める。
「お待たせしました」
今にもおれそうな細い足で立つ、砕けそうな小さなグラス。底のオニオンが揺らぎ、透明なカクテルに輝きを増す。少女が少年を演じることにより、性の濁りを消して幻想性を増したこの映画のために。[ No.177 ]
Re:ショート・サーキット (Re:いけね!)
Handle : ”双気筒”岳郷 邪摩仁 Date : 2000/07/28(Fri) 04:16
Style : タタラ◎カゼ●カブトワリ Aj/Jender : 23/M
Post : 風防公司
> 「お待たせしました」
「ん。どうも。」邪摩仁は一言いうとグラスを手に取り半分ほどを一気に流し込む。
「!!」軽いショック。
「まさに”ショート・サーキット”だ。」邪摩仁は軽く笑う。
しばらく邪摩仁は一口、また一口とカクテルを楽しみ、やがて席を立った。
「ごちそうさん。」少し多めに支払いを済ませ、邪摩仁はドアを開ける。[ No.178 ]
夏への扉
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/08/02(Wed) 15:57
Style : Hilander◎、Manikin●、Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
店内に流れ出した"災厄"以前のピアノ曲。その旋律にどこか懐かしさを感じ、振り向いた彼女とピアニストの青年の目が合った。
>「3人で弾けないのが、残念」
ウインクにふふ、と微笑み返す。旧い型の懐中時計をしまってカウンターに向きなおると、丁度そこへカクテルが置かれた。
凍りついた華奢な三角形のグラス。光を反射して輝く透明な液体の中には、純白のオニオンが沈んでいる。
時間と共に失われるその煌きを惜しむように、彼女はグラスを手にとり、唇をつける。
氷点下にまで冷やされたそのカクテルは、高原の冷涼な風を思わせる香りと爽やかさを伴っていた。
レモンやミント、様々なハーブの香りが広がる。そして、かすかな甘味と酸味。
飲み干すと、強めのアルコールが体の中で熱を放ち始める。
今では存在しない、その季節へ通じる扉が開いた。[ No.179 ]
鳥は、卵から抜け出ようと戦う
Handle : 神羅 夕 Date : 2000/09/13(Wed) 13:11
Style : Hilander◎、Manikin●、Ayakashi Aj/Jender : 不明/女性
Post : 記憶喪失
遠い夏の記憶がよみがえる・・・
いつ、どこなのかも判らない、けれどその陽射しだけははっきりと覚えている夏。
朝靄につつまれた森。夕映えに光る川。一日中、一緒に遊んだ友達。
暖かい、優しい記憶だった。彼女の身体を満たす酔いのように、穏かでいて確かな存在感のある感覚だった。
この日々が永遠に続くようにと願っていた頃。
しかし――
どんな季節にも、やがて終わりは訪れる。永遠を願ったあの夏にさえ、遂には輝きの消え去る日が来るのだ。
――生まれようと欲するものは、ひとつの世界を破壊しなければならない
だがそれは、新しい生への移行ではないか? 次の物語が始まるための終末ではないか?
どこからかそう語りかける声があった。
一瞬、声の主をカウンターの中に佇む老マスターに求め、そうではないと知って目を伏せる。
そして彼女は、歩み出す時が来たことを知った。
「・・・そろそろ、行きます。大事なものを探し出すために。私の記憶を・・・ありがとう」
彼女は満ち足りた表情で席を立つと、クレッド・クリスを提示した。口座には、匿名の振込みが定期的に続いている。
今では相当な額になっているはずだった。無造作にそれを財布に戻し、『オールド・シネマ・パラダイス』の名刺を大切にしまいこんだ。
扉の前で振り向いて優雅に一礼した後、彼女は店を出る。
カウンターに残されたグラスの中では、パール・オニオンが白く光っていた。[ No.180 ]
[ Non Title ]
Handle : ”クロスファイア”アリオス・ガルシア Date : 2000/09/20(Wed) 23:44
Style : カブキ◎● カブトワリ=カブトワリ Aj/Jender : 27/M
Post : 流離のヒーロー
「こう言っちゃなンだが……本当に在ったとはねぇ」
男はスパニッシュギターの弦を合わせながら、そう呟いた。
「と、おっしゃいますと?」
バーテンダーが僅かに首をかしげる。
男はあはは、と笑った。
「いやなに、俺の仲間内では一種の…都市伝説みたいに言われてたもんでな」
軽くギターをかき鳴らすと、男は満足げに頷く。
「よし。じゃあ、『シックス・ストリングス・サムライ』をもらおうかな」[ No.181 ]
・・・沈黙・・・
Handle : “法皇”和知真比人 Date : 2000/09/23(Sat) 02:18
Style : 黒幕◎,狩魔●,拝乱駄 Aj/Jender : 49/♂
Post : 隠居
真比人は古びた懐中時計を懐から取り出し,時間を確認する。
『海の上のピアニスト』は既に空けていた。
(歳かな・・・?)
真比人は軽い酔いを覚えていた,若い頃の彼ならほとんど酔うことすらないほどの分量だったが。
“背骨”に流れ込む“腹心”からのLU$Tの現況は,思いのほか停滞していた。
(もう少し,長居をせねばな・・・。)
真比人はぼんやりと帰る女性と新たな客・・・男性を見ていた。[ No.182 ]
シックス・ストリングス・サムライ
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/09/23(Sat) 23:52
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ワーム(虫入りテキーラ)、コーラを軽くステア。レモン・ウォッカを数ダッシュ。
「おまたせしました。こちらはテキーラの原料竜舌蘭につくワームです。かじりながらお召し上がりください」
ヒーローの前に、ごつごつした土のぐい飲みが置かれた。そして、その隣に紐状の赤い虫グサーノが添えられる。その殺伐とした有様は『マッドマックス』や『子連れ狼』を彷彿とさせる。
しかし、カクテルを持ち上げると、軽やかなレモンの香り。口に含むと、素朴で癖の強いテキーラと、刺激的なコーラの個性をレモンがなんとか結び合わせようとしている。
八方破れで陽気なカクテルの向こうで、若いボーイがこちらに横目で笑いかけながら、すべるような足取りを作って進んでいく。どうやら、「都市伝説」を演出しているようだ。[ No.183 ]
[ Non Title ]
Handle : ”クロスファイア”アリオス・ガルシア Date : 2000/09/28(Thu) 11:14
Style : カブキ◎● カブトワリ=カブトワリ Aj/Jender : 27/M
Post : 流離のヒーロー
「……グレート!久々に故郷を思い出したぜ」
ワームと共にカクテルをほすと、白い歯を光らせて男は微笑む。
「ロックの神に感謝しなきゃな。今夜のオレはツイてるみたいだ」
代金を置くと、男は席をたった。
「ありがとよ、いい夢見させてもらったぜ」
ギターを背負う。
その男の後ろ姿は、まさに”サムライ”そのものだった。[ No.184 ]
薔薇の名前
Handle : "オールド・トム"トーマス・コリンズ Date : 2000/10/03(Tue) 19:04
Style : フェイト=フェイト◎、イヌ● Aj/Jender : 26歳/男性
Post : トーマス&ジョナサン探偵社
「ここか・・・親父のよく行っていた店ってのは・・・」
青年が『shoot the MOVIE』の扉の前で立ちつくしている。入ろうかどうしようか、迷っている表情だ。
今しがた出てきた客を見送り、意を決してドアを押し開けた。足元が分かる程度、適度な暗さの店内には先客が二、三人。
よく磨きこまれたカウンターの奥にいるマスターの動きには無駄がなく、熟練の技をうかがわせた。
ボーイが陽気に笑いかけるのを見て、思わず笑みがこぼれた。
父親が足しげく通っていたバー。
「いつか連れて行ってやる」という約束は、ついに果たされることはなかった。
いや、それは自分で探し出させるための方便だったのかもしれない。
(LU$Tにあったのか・・・道理で見つからなかったわけだ。まったく、時々はN◎VAからも出なきゃな)
そんなことを思いながら、カウンターの椅子に腰掛けた。差し出されたメニューを見ずとも、そのカクテルがあることは聞いていた。
「マスター、『アメリカン・ビューティ』を。そう・・・酒と女を愛しすぎた、ある男のために」
常に自分の美学を持ち、それに殉じていった父の姿をふと、目の前の人物に重ねつつ注文を告げた。[ No.185 ]
哀れなる英国人
Handle : “法皇”和知真比人 Date : 2000/10/14(Sat) 09:34
Style : 黒幕◎,狩魔●,拝乱駄 Aj/Jender : 49/♂
Post : 隠居
(また,一人の客が店を訪れた・・・。)
真比人はぼんやりとその客を観察していた。
(若い男・・・フェイトだろうか?)
目当ての客はまだ来そうにはない。
ポケットロンも沈黙したままだ。
真比人は次を頼むことにした。古風な懐中時計・・・今は亡き妻が彼に送ったものだ・・・で時間を確認する。
「“レジェンド・オブ・スリーピーホロウ”を頼めるかね?」
・・・約束の時はまだだ。[ No.186 ]
アメリカン・ビューティ (Re:薔薇の名前)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/10/16(Mon) 23:04
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
……。なるほど、あの方の。『サンセット大通り』を愛したあの方の、ご令息。確かに、血は受け継がれているようですな。
老マスターはひっそりと微笑んだ。
オールド・ファッションド・グラスにヨーグルトと氷を入れる。クリーム・ド・フランボワーズ、ローザ・ディ・トスカーナ(イタリアの粕取りブランデー、グラッパ)を注ぐ。マドラーを添え、供する。
「おまたせしました」
乳白のヨーグルトの上に、鬱屈した欲望のように紅い液体が、とろりと満ちている。グラッパの薔薇の香りが、むせ返るように立ち込める。
一見して過不足なく美しいこのカクテルは、マドラーの動きの余波で混乱に落ちていく。
わずかな間、奥のドアから姿を消した櫻庭が、何かを手にして再び青年の前に現れた。
「こちらは、お父様からお預かりしていたものです。あなた様が独りでいらっしゃったならば、お渡しするように、と」[ No.187 ]
25回目に…
Handle : ”ノースロップ” Date : 2000/10/24(Tue) 02:31
Style : カゼ◎アラシ●カブトワリ Aj/Jender : 30代後半?/男
Post : フリーランス
「…お邪魔するよ。」
ドアを開けて一人の男が入って来る。
革ジャンパーにゴーグル。どうやらパイロットのようだが、
彼の頭は灰色のロップイヤーのウサギであった。
彼はカウンターにつくとメニューに目を通し、こう注文した。
「”メンフィス・ベル”を。」[ No.188 ]
スリーピーホロウ (Re:哀れなる英国人)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/10/31(Tue) 23:28
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ウォッカ、フランボワーズ、レモン・ジュース。ブレンドし、スライスした苺入りのグラスに注ぐ。
「おまたせしました」
深い赤の苺が浮かぶ薄紅の液体が、暗がりの中から現れる。グラスの足に刻まれた細波が、紅の照り返しを受けてぼんやりと光を放つ。
しかし、その口当たりは軽く、舌に甘い。
厄災前の鬼才バートンが、陰鬱な話を気楽にあっさりと、極上の幻想世界として作り上げたように。[ No.189 ]
二つのスリーピーホロウ
Handle : “法皇”和知真比人 Date : 2000/11/02(Thu) 20:34
Style : 黒幕◎,狩魔●,拝乱駄 Aj/Jender : 49/♂
Post : 隠居
「・・・?」
出されたカクテルは真比人の予想したものよりも洗練されたものであった。
(ピエール・ギャング監督の底抜け間抜け怪談でもこんな風に美しく創作するとは・・・少し気取りすぎだな)
とそこまで考えて苦笑する。
(気取っているのはだれなんだか・・・他ならぬ私ではないのか)
「身のほど知らずの愚かなイカボットに・・・純朴故に残酷な村人に・・・,乾杯」
真比人はそう呟くとカクテルに口をつけた。
そして軽く目を閉じ,物思いにふける・・・。[ No.190 ]
柔らかな花弁
Handle : “オールド・トム”トーマス・コリンズ Date : 2000/11/07(Tue) 21:07
Style : フェイト=フェイト◎、イヌ● Aj/Jender : 26歳/男性
Post : トーマス&ジョナサン探偵社
注文を受けた老マスターが棚から選び取った瓶を見て、青年の顔にわずかな困惑の色が浮かぶ。
(これは・・・オリジナルレシピ、か)
新たに生み出されたその作品は、一体どんな色合いを見せるのだろう。
青年の期待と不安をよそに老マスターの手はよどみなく動き、彼の前に二層の色彩を持つカクテルが現れた。
気品ある薔薇の香りと、いきいきとしたキイチゴの匂い。
マドラーで攪拌すると、ヨーグルトの中にそれらが溶け込んでいった。紅と白がマーブル模様になり、やがて均一な薄桃色に変わる。
それは崩壊の後に訪れる空白にも似て停滞し、だが口に含むと、きめ細やかな肌を思わせる官能的な感触が広がってゆく。
グラスの半ば程を空けたとき、彼は老マスターが何かに見覚えのある物を手にしているのを認めた。
(何だろう・・・ずいぶん前に一度だけ、見たような・・・親父の遺品、だろうか?)[ No.191 ]
メンフィス・ベル (Re:25回目に…)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2000/11/18(Sat) 23:17
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ミキシンググラスにロゼベルモット、ブルーキュラソーを入れ、ステア。クラッシュド・アイスを詰めたタンブラーに、レモン・ジュース、シュガー・シロップを加える。トニック・ウォーターで満たし、ステア。スプーンを伝わらせ、右にグレナデン・シロップ、左にミキシンググラスの中身を流し入れる。ミントを飾る。
「おまたせしました」
右に赤、左に青味を帯びた紫が沈んでくる。1歩踏み外すと死の「命ぎりぎりの青春」。その味わいは、哀しいまでに軽やかだった。[ No.192 ]
早暁の出撃
Handle : ”ノースロップ” Date : 2000/11/19(Sun) 05:28
Style : カゼ◎アラシ●カブトワリ Aj/Jender : 30代後半?/男
Post : フリーランス
> 「おまたせしました」
「ああ、すまないね…。」
ノースロップはグラスを手に取り、少し傾けながらカクテルを眺める。
「…あのときの空に…よく似ておる…。」ぽつり、と呟く。
10年前、彼の最後の出撃の日。旧ヨーロッパのうら寂れた前線基地。それまでも危険な任務ばかりだったが、今回の作戦もまた過酷なものだった。
相手は地上戦艦、自戦力は12機のおんぼろガンシップ。地上にも上空にも援護はない。
「これをこなせば君はもとの部隊に戻れる。生きて帰ることを考えろ。」
最大の友人でもっとも尊敬する上官はそう言った。
「大佐こそ…みどりさんが待っておられるでしょうに…。」
ノースロップの言葉に大佐は微苦笑し、空を見上げた。
ノースロップもまた空を見上げる。そこに拡がるのは不気味な朝焼けの空。
……
カウンターでノースロップはふとポケットからハーモニカを取りだす。
「最後に吹いたのはいつだったかな…。」カクテルを一口。[ No.193 ]
空を舞う古き竜
Handle : ”ノースロップ” Date : 2000/12/08(Fri) 01:14
Style : カゼ◎アラシ●カブトワリ Aj/Jender : 30代後半?/男
Post : フリーランス
「…。」ノースロップはグラスに口をつける。
軽く甘い味わいが口の中に広がる。
「ふむ…。」ノースロップは目を閉じてカクテルを味わう。
『我々は彼らにはなれなかった…。』
25回の出撃を終え、全員揃って帰還した”メンフィス・ベル”のクルー。
25回目の出撃で、指揮官を失い敗れ去った”イソップ中隊”。
”Puff”の血を引くニューロエイジの魔竜はその血筋を絶やさんとしていた…。
*”Puff”…ベトナム戦争で使用されたガンシップ。C−47スカイトレインにミニガンを搭載した機体である。[ No.194 ]
負傷と戦死と
Handle : ”ノースロップ” Date : 2000/12/27(Wed) 07:04
Style : カゼ◎アラシ●カブトワリ Aj/Jender : 30代後半?/男
Post : フリーランス
カクテルを一口、また一口と傾ける。
さまざまな思い出が彼の脳裏を過ぎる。
「2番機、コクピットに被弾!機体の損害は軽微…イリューシン…負傷…しかし、作戦続行は可能…。」
機体に吹き込む風と異様な熱を帯びる脚。急速に冷えてゆく身体。
『無理はするな!撤退しろ!』大佐の声がヘッドホンから響く。
「しかし、目標はまだ!」”ノースロップ”…イリューシン大尉は食い下がる。
そうしている間にも地上戦艦からの砲火は彼らに襲い掛かり、大佐の機体が被弾する。エンジンの片方から出火していた。
「大佐!」叫んだところでどうなるわけでもない…。しかし、叫ばずにはいられなかった。
『大尉、この損害ではわたしは帰還できない。
この作戦は失敗だ…。君は残機を率いてベースに戻れ。』
そう言い遺すと、大佐の機体は地上戦艦に向けて急速に降下し始める。
「大佐!大佐〜〜〜〜〜〜!!!」彼の声は届かなかった。
そして。
『…全機に告ぐ…。甲良大佐、戦死…。直前の命令により…撤収する…。ついて来い…。』彼の声は震えていた。
ふと我に返るノースロップ。目の端にかすかに涙が浮かんでいた。
彼は隠すように涙をぬぐい、空になったグラスを見やる。
「…『プラトーン』を頂こうか…。」
バーテンダーに静かにそう告げる。[ No.195 ]
えもいわれぬ者
Handle : 【フラットライン】 メレディー・ネスティス Date : 2001/01/01(Mon) 13:06
Style : ニューロ=ニューロ◎、ハイランダー● Aj/Jender : 主観年齢23歳/女性
Post : 抹消
何時からその席に座っていたのか、リッツォは気がつかなかった。
ただ憶えているのは、かなり以前にその席に座って泣いていた女性だということだけは覚えていた。________記憶はそれだけだった。
目の前で彼女が指を組んで、じっとリッツォを見つめる。
「・・・ダンサー イン ザ ダーク」
一言だけ呟くと、彼女はその視線をカウンターの上に落とした。http://www.dice-jp.com/plus/china03/ [ No.196 ]
プラトーン (Re:負傷と戦死と)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2001/01/05(Fri) 00:03
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
ホワイト・ラム、ドライ・ジン。グレナデン・シロップとライム・ジュースをティスプーンに1づつ。シェイクして、カクテルグラスに注ぐ。
「おまたせしました」
バーンズとエリアスの対立などの人間ドラマで口当たりを柔らかくして、ベトナム戦争の狂気を再現した「プラトーン」。
そのカクテルは、美しい、濃いサーモンピンクで、どこか切ない香りが漂う。口当たりは柔らかい。だが、高いアルコール度数を反映して、喉越しは強烈だ。[ No.197 ]
ダンサー イン ザ ダーク (Re:えもいわれぬ者)
Handle : 櫻庭 誠一郎 Date : 2001/01/17(Wed) 06:59
Style : ミストレス◎、タタラ=タタラ● Aj/Jender : 62歳/男性
Post : shoot the MOVIE マスター&バーテンダー
「かしこまりました」
櫻庭は、普段通り、一礼してカクテルを生み出した。
ドライ・ジン、ドランブイ、ブルー・キュラソー、オパール・ネラ・ブラック・サンブーカ。シェイクして注ぎ、レモン・ピールを振りかける。表面に金粉を浮かせる。
「おまたせしました」
グラスを受け取ったリッツォは、盆を背中に隠して女性の前に現れた。
「目を閉じて」
言うなり、彼女の目を暖かい手で覆う。
「大丈夫、大丈夫、怖くないですから」
楽しそうにつぶやきながら、心の中で五つ数え、グラスを揺する。
「ハイ、お待たせしましたっ」
手を外し、グラスを彼女の前に突き出す。
”黒い衝撃”オパール・ネラ・ブラック・サンブーカの作り出した漆黒の上を舞う、金の粉が鮮やかに目を射た。[ No.198 ]
オパールネラ・ブラックサンブーカ
Handle : 【フラットライン】 メレディー・ネスティス Date : 2001/01/18(Thu) 00:55
Style : ニューロ=ニューロ◎、ハイランダー● Aj/Jender : 主観年齢23歳/女性
Post : 抹消
エルダーベリーの黒い果実の海に、仄かなレモン果皮とアニスの風が香る。
リッツォの声に合わせて目を開けば、漆黒の海にまるで夢の中の闇を居付けるような金粉の瞬きが瞳を照らした。
メレディーはリッツォに僅かに微笑みかけ、視線を手元のグラスに乗せている櫻庭に視線を向けた。
「私は強くなんてない。
耐えられなくなると、いつもゲームをするのよ。
ウェブの風に身を戦がせていると、
ネクサスの炎やストリングが刻んでいる色んなリズムが聞えてくるの。
そうするともうそこは夢の世界になって音楽が始まるのよ」
黒いオパールのような輝きを放つグラスを揺らしながら静かに呟く。
「気がついたら全てが見えていたの。
ネクサスが重なり合う結節点やそこから垣間見える知りもしなかった世界が初めて見えたの。
・・・想っていた人が想像もしないような地獄に溺れるのを見たわ。
その時にもう私の道は途絶えてしまって、畦道よりも酷いものになったのかもしれない」
リッツォが櫻庭に向かって不安げな視線を向けた。
「・・・・私、自分がどんな事を望んでいた人間だったのかがわかり変えているのかもしれない。
でも、それが怖くてどうしようもなく足掻いているのかもしれない」
グラスに口をつけて半分ほど飲み乾して、メレディーは視線を中に彷徨わせた。
「自分がどんな人間か理解しようとしている。
でも、自分の中のどこかでそれを恐れながらも、どうなるのかをわかっているような気がする。
心の中のもう一人の自分が、囁くのよ」
メレディーはゆっくりと静かに両手で自分の身体を抱きしめた。
「_________全てが見えてしまったから、もうこれ以上見るものは何もないのかもしれない」http://www.dice-jp.com/plus/china03/ [ No.199 ]
英雄か、袋詰めか。
Handle : ”ノースロップ” Date : 2001/01/24(Wed) 06:31
Style : カゼ◎アラシ●カブトワリ Aj/Jender : 30代後半?/男
Post : フリーランス
ノースロップは差し出されたグラスを手に取り、傾ける。
柔らかな口当たりの後に襲ってくる強烈な喉越し。
「…これが兵士の現実やもしれぬ…。」
英雄を夢見て兵士になる青年たち。だが戦場で彼らを待つのは厳しい現実と黒い死体袋。
「…英雄にもなれず…死体袋にも入れなかった…。」ぽつり、とノースロップは自嘲するように呟く。
しかし、現実はその二つだけではないことも彼は知っていた。
大佐の忘れ形見…みどりという名の少女…を託された彼は3番目の現実を選んだ。
そして。
「……。」空になりかけたグラスを揺らし、ノースロップはふとみどりのことを想った。
至らぬ養父の下で驚くほど素直で純真に育ち、いつの間にか最愛の伴侶と共に巣立っていった愛娘を…。[ No.200 ]