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dice+native
#01 (E) Accelerator 11.19

#01 (E) Accelerator  2001/11/19

 皆さんはTRPGセッションの中で、記憶に残るロールプレイを体験したことはあるでしょうか。キャラクターが世界の中に存在していることを実感した瞬間。決まった時の快感。参加者の皆と共有できる喜び。
 近年、『D&D3e』のようなプリミティヴな方向への回帰とは逆に、こうしたロールプレイ支援、ドラマティックなストーリー支援の側面を盛り込んだゲームがひとつの方向性となっているのも事実です。
 今回はそんな、広い意味での“カッコ良さ”をアクセラレートするやり方について、2つの分類に分けて取り上げてみようと思います。
 誰が最初に言い出したのか正確には分からないところですが、(E)、カッコに E をつけてカッコイイ。こいつはいいや。Copyright の (C) マークみたいでなんだかカッコイイですね。(そうか?/笑)

 1つ目の分類は今まで世に出た多くのゲームで見られる、ルールでの直接的な支援によらない、濃密な背景世界設定や世界の雰囲気を感じさせることで、プレイヤーたちに自然なロールプレイをアクセラレートするものです。
 例えば『深淵』。90とひとつの星座に支配されたこの世界はその細部の多くが謎のままであるにも関わらず、非常に独特の幻想的な雰囲気がゲーム自体から漂ってきます。謎めいた台詞が散りばめられた運命カードを見れば、何の得にならなくとも、グラム魔導学院で技を学んだ者に相応しい台詞のひとつでも言いたくなるでしょう。
 貴方がワールド・オブ・ダークネスの闇の深奥に秘せられた真実を探ることに憑かれているのならば、朧なる月夜の元でこそ輝くこの闇の世界の抗い難い魅力を知っているでしょう。気の狂ったように細かく設定された、現実の鏡であるもうひとつの世界。どこまでも美しい英版サプリメントの数々。それでいてロールプレイ支援ルールなどなく、それどころかルールさえないと黄金律が断言するこの潔さ。例え貴方の分身が始祖カインより遥かに遠い13世代のヴァンパイアだとしても、吸血種族として生きる苦悩を表現したくなるでしょう。
 diceのビジターである皆さんの多くが知っているであろう『トーキョーN◎VA』を遊んだことがあれば、そのオリジンである海外の2つの作品を耳に挟んだこともあるでしょう。
 Yes、チューマ。お前の思っている通りだ。『サイバーパンク2.0.2.0』はその全編を通し、“サイバーパンク”であるとはどういうことかを語っている。危険の匂いが波動になってビンビン伝わってくる真夜中のナイトシティを歩く時、神経に埋め込んだケレンジコフと腰のアラサカ・ミナミ10の他に何が必要なのか、お前は勿論知ってるよな。
 そしてチャマー。『シャドウラン』には主人公を助けるルールはカルマ・プールぐらいしかない。しかしお前なら分かっているはずだ。マヤの秘暦に従って魔法の蘇った21世紀。ドラゴンがメガコープのCEOに収まり(おっと、暗殺されちまったな)、俸給奴隷が番号で管理される世界。この第六世界で真に自由なのが罪なきランナーだけだってことが、どんなにゾクゾクすることかをな。
 この種のゲームの利点は明らかです。共に魅力を分かち合えた人間同士であれば、無理に促すこともなく自然なロールプレイでセッションを盛り上げることができます。本当に (E) 一瞬とは強制ではなく自然に生じるものです。究極的には、こちらの方法の方が優れているのかもしれません。
 そして欠点もまた然り。得てして大作になりやすいこうしたゲーム、まず創るのが大変です。そして実際に読んで遊ぶ側も大変です。ぱっとサプリメントの山を渡してこの雰囲気を悟ってくれと頼むわけにもいきません。時間が限られたセッションでは、とてもとてもその魅力を堪能しつつ (E) さ全開で遊ぶわけにはいきません。

 2番目の分類は見当がつくでしょう――最近のFEAR社系の一連の作品に特によく見られる、ロールプレイによって恩恵を得られるルールがシステムの中に組み込まれており、それによって (E) プレイをアクセラレートするものです。
 ルール処理は幕間に行うことで旧作の気合取得の煩雑さをなくし、新機軸を盛り込んだ『天羅万象・零』。チップという目に見える形に恩恵を具体化し、西部の雰囲気を出している『テラ・ザ・ガンスリンガー』。設定上の理由付けもされており、少年少女の感情の高まりがそのままエーテリックとなり、人類を救う希望の光となる『ドラゴンアームズ』。など、など‥‥。以前から様々な形でこうしたルールを盛り込んだゲームは存在しました。
 この種のゲームの利点も明らかです。何をすれば自分のキャラクターが有利になり、セッションにおける障害を克服できるのかが分かっている。それであれば誰だって喜んで (E) ことをしてきます。対人関係のルールがあれば初対面の人が相手の時や時間の限られたコンベンションでも大丈夫です。多くの場で、手軽に (E) く盛り上がるセッションを開くことができるでしょう。
 そして欠点もまたこのルールの中にあります――こんな風に思ったことはないでしょうか。
 ラストでデータ的に猛烈に強い長年の敵との決戦を控えているがゆえに気合ロールを猛烈に繰り返す序幕。自分がサムライとして持っている誇りはこんなものなのだろうかと。
 あるいはテラガンをプレイしていてカラミティ・ノワールが回ってくる度に、「ああ、なんか (E) ことを言って次に回さなくちゃ」とプレッシャーを受けてしまったことは? 必要最小限なことしか言わない無口な渋いガンマンは多くの西部劇に登場します。でもそれよりやたら口数の多い軽めの兄ちゃんの方がチップはリッチになりやすいのは、テラガン世界の西部の掟では公平なのでしょうか。
 あるいはドラゴンアームズで刻一刻と迫るクライマックスのMIST襲来を前に、必死にノーマルシーンでエーテリック上昇を図っている時に。自分たちは超巨大戦艦バハムートの生体発電機ではないのかという疑念が頭を掠めることはないでしょうか。おやおや、DAパイロットの適性保持者に感情の制御ができない未成熟な少年少女が多いのは、もしかしたら何か世界の陰謀なのでは?
 こちらの分類のゲームは下手をすると「その場しのぎの適当な (E) プレイ」を繰り返すセッションになってしまう悪しき可能性をも有しています。毎シーン毎シーンなんかテキトーにカッコつけて、強くなってサクッとラスボス倒して終わり。うーん、それって本当に (E) んでしょうか。(E) プレイはTRPGのひとつの側面でしかありません。カッコつけることだけ考えているのでは、障害の克服や謎解きといった、TRPGの競技的側面が下手をすると薄れてしまいます。(そもそも勝敗がないのだからTRPGはゲームではないというのも正しくはありますが。)
 それにいつもいつも常時 (E) ければそれで良いというわけでもありません。そんなものを意識しないふつうのプレイだって同等以上の価値があります。それに普段の言動に反し、ある人物がひとつの物語の中でたった一度しか呟かない台詞、たった一度しか行わない行動だからこそ、真に光り輝く一瞬というものも存在します。また基本的な問題として――If (E) or Not (E) のデジタルな線引きは、どこで決めればいいのでしょう?

 さて2つの分類に分けて述べてきましたが、どちらの方が優れているのでしょうか。あるいは、ここdice流のオピニオンでは、どちらをアクセラレートする側なのでしょうか。
 無責任ですが、結論はありません。(笑) (E) さの尺度は人によってある程度の差異があります。デジタルな線引き、定量化は為されていないからです――むしろ、定量化されてしまってはいけないもののような気さえしてきます。
 とはいえ、エンターテイメント・アクセラレーターたりたいと願うdiceのコラムとして、(E) プレイにささやかなアドバイスを。

 イマジネーションを加速しましょう。

 皆さんはきっと、小説や映画や漫画やアニメを見て偶然、自分の分身とそれに近しい面々が本来立つべき場面、本来口にするはずだった言葉のデジャ・ヴを感じたのでしょう。ふと耳に入った音楽の旋律の中に、その向こうから聞こえてくる律動を感じたのでしょう。白黒2色の文章の行間に、豊かな色彩のある世界を幻視したのでしょう。
 それでいいのです。その気持ちを加速し、向こうの世界まで拡張しましょう。あなたの分身が何を見、何を感じているのかを知覚しましょう。呟きの背後に輝く不夜城の光を、ただ一発放たれた銃弾に込められた深い思いを知覚しましょう。心の感覚を研ぎ澄ますのです。
 キャラクターを創る時に少し考えるのもよいでしょう。ルールは熟読したか? 最強のコンボと最適な装備を揃えたか? あらゆる状況に登場できる社会判定と安定した達成値は持ってるか? 世界最強の設定があるって? フーム、ところで、このキャラの強さはそれだけかい?
 わかるだろチューマ。お前なら勿論Noって答えるよな。加速してないと、こいつは視えないのさ。
 加速する時は静かにやれよ。連中に分からないぐらいにだ。真に (E) シーンは意識せずに自然の中に生まれ、一瞬のうちに輝くものだ。
 それから加速してる相手には敬意を払えよ。加速した自分しか視てないのは、加速してないのと同じだ。たとえ視えてても互いにビョーキだって罵りあってちゃあ、いいプレイは生まれないぜ。

 拡張された知覚が向こうの世界まで届きそうになった時、そうして生み出された物語はきっと、その場しのぎの (E) さとは違う何かの光の素子を含み、運命の舞台を眩く照らし、貴方たちの心に刻まれることでしょう。
 願わくばこのdiceが、そのささやかなアクセラレーターでありますように。

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 ダイス+ネーティヴ。diceはTRPGの基本デバイス。貴方が今見ているこのウェブサイトの名。ネーティヴは本来の適応、自然のままの固有の何か。生まれつきのTRPGゲーマーのことか、それともdice流Onlyのナチュラルなオピニオンに付加される形容詞の暗示か?
 きっとそのどれでもない。わかるだろ、意味なんてないのがニューロってもんさ。
 バラエティに富んだdiceのコラムシリーズですが、ここではビジターの方々の多くにとって本題だと思われる(笑)TRPGに題材を取り、つらつらと何か載せていく予定です。どうぞよろしくお願いします。(^o^)

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